第31話 ジェネラルと――
side山本先輩
「今なんと言いました!」
佐藤家の動きを、私室にある複数のモニターで逐一送られてくる情報を精査している。
そこへ車で移動中なのか、ノイズが混ざった音声がスピーカーからとんでもない情報をもたらした。
『はっ、はい! かねてよりオーバーフローを進めていたEランクダンジョンが動き始めましたと、門番をしているものから成瀬家へ連絡が入ったものを傍受いたしました』
「……それは確かですか?」
『はい。成瀬家の暗部たちがダンジョンに向けて移動を始めましたので間違いはないかと』
スピーカーに表示されている番号を見る。
成瀬家に張り付かせていた者の番号ね……。最悪なことに間違いはなさそうだわ。
「なぜ……。後、一ヶ月はかかる予定でしたのに」
「電話の内容から、成瀬家の嫡男、聖一様とその分家、橘の者がダンジョンへ入った後起こったとか。愚考ですが、そのお二方が何かしらを行った可能性があるかと」
「っ! あの馬鹿! あれほど大人しく動くなと言っておいたのに! それにこんな時に護衛はついていなかったの!」
『はい。常々聖一様が無用と。しかし通常ですと暗部の者が影から護衛についているのですが……』
「何をやっているのよ成瀬家の暗部は! ……はぁ、その感じだと、ついていたか、いなかったかわかってないのね」
『……はい』
聖一君から電話をもらったあの時、二葉ちゃんと居た場所は成瀬家系列のラブホテルだったわね……。
考えられるのはそこで目を離したか、別件で持ち場を離れざるを得なかったか、ね。
今さら何がどうとか、責任がなどと考えても仕方がないわね。責任は聖一君にあるに決まっているし。
どうせ聖一君がやらかした、小火と、警察に入った暴行のことを揉み消すために奔走していたってことでしょうから自業自得ね。
今はそれより――
「それで、山本家に連なる施設の防衛機能は大丈夫なのよね?」
『はい。一ヶ月後を見越して、すでに整っておりましたので万端ではありますが、凛お嬢様はご家族と合流して街を離れるか、シェルターに移動をなさってください』
「そうね。わかったわ、五分後に移動を始めるからヘリを準備なさい」
『はい、ではそのように』
ジジと回線が切れたノイズ音が部屋に響く。
「成瀬家も終わりかしら? それとも第二婦人の子を祭り上げることも考えられるわね……本妻が黙ってないでしょうが、ね」
どうでもいいわ。成瀬家がどうなろうと、佐藤家が豪の奪還を失敗して、別のものが当主となったとしても。
手駒として動かす分には都合が良かったのだけど……。
どのみち山本家が……いえ、私が日本を動かしていく計画に変わりはないわ。
せいぜい今のうちに弱体化してもらう分には手間が
ガウンを脱ぎ捨て着替えをすませる。
「出る用意はできたわ。ヘリの準備はいい?」
誰もいない方向へ話しかけると――
『整っております』
――当然のように返事が返ってきた。
ふふ。しばらく高みの見物をさせてもらうわね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジェネラルが叫ぶ。お腹の底に響くような声で四匹が一斉に。
『『ゴガアァアアアアアアアア!』』
「くうっ! これは――」
「レイ! 気をしっかり持つのじゃ! こけおどしで怯むでないぞ!」
トッと俺の横に飛んできたタマちゃんがその大きな尻尾でポフッと一度だけ包んでくれた。
それだけで固まってしまっていた体から緊張が抜け、落としそうになっていたワンハンドソードと特殊警棒の柄を握る手に感覚が戻った。
「ありがとうタマちゃん。もう大丈夫!」
「駄目じゃ下がっておれ。あの四体はわらわと前鬼、後鬼に任せてもらおう。レイはヒーラーを頼むのじゃ」
「え? 俺もジェネラル――」
「駄目と言ったら駄目なのじゃ!」
「俺じゃ無理ってこと!? 大丈夫だよタマちゃん。まだ今日は出してないダブルがあるから――」
「駄目なのじゃ! ……あのジェネラルは消えた四人。元人間じゃ」
「は?」
どう言うこと、だ、人がジェネラルに? どうして……。
「わらわと前鬼、後鬼であれば問題ないが、レイに元とはいえ人を殺すことができるのか? いや、できたとしても、わらわはやって欲しくないのじゃ」
あのジェネラルを倒せば人殺し……。だったら――
「元に戻す方法はないの? なんとか捕まえて――」
「……できぬことはない」
「だったら!」
「――じゃが、わらわには戻せぬのじゃ、戻せるとすれば異なる世界よりこの世に訪れたハイエルフと呼ばれる者だけじゃ。なまじ戻せたとしても自我が残る可能性は、海に投げ捨てたひと粒の砂粒を探し出すほど奇跡が起こらねば無理なのじゃ」
大きくなったタマちゃんの真剣な赤い目に俺が映る。その目は嘘など吐いてない、まるで以前に経験したことを思い出したかのように潤んでいた。
だから本当に無理なんだと語っているのがわかった。
じゃ、じゃあこのジェネラルになった人たちは――
「それに戻すには時間もないのじゃ。こやつらの気配が消えて約二時間。戻すとなれば後二十二時間でハイエルフを探し、こやつらの前に連れてこねばならんのでな……」
「そ、そんな」
「じゃから自我が残っているにもかかわらず、体は狂気に染まり、外に出れば同族を手当たり次第殺しまくる苦しみを味わうことになるのじゃ。そんな苦しみ、……この場で解放してやるのがこの者たちのためでもあるのじゃ……レイ許せ」
でもそれじゃあタマちゃんが人を殺すのと一緒じゃないか……っ! そんなのは駄目だ! どうすればいい……っ! ハイエルフだ! でも探せるのか? 探してここに連れてくることはできるのか?
……ぐだぐだ考えてる場合じゃない!
「タマちゃん! もうすぐ探索者ギルドから救援も来る! 探索者ギルドならそのハイエルフって方の居場所を知っているかも知れない! だからギリギリまでお願い! 殺さないで!」
「何んと……じゃがしかし、わらわのこの姿を見せるのは……、ええい! レイの頼みごとじゃ! やってやろうではないか! 前鬼! 後鬼! わかっておろうな! ジェネラルはわらわがサクっと生け捕りにするのじゃ! その他の小鬼は潰してしまうのじゃ!」
「ありがとうタマちゃん! お願いね前鬼さんも、後鬼さんも!」
ホールの中央手前で止まったジェネラル。それを追い越すように次々とゴブリンたちが押し寄せる。
絶対通さないし、絶対元に戻すんだ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます