【NTR+裏切り≠ぼっち】捨てられた俺は、騙され搾取されていた君と、友達から始めました

いな@

第一章

裏切り

第1話 裏切りと身代わり

 信じられない光景に目を疑った。日の短くなった放課後の教室で抱き合っている二人。ほんの十数分前に、『レイ。今週末の映画デート楽しみだね』と言って笑いあってた彼女が……。


 なけなしの勇気を出して告白し、初めてできた彼女が親友とキスしているからだ。俺とはまだ手も繋いだこともないのに。


「そろそろ待ち合わせの時間か。こんなところをレイに見られたら終わりだな、二葉ふたば


「んふっ。そうだけど、レイって唯一のスキルLv持ちだけど、それだけじゃない」


「まあな」


「それにレイくんとは元々聖一のために仮で付き合っただけ。強~い聖一せいいちの方が最初から好きだったんだもん」


 頭が真っ白になった。甘い空気を醸し出し、俺をけなしながら続く包容とキス。


 ……俺が、悪、いのか……。弱いから。初めから俺より……。なんなんだよ……。訳がわかんないよ……。




 頭が働かない。




 この場から離れようにも体が動かない。




 叫びだしたいのに、声すらも出ない。




 流れ出て頬を濡らす涙も拭えない。


 扉の隙間から見える光景と、二人が交す言葉を聞いていることしかできなかった。


 どれ程の時間見せられたのか、もしかして数秒だったのか。二人は離れ、身だしなみを整えてはじめる。


 その様子にガンガン痛む頭と胸、ふらつく足。でも一刻も早くこの場を離れたい。その願いに体は答え、ゆっくりと教室から離れてくれた。





 どこをどう歩いたのかわからないがトイレにたどり着いたようだ。鏡に映る情けない涙濡れの顔をした俺。


 洗い、流さなきゃな。


 涙と水が流れ、排水溝に消え続ける洗面台に手をついて、ゆっくりと顔を上げると鏡に映る自分の顔が見える。




 今もまだ水じゃないものが流れ続ける泣き顔だ。




 はは……、情けない顔だな。




 パン!


 おもいっきり頬を挟むように叩き、その音がタイル張りの壁に響き渡った。


 そうだよな。俺と聖一なら選ぶのは決まりきってる。選ばれるのは俺じゃなく聖一だ。顔は当然。家柄も祖父が地元の名士と聞いた。本人も今はCランク探索者だが、Bランク昇格も近い。


 それに対して俺は比べるのが馬鹿らしいくらいだ。親無しで、身寄りもない。顔だって……。


 俺に何があるか……スキルにレベルがあるだけのFランク探索者だ。まわりからは期待されていたし、強くなろうと頑張って来たと思う。


 ……けど、唯一の身体強化Lvは去年4にまで上がったけど、まったく強くなっていない。


 そうか……なるべくしてなったのか。信じていたものに裏切られる。そんなの漫画や小説、ドラマや映画の中だけだと思ってた。実際に体験すると、ここまで辛いとは思いもしなかった。


 ハンドタオルでしたたる水滴を拭い、無理矢理いつもの笑顔を鏡に映す。裏切られたことに気づいているとバレないように。寝取られていたとしても。


 今の関係を壊すのが怖いだけなのかもしれない。早くに事故で両親を亡くし、意識の戻らない妹の三久みくが唯一の家族なった。


 それ以外何もなかった俺にとって大切で、この世で出会えたかけがえの無い二人。


 その二人が……。二葉のことは真剣に好きだ。聖一の事だって。


 さっきの会話で分かってしまった。二葉の心は俺じゃなく、聖一に向いているって。将来的に。いや。最初から……。


 このまま気づかないふりをしていれば変わらずにいてくれるかな。




 気づいていると、おくびにも見せることの無いようにすれば――。







 予定通りに待ち合わせていた教室へ向かい、少し開いている扉を握りしめながら開いた。


 笑顔を張り付けて。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「レイ! HP回復薬だ!」


 そろそろかと思っていると、佐藤先輩から薬の依頼が飛んでくる。


「はい!」


 言われたHPだけじゃなく、MPの回復薬もあわせて四本ずつあるかウエストポーチを手探りで確かめる。回復薬は大丈夫だ。


 二人のところまで行くのに邪魔なゴブリンが四匹。……目潰しが必要だな。


 素早く邪魔になる武器を腰の鞘に戻し、バックパックの左右にぶら下げてある目潰しの袋を両手にひとつずつ握る。


 紙風船の感触を手に感じ、追いかけてくるゴブリンと、みんなの位置をもう一度確かめた。


 長剣使いのリーダー佐藤 ごう先輩と、槍使いのサブリーダー山本 りん先輩がペア。


 同じく槍使いで、彼女、……だと思っていた二葉は両刃の短剣二刀流で、親友だと思っていた聖一が組んでいる。


 そして荷物持ち兼、雑用の俺。一応武器は片刃のダガーを装備している俺をあわせて五人パーティーだ。


「魔力もヤバいわ! MPもお願い!」


 山本先輩から予想通りの依頼が来た。俺以外全員が武器に魔法を纏わせ攻撃しているため、MPも激しく消費してしまうからだ。


 まずは、十匹以上と対峙している先輩たちから行こう。


 もう一組は、……いや、今は考えるな。


 あっちは八匹だ。あの二人なら先輩の後でも余裕をもって対応できる。


 順番は決まった。いつもより多い、俺の方へ突っ込んでくる四匹のゴブリンに目線を戻す。


 ゴブリン三十匹が同時に出てくるダンジョンの罠、モンスターハウスの周回で経験値を荒稼ぎしている最中だ。


 攻撃系のスキルが未発現の俺にできることは、こうやって何匹か引き付け逃げ回りながら、後方からの支援だけ。


 集中しなきゃな。


 追い付かれないように、それでいて離れすぎないように走り続けている俺は、乱戦中のゴブリンの攻撃を躱して走り回り、回復薬を届けに行かなければならない。


 自分にできる唯一のスキル、身体強化をかける。通常なら筋力なんかもも強化されるけど、俺が強化されるのは微々たる防御力だけ。それでも無いよりマシだ。


「よし、行くぞ!」


 ダンと石畳を踏みしめて止まり、回れ右でゴブリンに突っ込む。


 なんだ! いつもより体が動くぞ! もしかしてLvが上がってやっと倍率が、って考えてる場合じゃない!


 逃げ回っていた俺がいきなり突っ込んで来たことに驚きながらも掴みかかろうと手を伸ばしてきたが、横をすり抜け、先頭の一匹目を置き去りにする。


 体が軽い!


 次の二匹は同時に突っ込んでくるようだが、目潰しを二匹の顔めがけて投げつけた。


 ボフッ――


 狙い通りゴブリン二匹の顔に当たり、衝撃で紙風船が弾けるように破れ小麦粉が広がる。


 目潰しが効いた二匹の間に体を滑り込ませ走り抜けたが、四匹目が回り込んでいた。


 ――ヤバッ!


 こん棒は振り下ろされ、頭と耳を掠め、避けきれなかった肩に食い込んだ。


「がっ!」


 こんな時に!


 三匹のゴブリンを躱した目線の先に二人がいた。二人は助け合うように戦っているのが見えた。


 肩を並べて対峙しているのを見て、数時間前の教室の出来事が頭をよぎってしまったんだ。


 こんな時にゴブリンから意識を外すなんてバカか!


 あまりの痛みに膝が崩れ倒れ込こんでしまった。そこへ躱して置いてきた三匹も追い付き腕とこん棒を振り落としてくる。


「レイがヤられた! 作戦通り! 急げ! ここは引くぞ!」


「やっとね! 聖一君、二葉ちゃん急いで逃げるよ!」


 当たる寸前でバックパックをずり上げて頭を守り、足をたたんで体の下に入れておく。


 ドンッ――ドンドンッ――


 亀のように体を丸めた俺に衝撃と痛みが襲いかか――


 なんだ? 不意を突かれた肩より思ったより、背中に痛みがこない。いや、今は先輩たちが来るのを待つだけだ。


 位置的に入口に一番近い俺の方へ四人は戻ってくる。そうすれば攻撃しているゴブリンたちも、警戒して俺から意識が離れるはずだ。その時が逃げるチャンス。


 打撃音が響く中、足音が近づいてくる。


 もう少しだ!


「レイ! お別れだ!」


「これで依頼完了ね!」


 佐藤先輩と山本先輩の声がなぜか遠くで聞こえたが何を言ってるのか聞き取れなかった。


「レイくんバイバーイ! 化けて出ないでね!」


「ちゃんと死ねよレイ! 俺たちのために!」


 二人の声も遠く聞き取れない。バタンとモンスターハウスの入口が閉まるような音が鳴り響いた。


 嘘だろっ!


 手で体を起こす。同時に曲げていた足を伸ばして目の前のゴブリンに体当たりして押し倒した。


 肩に激しい痛みが襲いかかってきたが構ってられない。顔を上げ、入口を見ると信じられない光景が目に映る。


 みんないない! 入口も閉まってる!


 バックパックを振り回し、二匹にブチ当てた。


「退けっ!」


 ドンッ――


 二匹は弾けたように吹き飛び、その後ろにいた奴等を巻き込んで倒れた。


「なんだよこの力は! ちっ! 来るな!」


 壁になっているゴブリンに向けてバックパックを投げた。


 ブオンと非力な俺が投げたとは考えられない風切り音と共に凄いスピードでゴブリンたちに飛んでいく。


 二匹のゴブリンに当たり吹き飛ばし、残りの壁になっていたゴブリンたちも、恐れたのか左右に別れ前が開た。


「行ける!」


 ダガーを不馴れな左手で持ち、入口に向け走る。


 残り三メートルを走り抜け、扉に手が――


『ゲキャギャ!』


 そこを狙い済ましたようにモンスターハウスのレアボス、メイジゴブリンが何か叫んだ。


 メイジが俺に向けた杖から撃ち出されたのは、火の玉ファイアボール


 伸ばした左手が扉に触れる寸前、火の玉が横っ腹に直撃した。


「いぎっ!」





 ――――――――――――――――――――


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