第3話 データ収集の実態

ラシュコフから渡された連絡先を手に、リサはホテルの一室に籠もり、慎重に準備を進めた。彼女はマイクロソフトの内部告発者にコンタクトを取るため、暗号化された通信アプリを使ってメッセージを送信した。匿名のまま詳細を話すことを望むというその人物との接触は、今回の調査の要となる。リサの心臓は鼓動を速めていた。彼がどのような情報を持っているのか、それは彼女の次の行動に決定的な影響を与えるはずだった。


しばらくして、通信アプリに返信が届いた。「情報を伝える準備ができた。だが、安全のため、直接会うことはできない。」メッセージには、指定された時間に特定のウェブサイトにアクセスするようにとの指示が書かれていた。リサは指示に従い、指定された時間にセキュアなブラウザを通じてそのウェブサイトにアクセスした。


画面には音声のみの通信画面が現れ、リサはヘッドセットを装着した。「これで聞こえますか?」彼女は緊張しながら問いかけた。


「聞こえています。」声は低く、冷静だった。「あなたがリサ・カーターですね。私はあなたに伝えるべきことがありますが、全てを話すのには時間がありません。マイクロソフトはユーザーデータを単なる製品開発のためではなく、もっと深刻な目的のために集めている。」


リサは画面を見つめ、続けて質問した。「彼らの目的は何ですか?私たちが普段使っているWindowsやOffice製品は、どのように使われているのですか?」


告発者は一瞬の沈黙の後、重々しい声で答えた。「マイクロソフトは、あなたが想像する以上に巨大なデータ収集ネットワークを構築しています。Windows 10やOffice 365は、そのための入り口に過ぎません。これらの製品は、ユーザーの行動、コミュニケーション、位置情報、さらには生体データまでを収集し、分析するためのツールなのです。」


リサの心拍数が上がった。「生体データ?一体何のために……?」


「彼らは、AIとビッグデータ解析を使って、個々のユーザーの行動を予測し、制御することを目指しています。表向きはセキュリティの向上や利便性の提供を謳っていますが、その実態は、社会全体を監視し、制御するためのインフラ作りです。マイクロソフトは、このデータを政府機関や他の巨大企業と共有し、監視システムの構築に手を貸しています。」


リサは頭を抱えた。彼女の最悪の予感が現実のものとなっている。「彼らは私たちの日常を監視し、未来を操ろうとしている……。この情報を公開するには、具体的な証拠が必要です。あなたが持っているのは、内部文書や具体的なデータですか?」


告発者の声が少し低くなった。「証拠はある。だが、あなたがそれを手に入れるのは簡単ではない。マイクロソフトは極めて厳重なセキュリティと、従業員に対する監視を行っている。彼らのデータセンターには、証拠となるデータが保管されているが、アクセスするにはリスクが伴う。」


リサは一瞬迷い、しかし強い意志を持って答えた。「リスクを冒す価値はあります。これは、私たちの未来のための戦いです。あなたの協力を求めます。」


告発者は静かに息を吸い、最後に言った。「わかりました。私はあなたに、データセンターへのアクセスの手がかりを提供します。しかし、気をつけてください。彼らはあなたを見ています。行動を慎重に。彼らが真実を暴かれることを何よりも恐れているのですから。」


通信が切れると、リサはしばらくの間、部屋の静寂の中で思考を巡らせた。彼女は今、巨大な闇の入り口に立っている。その闇を照らすための証拠を手に入れるには、さらなる危険を冒さなければならない。しかし、彼女にはその覚悟があった。


リサは自分の心を落ち着かせ、次の行動計画を立て始めた。マイクロソフトのデータセンターへの潜入と、そこでの証拠の確保。それはまるでスパイ映画のような任務だったが、彼女はこれまでにないほどの決意に満ちていた。


「彼らの真実を暴くために……私はどこまでも行く。」リサはそうつぶやき、ラップトップの画面を閉じた。次の戦いが、彼女を待ち受けていた。

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