第5話 鬼
楓は手を叩き、金の花びら達を消す。
ふぅ、と息を吐いてから二人の方を向いて話しかける。
「終わりました。確認してください。呪いはもう消えているので」
楓は二人にそう言う。
「あ、ああ……」
二人は未だに金の世界から抜け出せずにいる。
息子が助かったというのに。
仕方ないことだとわかるが、楓はそんな二人に少し薄情だと思わずにはいられなかった。
「ほ、本当に消えている」
桐生は息子の体にあった呪いの痕が消えているのを見て驚く。
縋るような思いで、この日を待ち望んでいたが本当に助かるなんて思ってもみなかったのため信じられなかった。
「すお、楓殿。本当に感謝する。ありがとう」
蘇芳と言いかけてやめる。
きっと苗字で呼ばれるのは嫌だろうと思い。
夏梅は息子の体を強く抱きしめ礼を言う。
「いえ。私は約束を果たしたまたです。用は済みましたので、私はこれで失礼します」
邪魔者は消えるべきだ。
そう思い、部屋から出る。
さっき薄情だと思ったのは撤回するべきだな、と二人の姿を見て思う。
泣くほど喜んでいた。
本当に大切な存在なのだ。
'私とは違いあの二人は愛されているんだな……'
少しだけ親の愛情をもらえる二人が羨ましかったが、両親からの愛情などもう望んでいないので悲しくはなかった。
これ以上しんみりするのは性に合わないので、美味しいものでも食べて気分をあげようとお高いお肉を食べることにした。
「ふぅ。食った、食った。満足だわ」
会計を済ませ、店から出ると私はお腹をさする。
久しぶりにお高い店に来たからか、先程のことなど忘れてお肉の美味しさに浸っていた。
お肉を食べているとき、昔助けた男がいるアイドルの曲が流れてきて、元気でやってるんだなと安心した。
さっさとホテルに戻って風呂に入り、今日は寝ようと思ったそのとき、スマホが鳴った。
嫌な予感がするな、と思いながら電話に出る。
「はい。もしもし……」
『楓様。鬼が出ました』
鬼。
陰陽師達の中で鬼と言えば二つの意味がある。
一つは妖怪。
そのままの意味を示すもの。
もう一つは死んだ人間が鬼となることを示すもの。
普通、死んだら魂はあの世に逝くが、現世に未練や憎しみがあるものは稀に鬼となって留まってしまうことがある。
ただ未練があり、留まるだけなら問題はないが、ここに自分がいるのに認識されない悲しみから負の感情が湧き上がり生きている人を殺すということがよくある。
死んだ時に憎しみや恨みを抱いていたもの達は言うまでもなく、生者を殺す。
鬼は四つの等級にわけられている。
悪、怜、凶、魔。
悪が一番弱くて、魔が一番強い。
'私に連絡がきたということは、今回の鬼は魔か'
面倒くさいが行くしかない。
楓はこの依頼が妖怪の鬼ではなく死んだ人間が鬼になった方だと確信していた。
理由を聞かれたら勘としか答えようが、楓は今回の鬼は妖怪ではなく勘を外したことが一度もないので間違いなく死んだ人間が鬼になった方だ。
「わかった。すぐ行く。場所送って」
そう言うと電話を切る。
すぐにメールで場所が送られてくる。
楓は場所を確認すると、人がいないところまで移動する。
周囲に人の気配がないことを感じると扉を開ける。
鬼がいる山には行ったことがないが、その近くには行ったことがあるので、そこと今いる場所を繋げる。
「思った以上にやばいわね」
扉を渡り、指定の場所まできたが瘴気が濃い。
一般人なら即死。陰陽師でも上位のものでなければ死は免れない濃さだ。
「これは私に連絡くるはずだわ」
楓は瘴気に当てられない唯一の人間。
普通陰陽師は、結界、式神、攻撃、幻覚、治療、浄化の6つに区分され、どれか一つを使える。
中には2つ、3つ使えるものもいるが、楓はこれら全てを完璧に使える。
故に最強陰陽師と言われている。
つまり、楓が倒せない相手は誰にも倒せないということになる。
楓は絶対に負けることを許されない立場。
昔はそのプレッシャーに押しつぶされそうになったこともあったが、今ではなんともない。
負けることなどあり得ない。
そう言い切れるほど血の滲む努力をしてきた。
今回も必ず勝つ。
そう意気込み、楓は鬼のいる場所へと向かう。
※※※
「あなたがこの正気を発している鬼ね。悪いけどやめてくれるかしら?」
楓はなるべく穏便に済ませようと優しく話しかける。
「嫌だと言ったら」
鬼はニタリ、と気持ち悪い笑みを浮かべる。
「殺す」
鬼の笑みを見て話の通じる相手ではないとわかり、作戦を変更する。
楓は人差し指で親指を切り、地面に血を落とす。
血が地面に落ちると、そこから陣が浮かび上がる。
陣は楓と鬼を中心に半径10メートルほどの広さで現れる。
もう一滴地面に血を落とすと今度は剣が浮かび上がってくる。
楓はそれを手に取り、攻撃を仕掛ける。
鬼も楓を殺そうと攻撃してくる。
刀同士がぶつかる音が響く。
キンッ!
「終わったわね」
鬼との死闘になんとか勝ち、殺された者達の魂を浄化する。
黄金の花びらが宙を舞う。
美しい世界に似つかわしくない声が響く。
「ふざけるな!どれだけ長い年月をかけて強くなったと思ってる!あのお方に認められるまでどれだけ時間を費やしたと……!お前如きのせいで、我々の計画が潰されるなどあってはならない!」
「五月蝿いわね。敗者は敗者らしくさっさと死になさい」
楓は凍てつくほどの冷たい視線を鬼に向ける。
「人間め!このままでは済まさん!呪ってやる!」
「どうぞご自由に」
死にかけの鬼の戯言にいちいち付き合ってられない。
「フンッ!いつまでそんな態度が取れるか見ものだな!我々の悲願を邪魔したお前には……」
「いい加減消えて」
これ以上鬼の戯言を聞く気にはなれず、刀を振りを下ろす。
「ようやく静かになったわね」
鬼が消えたのを確認してから、山を浄化し、ホテルへと戻る。
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