第2話 力

「ここね。思った以上に酷いわ。本当に時間がないわね」


楓は龍から降り式神を解除する。


水はそのまま地面へと落ちていく。


「さてと、主はどこにいるかしら」


今度は銀の蝶を使って一歩も動かずに山の中を捜索する。


10分後。


「見つけた」


私は地面を蹴り、主のいるところまで最短ルートでいく。


「初めまして。私は蘇芳楓(すおうかえで)と言います。名を言うことはできますか?」


「……」


主はピクリとも動かない。


これは非常にまずいな、と最悪な結末になるかもしれないと覚悟をする。


自分の名を言えない可能性は二つ考えられる。


一つは体を動かせない場合。


もう一つは名を汚され自分が誰だかわかっていない場合だ。


前者なら助かる可能性は高いが、後者なら基本助からない。


いや、助けようとしない。


理由は簡単だ。


汚された名を浄化できる陰陽師が少ないからだ。


莫大な霊力、何時間も浄化作業をするための集中力、精神力、体力が必要になる。


それら全てをもつ人間などそうそう生まれない。


だが、楓はこれら全てを持っていた。


霊力は生まれつき才能としか言えないが、残りは全て血の滲むような努力をし続け手に入れた。


二度と後悔しないために、そう自分に誓って。


「これより浄化を始めます。あなたを傷つけることはしないとお約束します。信じられないと思いますが、必ず救います。では、舞います」


楓は淡々と言うと扇子を取り出し、浄化のため舞う。


楓が舞いはじめてすぐ風が吹いた。


まるで風が楓と一緒に舞うかのように。


風で花びらが舞う。


生きているかのように人間の女の舞に合わせるかのように。


楓を中心とし、そこから少しずつ山が浄化されていく。


全てが終わったときには日付はとっくに変わっていた。


まだ太陽は出てきてないが充分空は明るかった。


疲れた、そう思いながら主に笑いかける。


「人間の小娘……いや、蘇芳楓。ありがとう。お陰で助かった。この恩は一生忘れない」


主からお礼を言われ、少し世間話をしてからホテルへと帰る。


次くるときは酒と美味しいおつまみを持ってくると約束した。



力を結構使ったので、これ以上使うといざというとき戦えなくなるのでタクシーを使う。


タクシーの中でウトウトしていると、ふと視界に入った光景を見て一気に目が覚める。


空気は澱み、森は荒れ果て、大地は枯れていた。


ついさっき浄化した山と同じ、いやそれ以上に酷かった。


'ここはどこだ?それよりもさっきよりここは酷い。伊織のやつこうなる前に連絡よこせっつってんのに!ここから浄化するのがどれだけ面倒だと思って……!いや、今はそうじゃない。この件は後回しだ。それよりどうして私がここにいるかだ。この運転手は人間だが……まさか、呪詛師か!?'


楓の予想は当たっていた。


正体に気づいたのと同時に攻撃を受けた。


「やったか?」


「馬鹿か!おまえは!いくら浄化で体力を消耗しているからといって、相手はあの蘇芳楓だぞ。この程度で死んでるならとっくの昔に死んでるならはずだ。気を緩めるな」


「その通りだ。全員、一斉攻撃だ」


煙で生存確認はできないが、この程度で死ぬとは思えず反撃の余地も逃げる隙も与えないほどの攻撃を仕掛ける。


どれくらい時間が経っただろうか。


呪詛師達が息切れをし出すまで攻撃の手は一切緩まなかった。


煙でどうなっているのか見えなかったが、呪詛師達は手ごたえを感じていて、これなら殺せると意気込んでいた。


彼女の声を聞くまでは……


「ねぇ。もう終わり?なら、今度は私の番でいいのかしら?」


「え……?」


呪詛師達は楓の声が聞こえたのと同時に強い風が吹き、姿が見えると無傷な姿を見て絶望する。


そしてこう思った。


何故勝てると思った。


何故こんなことをした。


この女は俺達が絶対に勝てる相手ではない、と。


殺そうとしたことを後悔した。


グサッ!


後悔したのと同時にお腹に激痛が走る。


何だと思い、呪詛師達は自分のお腹を見ると刀が刺さっていた。


いつの間に!?


刀など持っていなかったのに!


このまま抜かれたら出血多量で死んでしまう。


何としても抜かれないよう刀をもつ。


「ねぇ。あなた達があの山を呪った犯人でしょう」


「……!」


呪詛師達は驚く。


自分達がやったという痕跡は全て消したのに、どうやってバレたのかわからなかった。


「なんでバレたのかって顔ね。今日は気分がいいから教えてあげるわ。理由は二つ。一つ。主にあなた達の呪力が残っていたわ。どれだけ痕跡を消そうと主の体内に入った呪力までは消すことはできない」


呪詛師達は山を呪っただけで、まさか主の体にまで呪力が残るとは思いもよらなかったみたいだ。


馬鹿な人達だ。


主は山そのもの。


山を呪えば主の体も呪われる。


私を殺そうとしている者たちが、こんな簡単なことも知らないとは呆れてしまう。


普通は知らなくて当然だが、私を殺そうとしている者たちなら話しは別だ。


「二つ。あなた達が私を今この場所で襲ったからよ。きっとあなた達の作戦はこうでしょう?山を呪えば、それを浄化できるのはこの国では私だけ。必ず私の元へ連絡がいく。本調子のときでは勝てないから、浄化して体力を奪った後に襲えば勝てると考えた。でも、いつ私がくるかわからないから近くで見張っていたってところでしょう」


「クッ……!」


その通りで何も言い返せない。


「作戦は悪くないわ。でも、一つ誤算があったわね。私の霊力を見誤った。そのせいで、逆に殺されることになったなんて笑い話にもならないわよ。あなた達は山を呪うという一線を越えたわ。悪いけど慈悲を与えるつもりはないわ。自分達の愚かさを反省しなさい」


楓は刀を消す。


そして枯葉が落ちていく。


その瞬間、呪詛師達は刺されたところから大量に血が流れていく。


死にたくない!助けてくれ!


そう呪詛師達は命乞いをするが、目の前の女性の感情のない目に見下ろされ、絶対に助からないことを悟る。


楓は呪詛師達が死んだのを確認すると陰陽連に報告して影に死体を回収してもらう。


そのとき影達は呪詛師達の体の刺し傷を見て刀で刺されたのだと気づく。


長年勤めている者たちはいつものことかと気にしなかったが、新人は刀を持っていないのに何故刺し傷になるのかわからず尋ねた。


「蘇芳楓様は霊力さえ込めればどんなものも好きな形に変えられるんだよ。例えば土を銃に、水を盾に、葉っぱを剣とかにな。なんせ0から1を作れるただ一人のお方だからな。式神だって花や野菜、服、血、ありとあらゆるものから人型の姿の式神を作れるんだ」


「本当ですか!?凄すぎませんか?なんか漫画の主人公のチートキャラみたいです」


「確かにそうだな」


新人は死体の刺し傷の疑問は消えたが、今度は楓に対しての好奇心が生まれ話してみたいと思うようになるが、それを言うと頭を叩かれ絶対にそんな失礼なことはするなと注意される。


新人は先輩達に何度も忠告されたが、それでもいつか話してみたいと諦めなかった。

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