【完結】リサ・カーター 真実の目 シーズン1 『金融の勝者』タブーに触れたこの物語は、いつ規制されてもおかしくない一冊。読む者を現実と陰謀の境界へと誘う、究極のディストピア・スリラー。

湊 マチ

第1話 警告

リサ・カーターは、ニューヨーク・タイムズの編集部で忙しく立ち働く記者たちを見渡しながら、自身の机に向かっていた。世間を騒がせるニュースが溢れる中、彼女は一見すると無害に見える封筒を開けた。封筒の送り主は匿名だったが、彼女の興味を引くのに十分な内容が詰まっていた。


中から出てきたのは、ブラックロックとバンガードの取引に関する資料だった。そこには、不自然な資金移動や匿名の口座への大規模な送金記録が記されていた。さらに、大手企業の株式操作に関する詳細な報告書や、複数の政府高官との密会を示す写真も含まれていた。それは、単なる陰謀論で片付けるにはあまりにも具体的で、真実を示す証拠のように見えた。


「これが本物なら……」リサは資料を手に、上司のクーパー編集長のオフィスへと向かった。クーパーは長年の経験で数々のスクープを世に送り出してきたベテラン記者だった。彼の判断は、リサにとって大きな指針となるはずだった。


クーパーのオフィスのドアをノックし、入室を促されると、リサは資料を机に広げた。クーパーは資料に目を通すと、表情を一瞬曇らせ、資料の中の一枚に目を留めた。それは、ウォール街の金融アナリストと政府高官の密会を示す写真で、その高官はクーパーの知り合いでもあった。


「これは……本当に大物だ」とクーパーは声を潜めた。「だが、リサ。相手はあまりにも巨大だ。私たちの想像をはるかに超えている。」


リサはクーパーの反応に違和感を覚えた。これまでのクーパーなら、どんなスクープでも飛びつくはずだ。それに、彼の目に一瞬だけ浮かんだ恐怖の色が気になった。リサは一歩引かず、「編集部でこれを取り上げるべきです。これは、ただの陰謀論ではなく、世界の裏側を暴く可能性があるんです」と訴えた。


クーパーはしばらくの沈黙の後、資料の中の一つの書類に赤いペンで印をつけた。「この印の意味がわかるか?」と彼はリサに問いかける。リサが首を振ると、クーパーはため息をついて言った。「これは彼らの監視対象を示す印だ。これに関わる者は、もはや普通の人生に戻ることはできない。」


その赤い印は、リサが最初に受け取った資料にも含まれていたものと同じだった。クーパーはさらに続けた。「慎重に行動しろ。彼らは冗談では済まさない。」


リサはクーパーの言葉にかすかな不安を覚えながらも、自分の中に湧き上がる好奇心と正義感を抑えることができなかった。「それでも、真実を追い求めることをやめるわけにはいきません」と決意を固め、編集長室を後にする。


その夜、リサは自宅に戻り、再び資料に目を通していた。その時、彼女のメールに新たなメッセージが届いた。送り主はまたしても匿名だった。メールには一言だけ、「あなたは彼らを本気で敵に回すつもりか?」と書かれており、添付ファイルには彼女の家の外観を写した写真が添付されていた。


リサは一瞬凍りついた。誰かが彼女を監視している。彼女の背筋に寒気が走るが、恐怖よりも好奇心と真実への渇望が勝った。リサは、この瞬間、自分が何か大きなものに関わり始めていることを確信した。


彼女は深呼吸し、デスクに広げた資料を見つめる。目の前に広がるのは、一見して虚構に見える陰謀の網目。しかし、その背後には、現実の世界を操る影の存在が確かに感じられた。リサはその「影」に立ち向かう覚悟を決め、パソコンの画面に手を伸ばした。


次の瞬間、彼女の手元のパソコンの画面が一瞬だけちらつき、暗転する。画面には赤い印が浮かび上がり、そのままシステムがダウンした。リサは息を呑む。これはただの偶然なのか、それとも……。彼女の背後で窓の外を監視する者の存在が、彼女の決断を冷たく見守っていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る