第23話 鷹香華亜佳と加華香嘉歌①

 冗談抜きで報復兄弟に手を出す者がいた。


 それはとある二人組。

 一人は鷹香華亜佳。姓がタカカカで名がアカ。

 もう一人は加華香嘉歌、姓がカカカで名がカカ。


 二人はいとこで、互いのことをアカ、カカと呼んでいた。

 変な名前だと言うと、アカはムッとするがカカは喜ぶ。


 アカは真っ赤なドレス風のワンピースを着ている。

 カカはクラシックな黒のハーフパンツと、同じくクラシックな黒の上着。ボタンは白い。シャツも白い。上着にはささやかな金の刺繍ししゅうが見られるが、何をモチーフにした刺繍かは不明である。


 二人の標的は報復兄弟だった。カカはアカにそそのかされ、報復兄弟をやっつけることで名をあげようとしていた。


 アカは表向きには名をあげるためと言っているが、彼女の裏向きの目的は決してカカに悟られてはならないものであった。


「じゃあ、カカ、あなたはお兄さんのほうをお願い」


「あはは、分かったー」


 カカは報復兄弟のことを詳しくは知らない。

 アカはよく知っている。


 カカは自分に自信があり、アカが自分に強いほうをあてがったことを察したし、それが当然だと思っていた。


 二人は丘南杉家おかなすぎけを訪れた。

 将ちゃんは留守だった。

 ごん兄さんはいた。


「任せたわ、カカ」


「りょうかーい!」


 アカはカカを残し、丘南杉家を後にした。


 カカはそっこうで厳兄さんに手を出した。


「パシーン!」


 オデコへの平手打ち。

 厳兄さんはビクともしないがムッとした。アカが変な名前と言われたときくらいムッとした。


「報復絶対」


 厳兄さんの平手打ちがカカの首にぶつかる。

 カカは首にひっぱられて体が飛んだ。玄関の壁にぶち当たって、ヘナリと地べたに座り込んだ。


「うそーん……」


 カカには絶対の自信があった。それは早くもうち砕かれたが、本当は強いのだという自負があった。


 実はカカは成人男性を片手で頭上に投げ飛ばせるほどの怪力少女だったし、実はカカは相手を眠らせるフェロモンを放出する妖精少女だったし、実はカカは……いまの衝撃で記憶が飛んでしまった忘却少女であった。


 ほかにも何かすごい力を持っていたはずだが思い出せない。が、大差はないだろう。怪力どころかフェロモンも通用しないのだから。


 しかし、実はカカはそんな特異な能力を抜きにしても頭の切れる天才少女で、厳兄さんの弱点に見当をつけていた。


「ねえ、あんたいっさいのエネルギーを受けつけないみたいだけど、あたいの声は聞こえているみたいね。だったら、耳が弱点なんじゃない? だって、あたいの声の影響を受けて鼓膜が震えないと、あたいの言っていることは聞き取れないはずだもの」


 しかし、実はカカは天才とバカが紙一重であるところの、両方に足を突っ込んだおバカさんでもあった。


「ワアアアアッ」


 カカは厳兄さんの耳元で叫んだ。しかし厳兄さんが怯む様子など微塵も感じられない。


「無意味な分析。物理的、医学的にいっさいの物質干渉を受けない時点で科学の域を超えていると知るべき。俺の性質について原理を求めることがナンセンス。超越者が理屈で説明されることはない」


「医学的ってフェロモンのこと?」


「報復絶対」


 厳兄さんはカカの耳をバシンと叩いた。

 するとカカの体が浮いて再度壁にぶつかった。


 意識が朦朧もうろうとするなか、カカはどうにか厳兄さんを視界に収めた。

 そこには明らかに腹の虫が治まらないといった表情があり、カカは軽い絶望感を抱かされた。

 そして言葉によって深い絶望感も与えられる。


「報復に対する報復を受けた場合は極刑報復」


「カカ!」


 アカが駆けつけてきた。将ちゃんが見つからなかったのか、アカは一人、誰に邪魔されることもなくカカの元に駆けつけた。

 そしてカカの腕を引いて一目散に逃げる。


「報復の邪魔をしても極刑報復。二人極刑」


 報復兄弟はどんなに逃げても追いかけてくる。追いつかれる前に何か対策を立てなければならない。

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