第五章 ぶち壊し大魔神
第21話 煙蛾諜祐①
※今話は過激 (グロ)な表現が含まれます。苦手な方は第21話、第22話はお読み飛ばしください。
男は語り部となった。
男は語る。聴衆を集め、雄弁に語る。
「これは私が将ちゃんに挑んだときの話。それも、将ちゃんにワンチャンスの切り札まで使わせた話。さてさて、皆さん。心してお聞きください」
男はそう切り出して語りだした。
男の名は煙蛾諜祐。姓がエンガ、名がチョウスケ。
身なりは派手だが、見るからに安そうな服を着ている。原色が入り乱れ、まるでピエロの親戚のよう。
これは語り部としての衣装ではなく単なる私服である。
男は自分が主人公の体験談物語を語った。
これより、その物語が語られる。
***
私はその日、すこぶる機嫌が悪うございました。
だから、たくさん人を殺してやろうと思いました。
しかしただの殺戮なんておもしろくない。
ゲームのように制約が欲しい。
だから、将ちゃんに手を出したのです。
私が将ちゃんに遭遇するのは実にたやすいことでした。
枕木町を一時間も歩いていれば、高確率で将ちゃんと遭遇するのですから。
この日は私が将ちゃんに遭遇するのに半時間も要しませんでした。
「将ちゃん、こんにちは」
私はそう言って振り向く将ちゃんの両手を掴み、あっという間にロープで縛り上げました。
私を蹴り上げようとしてくる将ちゃんの足を掴み、両の足が離れないようにギチギチに縛りました。
それもズボンの裾を捲りあげて生肌がロープのザラザラで擦れるようにギチッと巻きました。
「何をする気? 何をしても許さないよ」
「分かってる。ねえ、将ちゃん。君はいままでにいったい何人の人を殺した?」
終始無表情の将ちゃんに対し、私はあからさまなオーバーアクションをしてみせます。
質問一つするにしても、グイッと顔を近づけてやりました。
「わざわざかぞえてない」
「だろうねぇ。でも百人もやってないんじゃないかな?」
私は顔を将ちゃんの真正面からグーンと離しました。
胸を張って腕組をして将ちゃんを横向きに見下ろす形になります。
そんな私に対して、将ちゃんはやはり無表情でした。
いや、ほんのりと表情が歪んでいました。
「僕は報復しかしない。むやみに人を殺したりしない」
「じゃあ、百人ってことにしよう。だとしたら、俺は五百人を殺す。俺がいまからおまえを痛めつけて、おまえが俺に報復するまでに五百人を殺す。どうだ?」
「知らん。いますぐこれを解け」
「解かんよ。おまえが俺に殺意を抱くレベルまで痛めつけるまでは。あと、一つだけ確認しておく。俺がいま、とてつもなく不機嫌だってことは教えたっけ?」
またまた私は顔をグイッと近づけました。
将ちゃんは驚いて仰け反ってくれました。
「聞いてない」
「そうか。じゃあ教えておく。いま、俺はとてつもなく不機嫌だ。分かったか?」
私は顔を離すように見せかけて、すぐにまた真正面へと戻しました。
私の顔の位置はいつでも将ちゃんの目を噛み潰せる距離にありました。
「分かった。だから何?」
「何もない。ただ俺が残虐行為を働くだろうと分かるだけだ」
私は今度こそ将ちゃんから顔を離すと、
屈みます。
そして身動きを封じている将ちゃんのくるぶしを軽く叩きます。
トン、トン、トントントン。
そして少し強く、コン。
そして思いきり、ゴスン。
「痛い! ひどいよ」
「まだまだ」
私は将ちゃんの口に金槌の槌のほうを押し込みました。
それから立ち上がって金槌の柄のほうを思いきり蹴飛ばしました。
「あがっ!」
金槌が宙を舞うと同時に将ちゃんの歯が数本弾け飛びました。
口から血が何筋も垂れてきます。
「ハァサァミィイイイイ」
奇声とともに私が取り出したるは園芸用品でした。
断枝用のハサミです。
私は両目をまん丸に見開き、未来を想像して狂喜しました。
その姿はさながらピエロに扮した殺人鬼が笑っているように見えたでしょう。
「これで、何を切ると思う?」
「指?」
「ミィミィイイイイ!」
大仰な抑揚で正解を述べ、私は将ちゃんの耳たぶを斬り落としました。
まずは耳たぶから頂いて、その後、頭部の側面にいっさいの出っ張りがなくなるレベルまでジョキジョキとゲスな音を這わせたのでした。
将ちゃんは泣きました。
アグッ、アグッ、と泣いていました。
「ハサミがあるのにぃ、髪は引っこ抜くぅ!」
バスッと抜いてバサァと捨てる。
それを繰り返します。
五回くらい繰り返しましたよ、たぶん。
「次はなーんだ?」
「死ね。違った。絶対おまえを殺す」
将ちゃんの顔が青黒く染まっています。
すでに死体のごとき顔をしていました。
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