第15話 将ちゃんの遠征と尾小田信治①
「ねえ、アキカン、調べてくれた?」
「ああ。標的の居場所はここに書いてある」
ここは何でも屋の事務所。
珍しいようで、実はそう珍しくもない客がいた。
その客とは将ちゃんである。
将ちゃんは
中身を確認する。納得した様子。
将ちゃんが阿木館に依頼したのは三日前のことだった。
阿木館が三日あれば十分だと言うので、将ちゃんは三日目の朝になるとすぐに成果を受け取りに来た。
「報酬は報復我慢券で、報復が完了したら渡すってことでいいよね?」
「ああ、それでいい」
「それじゃ」
将ちゃんは阿木館の事務所を走って出ていった。
枕木町の危険人物たちはあまり枕木町から出ない。それは枕木町の外では警察が動くからである。
枕木町は報復兄弟などの超危険人物がいて、彼らとの遭遇率も高いため警察が介入しない。だから枕木町内では法も犯し放題なのである。
だが枕木町を一歩でも外に出ると、そこはすべてが警察の活動範囲となる。
Sクラスの危険人物は枕木町外での目撃例がない。だから、枕木町を出た危険人物に対しては普通に逮捕に踏み切られる。
しかし、将ちゃんだけは例外であった。
将ちゃんは手を出すには危険すぎる存在でありながらも枕木町を出ることがあるのだ。
将ちゃんを知る者は決して彼に手を出さないし、将ちゃんを知らない警官が彼に手を出して殺される事件はたまにあった。
この日も将ちゃんは逃げた報復相手を探して枕木町を出た。
阿木館のメモに書かれた場所を目指す。
そして将ちゃんが目的地に到着した。
目的地には標的はいなかった。
それはよくあることで、偶然に外出している可能性が高い。
だが将ちゃんは待ち伏せということをしない。
とにかくアグレッシブに探す。報復が決定した時点から決して受身にはならない。何がなんでも探し出して報復する。
そう決めている。
将ちゃんは目的地を基点として波紋状に捜索範囲を広げていった。
そしてついに逃亡者を発見する。
逃亡者は待ち構えていた。警察署の玄関前で、多数の警官に護衛されて待ち構えていた。
「来たな、将ちゃん。だが、これだけの警官が相手じゃ手も足も出ないだろう」
逃亡者は将ちゃんのことを知っていた。
将ちゃんの報復に対する執念と、兄が最強の存在でも弟の将ちゃんは普通の人間であるということを。
だが、彼には知らないことで非常に重要なことが一つだけあった。
それは、将ちゃんに特殊な能力があること。
それは
「あいつ、凶器を持っているぞ! 取り押さえろ!」
凶器とは道端で拾った大きな石である。
悠々と標的に近づく将ちゃん。警官たちがいっせいに将ちゃんへと向かっていく。
「あれ? さっき凶器を持った少年がいなかったか?」
将ちゃんは警官の隣を素通りした。
警官は辺りをキョロキョロしだした。探し物は目の前にいるというのに、見つからない様子である。
逃亡者はその光景に混乱する。
冗談にしてはタチが悪すぎる。
「馬鹿な! 見えていないのか!?」
違う。ちゃんと見えている。確かに警官の目は一度将ちゃんに留まる。しかし素通りしてしまう。
警官たちは将ちゃんのことを捕らえるべき対象として認識できないのだ。
まるで風景。偶然視界に入った通行人。その程度でしか将ちゃんを認識することができない。
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