第四章 代償の環斗君

第13話 格付けとエックス①

「枕木町の危険人物たちの危険度にも種類がある。暴走しやすさ、暴走の度合い、遭遇率、純粋な強さ」


 阿木館あきだてはホワイトボードの前に立ち、有沢ありさわは座ってペンを持っている。

 マンツーマンでの授業がおこなわれている。


 これはここ枕木町の危険人物に関する学習講座である。


「暴走しやすさや度合いで言えば月島つきしま芽々めめがダントツで危ない。遭遇率は将ちゃんだ。なぜか将ちゃんとはよく遭遇してしまう」


「ふむふむ」


 有沢はルーズリーフにペンを走らせ、阿木館の言葉を漏らさず記録する。


 阿木館はホワイトボードの前に立っているが、まだ何も書いていない。

 しかし、ここでようやくペンの蓋を取り外した。だがまだ書かない。


「しかし、月島も将ちゃんも普通の、いや、普通ではないが人間だ。戦おうと思えば戦える。月島の力はおそらく一般男性の平均か少し上くらいのものだろう。将ちゃんは歳相応の男の子の力しか持っていない。彼らの恐ろしさはその執念にある」


 ここまで喋って、阿木館はようやくホワイトボードへとペンを向けた。

 おもむろにアルファベットを書きはじめる。


「だが私は純粋な強さを基準として危険度を格付けすることにしている。もちろん、格付けは暴走度や遭遇率も加味しているから、これは総合的な危険度だと思ってくれ。まず、Aクラス。ここに将ちゃんこと丘南杉おかなすぎしょうと月島芽々が入る。月島は言わずもがなだろう。将ちゃんは手を出さない限り大丈夫だが、報復が決定したら暴走が止まらない。とんでもない奴だ。枕木町では報復の将ちゃんと呼ばれているが、私は暴虐の将ちゃんと呼ぶほうが合っているように思う」


「あ、たしかにそのほうが響きがいいです」


「響きって……まあいい。次にBクラス。煙蛾諜祐」


「エンガ、チョウスケ? 初めて聞く名前です」


「彼はぶち壊し大魔神と呼ばれている」


「なんかヤバそうな愛称ですね。それでBクラスですか?」


「ああ。ぶち壊すのは物というより事だな。要するに、その場の空気をぶち壊すということだ」


「ああ、そういうことですか……。それなら、たいしたことはありませんね」


「ところがそうでもない。火種をくのに一役も二役も買ってしまうんだ。そこに上位の危険人物が居合わせたら、もう大変なことになる」


「ほーう、なるほど。それは恐いことです。そのエンガさん以外には?」


「Bクラスはもう一人いるが、まだ候補の段階だから、追々話すとしよう」


「候補? なぜその人は候補なんですか?」


「まだ一人の被害も出ていないからだ。そいつの存在は将ちゃんから聞いて知っているだけで会ったこともない。だがもしそいつが悪意を持って動き出したら、Aクラスにもなり得る存在だ。まあそれは置いといて、次にCクラス。Cクラス以降はいない。いまのところはな。まあ探せばたくさんいるだろうが。だがあえてCクラスに名前を入れるなら私だろう。私は枕木町の危険人物たちを利用して仕事をしているからね」


「そうですか。案外少ないんですね、危険人物。Aクラスの二人にさえ気をつけていれば枕木町も楽勝のようです」


「いんや、ところがどっこい。Sクラスがいるんだ」


「S!?」


「Sクラス。まず間違いなく最強の危険人物、丘南杉おかなすぎごん。報復兄弟の兄のほう」


「将ちゃんのお兄さん!? なんかヤバそうです」


「ああ、ヤバイ。基本的に将ちゃんと同じく手を出さない限りは何もしてこない。だが、一度彼から報復対象に認められたら決して逃れることはできない。極端な話、将ちゃんは殺せるが厳君は殺せない」


「殺せない?」


「強すぎるんだ。どんな攻撃も通用しない。どこの国の軍隊をひっぱってきたって、彼には傷一つつけることも叶わないだろう。将ちゃんによると、厳君はハーフらしい。人間と何かの、ね」


「え……純粋な人間じゃないってことですか?」


「そういうことだ」


 有沢の手は止まっていた。驚きのあまりペンが落ちそうになるが、落ちなかった。


 阿木館は厳兄さんが何と人間のハーフなのかは分からないと付け加えた。

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