第9話 人間の器の大きさは、貸借対照表の全体の数値で

 これはもう、人間の大きさとしか言いようのない話というのも、人によってはありますよね。大政治家とか、大財界人。死してなお偉人と呼ばれるような人たち。たとえばお札になったあのおじさんも、そんな手合いの人ということで。

 そこまで行かなくても、収入の多い人なんかを見てみれば、その手の人たちの人間経営の状態というのは説明できます。

 収入の多い人は、それに比例しているわけでもなかろうが、出る金額も多い。

 そういうことを言われますよね。暗に、収入が少なければ出る金も少ないと。

 まあ、そんな言葉の裏読みなんかしても仕方ないので、進めます。


 この手の人たちというのは、そりゃあもう、一時的に負債欄に入って来る資産もたくさんあります。無論、売上欄に記載されるべき額、すなわち善行ともいうべきものも多くなります。それに比例して、貸借の負債欄に記載されるものも損益の費用にかかる部分も大きくなります。では負債欄は増えっぱなしかと言うと、そんなことはありません。これらを上手に換骨奪還して純資産に変えていくだけの素養は十分ある人たちですから、そちらも処理もぬかりありません。

 ですから、自己資本比率も悪くならず、収入も増えるし負債も一定以上にならないようにできる。とにかくも、貸借対照表に記載される金額が人に比べて何桁も多いというイメージで御理解いただくといいでしょう。

 そうなると、負債欄、つまり人間性において何やらあら捜ししたくなるのも人情というものか、そういう偉人の欠点をあげつらうような人が出てくるではないですか。それは要するに、負債欄の負債の内容、例えば愛人を作っただの、隠し子が発覚しただの、家庭生活がどうとか、しまいには純資産こと資本欄に組み込まれているものに対してもその内容を精査というよりあら捜しし始める始末。当然、社会性に属する資産欄の資産の内容にも、何かケチつけられるものはないかと探る。


 そういうゴシップ探しのような話も、この複式簿記でその原理が説明できます。実際の企業や個人でも、資本金の多さで会社の扱いが変わって経理が厳格に求められる場所もあれば、逆に中小や個人で少々のお目こぼしがあるような(その逆に大きいが故のお目こぼしも)事例がいろいろ考えられますが、それもまた、この社会性と人間性の複式簿記でその原理が説明できるのです。


 とはいえ、偉人クラスともなれば格別、収入の多い人の例をとれば入るものも多ければ出るものも多いと申しましたが、それは要するに、その人の懐を狙われるということを暗に示されているわけです。これは単にお金や財産といった問題だけでなく、社会性と人間性の関係下においてもまた、それは当てはまるのです。

 資産があるとはいっても、その実態は善行とも何ともつかぬ形で人に上げただけの状態になっているものなんかも、まさにその例と言えましょう。逆に言えば、それで借りた人というのは、負債欄にその部分が記載されているというわけです。


 ともあれ、人間の器の大きさというのは、社会性と人間性の貸借対照表の全体の数値で表すことが可能です。もっとも、具体的な数値として明白になるという性質のものではないかもしれませんが、今述べたようなところで御理解いただければよろしいかと思われます。

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