第5話:最後のアピールと決意

 鍛冶場の扉が重々しく開く音を耳にした。俺はすでにその足音だけで、誰が来たのかを理解していた。カインだ。これで何度目だろうか。前回、彼が鍛冶屋を去るときに見せた表情――それを忘れることはなかった。彼の目には諦めがなかった。だからこそ、再び訪れることは分かっていた。


「レオ、また来た。」


 カインはこれまでと変わらぬ決意のこもった声で俺に話しかけた。だが、俺は相変わらず鋼を打ち続けた。今打っている鋼は、次の武器になるための重要な素材だ。俺がその一瞬でも気を抜けば、最高の武器にはならない。それはまるで、冒険者が常に集中し、最善を尽くさなければ命を落とすのと同じだ。


「聞いてくれ、レオ。これが俺の最後の頼みだ。」


 カインの声は今まで以上に切実で、どこか焦りすら感じさせる。俺はハンマーを振る手を止めず、彼の言葉に耳を傾けることにした。彼が何を言おうとしているのか、見極めなければならない。


「俺は、これまでの自分を乗り越えるために、どうしてもレオさんの作る武器が必要なんだ。もう何度も言ったが、俺には守りたいものがある。仲間を失ったあの日から、俺は何も変わっていない。今も、あの時の無力な自分と同じだ。」


 カインの言葉には、確かに真実があった。彼が感じた無力感と後悔。それが彼をここまで駆り立てている。しかし、無力を感じるだけでは何も変わらない。彼が本当に変わろうとしているかどうか、それを俺は見極める必要がある。


「お前がどれだけ本気か、俺にはまだ分からない。」


 俺は冷静に答えた。言葉だけで強さを証明することはできない。カインはすでにそのことを理解しているはずだ。それでも、彼は諦めずに俺の前に立ち続けている。


「俺は、もう言葉じゃ証明できないことを分かってる。だからこそ、行動で示す覚悟がある。どうすればいいかはまだ分からないが、絶対に諦めるつもりはない。」


 カインの声には、かつてないほどの決意が込められていた。彼の目に宿る強い意思も、これまでとは違う何かがあるように感じた。だが、それでもまだ俺は判断を下さない。言葉でいくら決意を語られても、俺はそれだけでは動かない。


「行動で示すと言ったな。だが、お前が本当にその覚悟を持っているかどうか、それを証明するのは簡単なことじゃない。」


 俺はそう言いながら、再びハンマーを振り上げ、鋼を打ち始めた。彼の決意は確かに強いが、それが本物かどうかは、まだ時間が必要だ。俺はこれまでに多くの者たちが、同じように情熱を語り、そしてその情熱が冷める瞬間を見てきた。カインがその道を辿らないかどうか、それを見極めるにはまだ行動が足りない。


「それでも、俺は諦めない。レオさん、俺はあなたに認めてもらうまで何度でも挑戦する。あなたが何を望んでいるのか、それが何なのかを見つけるつもりだ。そして、俺自身を証明してみせる。」


 彼の声は震えていない。前回の焦りが薄れ、彼の目には強い決意が宿っていた。それでも、俺はまだ簡単に信用はできない。カインがどれだけの覚悟を持っていても、それを示すのは彼自身の行動次第だ。


「覚悟があるのは分かった。だが、強い意志だけで人は変わらない。」


 俺は鋼を打ちながら、淡々と言葉を紡いだ。カインが本当に変わるためには、ただ情熱を燃やすだけではなく、冷静な判断と、自らの成長を見つめ直す力が必要だ。


「強い武器を持ちたいと言うなら、その武器にふさわしい人間にならなければならない。そのために必要なのは、強さだけではない。自分を冷静に見つめ、鍛錬を積み重ねる覚悟だ。お前はその覚悟を本当に持っているのか?」


 俺の問いかけに、カインは一瞬だけ言葉を失った。彼の目が揺らぐのを感じた。だが、次の瞬間、彼は鋭い眼差しを俺に向けた。


「持っている。俺には、その覚悟がある。あなたが何を言おうとも、俺は自分を証明するために行動する。」


 カインの決意は揺るがない。俺はその目をじっと見つめ、彼の覚悟が本物であるかどうかを見極めようとした。だが、それでも俺はすぐに答えを出すことはできない。彼がどれだけ本気であろうと、まだ行動で証明していないからだ。


「言葉だけではまだ足りない。」


 俺は再びハンマーを振り下ろし、鋼を打ち続けた。カインの言葉が本物かどうか、それを知るのはまだ早い。だが、彼がここまで何度も挑戦してきたこと、それ自体には少しばかりの評価を与えたくなる気持ちが芽生えていた。


「お前に何かを課すつもりはない。だが、もし本当に自分を証明したいのなら、自らの行動で示すしかない。それが、強さというものだ。」


 俺の言葉に、カインは静かにうなずいた。彼はもう、言葉で俺を説得しようとはしていない。彼の中にあるのは、これからの行動で自分を証明しようという強い意志だった。


「俺は諦めない。行動で、必ず証明してみせる。」


 カインのその言葉に、俺は初めて少しだけ興味を持った。彼が本当にその覚悟を持っているかどうか、これからの彼の行動で見極める必要があるだろう。だが、まだ試練を課す時ではない。彼には自分自身の試練があるはずだ。


 カインは決然とした表情で鍛冶屋を出て行った。彼の背中を見送りながら、俺は再び鋼に集中した。火花が散る中、心の中で彼の行動を見守ることにした。


 扉が閉まり、鍛冶場には再び俺一人だけが残った。だが、カインの言葉が頭の片隅に残っていることを感じていた。彼がこれからどう行動するのか、それが俺の興味を引きつけている。


「行動で示すか……」


 俺は自分自身に問いかけるように呟いた。言葉で強さを語るのは簡単だが、それを実現するためには覚悟と行動が必要だ。カインがその行動を見せてくれるかどうか、まだ分からない。だが、少なくとも彼の決意は本物のようだ。


 俺は再びハンマーを振り下ろし、鋼を打ち続けた。



 ーーーーーーーーーーー

 第2章完結まで1日2話ずつに更新(11:00、12:00)していきます。


【応援のお願い】


 いつもありがとうございます!

 ☆をいただけると大変助かります。皆さんの応援が大きな力になりますので、ぜひよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る