第4話:レオの疑念と観察

 カインが鍛冶屋を去った後、俺は作業を続けていた。彼の言葉が頭の中を巡りながらも、手は黙々とハンマーを振り下ろしている。鍛冶場に響く金属の打音。それはいつものように、規則正しく、そして重く心地よいリズムだ。しかし今日は、どこかそのリズムが崩れているように感じた。カインの言葉が俺の心を揺さぶったわけではないが、彼の真剣な眼差しが頭に残って離れない。


「また挑戦してくるか……」


 俺はひとりごち、ハンマーを振る手を止めた。あの若者には情熱がある。彼の言葉からはその熱が確かに感じ取れた。だが、それだけで武器を作るわけにはいかない。俺の作る武器は、その力を使う者の心構え次第で人々を救うこともあれば、破壊をもたらすこともある。だから、安易に誰にでも渡せるものじゃない。


「言葉は、誰にでも言える……」


 過去に何度も、俺の鍛冶場を訪れた者たちが同じように語った。皆が「強くなりたい」「もっと上に行きたい」と夢を口にしたが、実際にその夢を行動で示せた者はほんの一握りだった。言葉だけでは、真実の意志は測れない。行動で証明することこそが、真の力を持つ者の証だ。


 カインの情熱が本物であるかどうか――それを見極めるには、彼自身がどう動くかにかかっている。


 俺は再びハンマーを振り、金属を打ち始めた。熱せられた鋼の硬質な感触が手に伝わり、心地よい集中が戻ってくる。だが、カインの顔が一瞬浮かんで、また心を乱す。彼の目には、確かに何か強いものが宿っていた。だが、それが本当に彼の行動に繋がるのか――その点において、俺はまだ信じていない。


 鍛冶屋という仕事は単純だが、真剣勝負だ。鋼を火にかけ、適切なタイミングで打ち込む。冷静な判断と確かな腕が必要だ。焦りや妥協は許されない。それと同じように、人の本質を見極めるのも時間がかかるものだ。カインがどれほど本気であるか、彼の言葉の真実を見極めるためには、時間と行動が必要だ。


 カインが再び鍛冶屋を訪れたのは、それから数日後のことだった。


「レオ、また来たよ。」


 扉が開き、彼の声が静かに響いた。俺は再び手元の作業を続けていたが、彼の足音を耳で追いながら、次の動きを待っていた。前回と同じように、カインは再び俺に語りかけようとしている。だが、俺は顔を上げずに作業を続けた。


「まだ俺を認めてくれないのは分かってる。だけど、もう一度話をさせてほしい。」


 彼の声は前回よりも力強さを増していた。だが、その言葉だけでは、俺の心は動かない。俺は冷静にハンマーを振り続けながら、彼の声を聞いていた。焦りが混じった声だが、その中に決意がこもっているのは確かだった。


「俺が言葉だけじゃないってこと、行動で示すよ。でも、まず俺がどれだけ本気かを分かってほしいんだ。」


 カインの言葉に、俺は少しだけハンマーを振る手を緩めた。彼が何かを証明しようとしているのは分かる。だが、その方法を見つけるのは彼自身だ。俺が彼に具体的な答えを与えるつもりはない。


「過去の失敗は、俺を弱くした。でも、だからこそ、俺は強くならなきゃいけない。俺には、あの時の自分を乗り越える必要があるんだ。強い武器がなければ、それはできない……」


 彼の言葉は本気だと感じた。過去に彼が何を経験したのか、そしてそれが彼にどれだけの傷を残したのか――その痛みが、今の彼を動かしているのだろう。だが、その痛みが彼の焦りにも繋がっていることは、すぐに分かった。


「焦るな、カイン。」


 俺はハンマーを振りながら、静かにそう告げた。その言葉に、カインは驚いたように顔を上げた。彼の目は問いかけるように俺を見ていたが、俺は作業を続けたまま、彼の言葉を待った。


「お前がどれだけ本気か、焦っても俺には伝わらない。行動で示せと何度も言っただろう。」


 カインの目に再び迷いが浮かんだ。それを見逃さずに、俺は静かに言葉を続けた。焦りは失敗を生む。武器を扱う者が焦っていては、命を落とすことになる。


「でも、どうやって……」


 カインの声が一瞬詰まった。彼はまだその答えを見つけていない。だが、俺がその答えを与えるつもりはない。自分で見つけることこそ、彼が成長するための試練だからだ。


「それは、お前自身が見つけるものだ。」


 俺の声は低く、しかし確信を持っていた。これ以上、彼に答えを示すことはしない。彼が自らの道を見つけ、自らの力でその道を進むこと――それが、俺に認められるための唯一の方法だ。


「そうか……自分で見つけなきゃいけないってことか。」


 カインの声には、再び決意がこもっていた。彼は深く息を吸い込み、その言葉を受け入れたようだった。彼がどう行動するかは、これからの彼次第だ。俺はそれを見極めるために待つことにした。


「分かったよ。俺自身で見つける。」


 カインはそう言い残し、鍛冶屋を去っていった。扉が閉まる音が静かに響き、その後に訪れる沈黙が、鍛冶場に満ちた。俺はしばらくの間、その静けさの中で考えていた。


 彼の言葉には確かに真剣さがあった。だが、それが本物かどうかを判断するのはまだ早い。言葉だけで心を動かされるほど、俺は甘くはない。これまでの経験が俺に教えてきたのは、行動こそが真実の証だということだ。


「やる気はある……だが、それだけじゃ足りない。」


 俺はそうつぶやき、ハンマーを下ろした。カインがどうやって自分の道を切り開くか、それを見届けることが、次の俺の課題となるだろう。彼が行動で示すその日まで、俺は待つしかない。


 扉の向こうでカインが歩いていく音が遠ざかっていくのを感じながら、俺は再び作業に戻った。



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 第2章完結まで1日2話ずつに更新(11:00、12:00)していきます。


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