189
Nora_
01
最近は外で食べるということをしていなかったから外に出てきていた。
それで特に約束をしているわけでもないから一人で食べていると、
「あーもうやっていられないんだけどっ」
と、女の子の大きな声が聞こえてきて意識を持っていかれた。
「まあそう言うなよ、これからずっと通わなければならないんだからさ」
「でも、中学と違ってつまらないし」
「友達だってちゃんといるだろ、なにが不満なんだ?」
「いい存在と出会えないからよ!」
バーン! と大きな効果音が鳴ったような感じすらするけどそれは幻聴だ。
「はは、まだ高校一年の冬だろ、そう焦るなよ」
「もう冬なんですけど? あたし的には夏にそういう存在を見つけて動き出したかったのよ、それで冬のいまには付き合えているぐらいが一番だったのよ」
「んーそう言われてもなあ、そもそも――」
今日は静かなところで食べたい気分だったから移動する。
気づかれていなかったみたいなので絡まれることもなく距離を作ることができた。
いまから探すと食べられずに終わるから少ししたところで座ってまた再開、でも、多いわけではないからあっという間に終わってしまった形となる、戻ろう。
冬の気温が得意というわけではないから垂れそうになる鼻水と戦っているとまだあの二人はこんなところで話し合いをしていた。
「大体、お兄ちゃんがもっと来てくれないのが悪いんじゃないの?」
兄妹か、あとお兄ちゃん呼びが可愛い。
校則が厳しくないのもあって派手な感じなのに兄に対するそれは昔のままだ、なんて全く知らないからあれだけど。
「いやいや、そう何回も来る兄貴とか嫌だろ?」
「そう? あたしは別にそう思わないけどね」
「なんか意外だよな」
「いや、寧ろ嫌がる子達の方がおかしいんだよ――はともかくとして、さっきから盗み聞きしているのは分かっているんだからね?」
あ、やっと気づいてくれたみたいだった。
いまから隠れようとしても逆効果にしかならないだろうから大人しく出る。
「ん? お、おお、人がいたのか」
「気づいてなかったの? お兄ちゃんって本当にアレよね」
「あ、あれとは……?」
「まあいいわ、それであんたは?」
どんなときでも自己紹介は大切だ。
名字や名前をちゃんと言っておけば争いを避けられる――かどうかは分からないけど後々いい方に働くかもしれない。
「僕は高校二年生の
「へー……って、髪なっが!?」
「よく言われる」
この子はオーバーリアクションをすることが大いみたいだ。
相手の髪が長い程度でこんなにテンションを上げていたら疲れてしまうからやめておいた方がいい。
でも、相手が求めているときはそうやって元気に反応してあげてほしかった。
「二人は兄妹」
「そうよ、片方はもう駄目になりかけている状態だけどね」
「だったらお兄ちゃんと仲良くすればいい」
あ、いま自然と彼女のことを駄目だと判断してしまったけど幸い、怒られることはなかった。
「や、そりゃ仲良くできた方がいいけど発展することはないじゃない? あたしだってね、恋がしたいのよ」
「それなら一緒に過ごすしかない」
ただ、焦っても効果は見込めないからこうして兄とゆっくり過ごすのもありだと思う。
それとある程度は抑えることが有効的だ、出しすぎているとそれはそれで相手から警戒されてしまう可能性がある。
理想はいま僕と話しているような感じ、多少の緩さが必要なのだ。
「そうよねえ、だけど気になる相手がいないとそれもできないじゃない?」
「暇なときは僕が相手をしてあげる」
「優しいわねえ」
どうせ出会ったからにはと全力で乗っかろうとしているだけだ。
僕の中はそんなに奇麗ではない、それどころか汚いぐらい。
「なあ」
「ん、なに?」
彼女が話しているときはなるべく静かにしていようとすることは分かった。
妹が大好きすぎる兄でもいい、偉そうだけどこれからも支えてあげてほしいと思った。
言い争いしかできないところなんか見たくない、悪口とかを聞いているとまるで自分が言われているような気分になるから避けたいのだ。
そう、だから全ては自分のために行動しているだけだった。
「俺と久我は同じクラスだ」
「え、そうなの?」
そういえば男の子のグループにこんな子がいたような……いなかったような。
「や、やっぱり分かっていなかったか。いやまあ俺もそういえばどこかで……と考えていま思い出したばかりだからな」
「それでも流石に名字は知っている」
「お、それなら言ってみてくれ」
まさか乗っかられるとは思わなくて一瞬だけど固まってしまった。
当然のように名字すらも分からないからここは無理やり終わらせて離れるしかない。
自分からいかない限りは話すこともないだろうから逃げたって問題にはならないだろう。
「とにかく、お兄ちゃんとは仲良くしておいた方がいい」
「それなら大丈夫よ、それよりなんで話を逸らしたの?」
「予鈴、これで戻る」
自分の行動のせいで無駄に体力を失うなんて馬鹿なことはやりたくない。
だからこれも自分を守るために必要なことだった。
「分からないなら分からないって言えばいいんだよ」
「そういえば同じクラスだった」
頭をペシペシと叩かれていて少し痛い。
途中で受け止めてよく見てみたらかなり大きな手で少し面白かった。
「だからそう言ったろ? って、俺はもしかして避けられそうだったのか?」
「ん、もう来ないと思った」
「判断が早すぎだろ……ここにも妹みたいな存在がいたとは」
あの子みたいに可愛くはないけど乗っかってみよう。
「お兄ちゃん」
「や、やめろ、俺が言わせているように見えるだろ。あと俺は
なるほど、覚えた。
ふと一人のときはどうしているのか気になったから二人でいってみると友達と仲良さそうに話している風美がいて安心した。
「文平、これからもこうやって見にいくつもりだからそのときは付き合って」
「そ、それより名前呼びが早くないか?」
「長村って呼んだら二人が反応することになる、だったら名前でいい」
「まあ、嫌じゃないからいいけどさ――っと、風美が来るから逃げ、おいっ」
元々ある程度観察をしたら近づくつもりだったから逃げようとする意味が分からなかった。
兄のことが大好きな風美がこの程度のことで怒るわけがない、それどころか喜んでいるはずだ。
「あら、早速一緒に行動しているのね」
「ん、文平が付き合ってくれた」
ほら、全く怒っていない。
二人きりになった途端に大暴れ、なんてこともないだろうから安心してここに存在しておけばいい。
「お兄ちゃんはあんたみたいな存在を放っておけないのよ」
「僕にとってもお兄ちゃんみたいな感じ」
「それならあんたも妹ってことか、お兄ちゃんが悪いことをしそう」
「しないよ……あと気をつけろ、久我はすぐに名前で呼んでくるぞ」
今回のこれは先程も言ったように名字が同じだからだ。
そうでもなければ流石に一週間ぐらいは僕でも待つ、中には気軽に名前で呼ばれたくない子達もいるから仕方がない。
「名前で呼ばれるぐらい慣れているから別に構わないわ」
「相変わらず俺の妹は受け入れる能力が高いな」
「あとこいつもね」
ん? あ、目が笑っていない。
これは唐突に来られて微妙な状態と言うよりも自分の兄と仲良くしてほしくないのかもしれない。
かといって、文平のことを諦めることもできないし……どうしたものか。
風美と仲良くなるためにはどうしても文平の力が必要なのだ。
「そう敵視する必要もない、文平も僕のことを女の子として見ることはない」
その点に関しては保障してあげることができる。
これまで一度も男の子に興味を持たれたりはしなかった、同性からもなかったから仮に同性が好きな子でも全く問題は起きない。
いまは信じられないということでも一緒にいてくれればすぐに証明してあげられるから更に安心できるだろう。
「はあ? なによ急に」
「風美は僕に文平と一緒にいてほしくないと思っている」
「なにを言ってんだか、それじゃあまるであたしがお兄ちゃんのことを好きでいるみたいじゃない。もちろん、ただ兄として好きだけどそれ以外の感情なんかはないわ」
「でも、いま目が笑っていなかった」
「ああ、それはあんたが急に入り込んできたからよ、これまで出会った誰よりも早く、ね」
ん? だから……一度会話をしてから誰よりも早く再度目の前までやってきた、そういうことだろうか?
「お兄ちゃん的にどうよ?」
「久我は心配になる人間だ」
「そうね、なんか分かっていなさそうだから悪い人間に騙されてしまいそうだわ」
「昔、知らない人に付いていったら迷子になったことがあった」
でも、悪い人ではなくてお菓子や飲み物をくれたうえに迎えが来るまで一緒にいてくれたからそう悪い思い出ではない。
迎えにきた母には物凄く怒られたけど一度きりの人生、ああいう経験も小さい内に必要だと思うのだ。
「はあ、これは見ておかないとやばそうね」
「学校なら大丈夫だろうけど外でこの調子じゃあなあ」
「よし、みんなで連絡先を交換するわよ」
「あ、僕はスマホを持っていない、もったいないから契約しなかった」
これまた母に怒られてそのときは気分が沈んだものの、なんとか乗り越えられた。
「なら家の番号を教えなさい」
「電話もない」
「あんたの家はどうなってんのよ……」
「一人暮らしだから」
実家でだってスマホで全てのやり取りをしているから普通だ。
「え、ご飯とかちゃんと食べてんの?」
「ん、そういうスキルに関しては問題ない」
そこら辺で頑張っている子達よりも上手く作れると自信がある。
まあ、上には上がいるという言葉ある以上、知らないだけでしかないのかもしれないけど。
「お兄ちゃん、今日の放課後は予定を開けておいて。こいつの家にいくわよ」
「それ、俺もいた方がいいのか?」
「当たり前じゃない、いざとなったらお兄ちゃんがこいつを私達の家まで運ぶのよ」
「いやそれは不味いだろ……」
「いざとならったら、よ。あんたもそのつもりでいなさい」
いきたいと言うのなら連れていってあげればいい。
遊べる物とかはなにもないものの、時間つぶしぐらいはできる場所のはずだった。
「で、これがあんたの家? 小さすぎない?」
「これぐらいで十分」
これでもお風呂とトイレは別々だからいい場所だ。
洗濯機もあってご飯を作れる場所もあって、あと望むのは寝るところだけど当然それもちゃんとしているから問題はない。
「や、ならなんで別の場所に暮らしているのよ」
「なんかそういう決まりみたい、お母さん達もそうされてきたらしい」
「決まりみたい、そうされてきたらしいって曖昧ねえ。つかお兄ちゃんはなんで入口のところで固まってんの?」
「さ、流石に女子だけの家に上がらせてもらうのはアレだからな」
「や、もう上がっているじゃない、そうなったら無駄な抵抗をしても駄目だからもっと堂々としていなさいよ」
全く気にならないから文平の腕を掴んで真ん中まで連れてきた。
大きな体なのにプルプルと震えている彼はどこか可愛い、対する風美は堂々としすぎている。
「よ、よし、久我の家がどんなのかはすぐに分かったな。ただ、これ以上いると迷惑をかけてしまうからこれで帰ろう――待て待て、なんで押し倒した……?」
「奇麗にしてあるから気にしなくて大丈夫」
毎日掃いたりコロコロをしたり寧ろ過剰すぎるぐらいだから安心してくれていい。
「風美、久我はこんなのでいいのか?」
「んーお兄ちゃんって決めているならいいんじゃない?」
「流石にまだ駄目だろ、ということで今日は帰ります」
「「なんで敬語?」」
ああ、いってしまった。
このまま解散はつまらなかったから付いていくことにした。
家の場所を把握したかったのもある。
「寒いだろ? それにすぐに暗くなるから大人しく解散にしておけばよかっただろ」
「寒くない、解散にはしたくない」
「でも、家に着いたら俺達は消えるんだぞ?」
「それならそれで一人で歩いてくるからいい」
スーパーにでもいけばすぐに必要な物が浮かんできてそれを買うことで後の僕が助かるわけだから無駄な時間とはならない。
というか、先程から風美がふらふらしていて危ないから見ておかなければならないのもあった。
本来なら兄の彼に任せておけばいいけどこれも利用して仲良くなってみせる。
「手を掴んでおく」
「うん――って、小さいくせに熱くて存在感があるわね」
「文平の手とまではいかなくても風美の手も大きくて安心できる」
「褒め言葉じゃないけどね、おにぎりとかを作ろうとすると大きくなって困るんだから」
それならそれで大きいおにぎりが食べられて幸せな気持ちになるのではないだろうか。
視線を感じて意識を向けてみると「女子同士は仲良くていいな」と寂しそうな顔で呟いていた。
風美だけを気に入っていて風美とだけ仲良くしたいというわけではなかったから文平の手も掴んでおく。
「これだとあたしとお兄ちゃんの子どもよね」
「妹に手を出すやばい人間の登場じゃないか……」
「もーなんでお兄ちゃんって冗談を上手く流せないのかしら」
確かに、いちいちなんでも真正面から受け取りすぎていたらすぐに体力がなくなりそうだ。
本人が求めてくればだけどこれから先一緒にいることでそういうところを直せるようになればいいと思う。
「昔、お兄ちゃんのことが好きだった女の子がよく冗談を言う子でね。なにかを言われる度に裏まで考えようとして熱が出ていたぐらいよ」
「流石に呆れる」
「はははっ、お兄ちゃん言われているわよっ?」
「どうせ俺は情けないよ……」
「あらら」
ああ、結構小さい僕よりも小さくなってしまったように見えた。
二人と別れる前に風美の方には一緒にいてと頼んで歩き出す。
「ん? なんで付いてきた?」
「そりゃ一人で歩くとか言うからだ、家まで送るからすぐに帰った方がいい」
「その前にスーパーにいってもいい?」
「んーまあ久我の場合は自分で買わないとどうしようもないわけだからな、いいぞ。荷物ぐらいなら俺が持ってやる」
「ついでに僕も運んで」
二人きりになった彼なら先程とは違う結果になるかもしれない。
「さ、流石にそれはな」
「はぁ、やっぱりまだ駄目」
「そ、そりゃ簡単に変えられたら苦労はしないよ」
まあ、いいか。
あんまりゆっくりしていると彼が涙目になりそうだったから少し早歩きでスーパーに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます