十四日目

 賭けの期限まで約十二時間という所まで迫ってきていたが、俺はのんびりとゲームをしていた。

 正直、運が良かった。

 検索エンジンを使ったローラー作戦は、あまりにも苦肉の策だったので、飽きたところで辞めるつもりだったのだ。それに、たまたま最初に総当りしたやつをもう一回やってみたら、当たってしまったというだけなのだ。

 昨日までと違って、今日は授業中に「5、4、9……」と悩まされることも無かったし、放課後図書室で数学の本をかき集めて勉強することも無かった。いつも通り、二人の会話を脇目に読書するだけの生活だった。




 昼休み、桜に何読んでいるのかを聞かれた。

「火花、ってやつ」

 俺は、表紙を見せて、作品名だけをサラッと読み上げた。何かを待っているような顔をしていたが、俺が何も言わずにいると、そいつは次第に不満げな顔をし始めた。

「ど、どういうのかを知りたいのっ!」

 だったら最初から内容が知りたいと言えばよかったのに、と思いながら、一から順に詳しく内容を説明する。すると今度は、

「そういうことじゃないんだよ」

と再び不満をぶつけてきたのだ。俺はいい加減イライラしてきて、

「じゃあ、何が知りたいんだよ」

と呟くと、桜は少し考えて、真面目な顔でこう言った。

「君はさ、アンパンマンを説明する時、いちいち最初パトロールを始めるところから説明するの? 普通だったら、『顔がアンパンの主人公が、バイキンをモチーフにした敵キャラをやっつける物語。途中で顔に水をかけられて弱っちゃうけど、顔を交換して……』って説明するでしょ? それと一緒で、私は話の要点だけを知りたいの」

「でもそれって、知ってなんの意味があるの?」

 俺はつい、反論してしまった。

 ここで喋り終わるのも不自然だったので、俺はその勢いで話を続けた。

「お前が言ったように説明するなら、この作品は、『売れない芸人たちが葛藤する物語。最後は豊胸手術したバカな先輩を主人公がしかって、花火見て終わり』って感じだけど、これで満足? もし、これ以上質問するんだったら、俺につべこべ聞かずにとっとと読んだ方がいい」

 なんで俺はこんなやつに、熱くなってしまっていたのだろうか。こいつにこんなこと言ったって、心の中で笑われるだけなのに。

「読書って、そういうもん。本の内容が知りたくて、読んでる訳じゃない」

 そいつがどんな顔をしているのかを見たくなくて、俺はそれ以上は何も言わずに、前を向いて、再び読書に戻った。

 俺が何に対して怒っていたのか、自分でも未だによく分かっていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る