七日目
次の日、登校すると俺の席に誰か座っていた。どうやら、彼女が 他のメスとと何か話しているようだった。
彼女が何を話しているのかは分からなかったが、教室の入口付近まで聞こえてきた話し相手の声には、嫌なほど聞き覚えがあった。
「やべえだろ! それは」
「そーゆー時は、ガツンと言ってやんねぇと」
「ったく、そんなんだから舐められんじゃねーか」
昨日ぶつかった、あいつだった。
まさか、あの不良が、彼女と友達だったとは、夢にも思わなかった。すぐさま
「なぁ、そう思わねぇか? 陰キャ」
ところが、不良はさらに声量を上げて、俺の背中に声をぶつけてきた。
ゆっくりと振り返ると、教室中の視線が俺に集まっていて、そして、何事も無かったように
そこでようやく俺は動き出して、不良の方へと向かった。
「そこ、俺の席――」
「なあ」
俺の話など聞こえなかったと言わんばかりに、言葉を遮ってきた。少し身体に緊張が走り唾をゴクリと飲み込んだ。
「こいつさぁ」
そいつは右肘を彼女の机に乗せたあと、親指を立てて彼女のことを指した。
「パン屋で買い物してっとき、おせぇからって舌打ちされて、そんで、挙句の果てに割り込まれたんだとよ」
…………は?
「どう思う? これ」
「…………は?」
頭の中で考えていた言葉が、そのまま口から出た。
混乱する俺を
「そうだよな! 『は?』だよな! ほら、やっぱり普通はキレんだよ」
「えー、陰キャくんもそうなのー?」
「だって、どう考えても許せるライン超えてんだろ、それぇ」
「そうかなぁ……」
「いや、だって考えてみ? 自分の家族がやられてたら――」
こいつらの会話が進めば進むほど、こいつらは俺の知らない
宮田桜。
身長は推定約165センチメートル。体重は推定約50キログラム。スラリとした身体に、小さな頭を乗っけて、それから長髪を被せて眼鏡を着けたような外見。
特徴とするのは、喜怒哀楽の豊富さ。そしてそれらを素直に表現する表情筋たち。
永峯ゆうか。
身長は推定約150センチメートル。体重は推定約45キログラム。メスの割に筋肉質な身体に、コンパスで描いたような丸い頭を乗せて、短い茶髪を生やしたような外見。
特徴とするのは、口遣いの悪さ。そして何より、それを象徴するかのような、オスのような振る舞い。
……まあ、ほとんど俺は喋っていなかったが。
今日は一日中、パン屋で割り込みをしてくるような中年男性の実態について、議論をしていた。九割近くがゆうかの批判的(というか半ば罵詈雑言)な意見だったが、時々桜が意見を言う時もあった。
特に印象に残ってるのは、帰り際の会話。
ゆうかが、「帰ろーぜー」と言って桜の肩を後ろから叩くと、桜が急に振り返って、真面目な声でこう言った。
「あのおじさん、やっぱ私のせいで不機嫌になったのかな?」
質問自体が、意味不明だった。
確認なのか、そういうボケなのか、それとも真面目な質問なのか。どれに当てはめても、頭がおかしいとしか思えなかった。
俺は彼女のことを前の席から見てたので、どんな表情で言っていたのかは分からなかったが、きっと、マヌケ面でとぼけていたのだろう。いわゆる、「キャラ作り」というやつだ。他の
俺はそう、思い込むことにした。
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