水族館デートの意味するものは(「パラレルワールドの不条理」シリーズ第8作)

ムーゴット

第1話

水族館デート、って、

とっても含みがあるシチュエーションだと思っていた。


薄暗い中に、キラキラ光る水槽の照明。

お魚という共通の話題を交わしながら、

いつしか自分たちの話にすり替えていく。


青春真っ最中の高校生の男女にとって、

憧れのシチュエーション、

2人の関係が一歩前進する、素敵な舞台だと思っていた。


でも、私は、その舞台を経験することなく、

2段飛ばしで、大人の階段を登ってしまった。


その時は、その先輩が本当に好きだった。

同級生にはない頼りがいのある、大人に見えた。

一生、この人しかいない、と思っていた。

でも、今思えば、クソ男に遊ばれただけだった。

私に飽きた、その理由をわざわざ口にするクソ男に吐き気がする。

浮気されて、しばらくは二股状態で、

気付いた時は、この世の終わりかと思ったけど、

こんなクソ男のために終わらせてたまるか、と思い直した。

一晩泣き明かしたけれど。


高校3年になった私は、高校2年の私を褒めてあげたい。

よく立ち直ったね。頑張ったね。






後からクソ男と判明したとはいえ、当時は彼氏がいるという理由で、

クラスの男子からは一目置かれていた。

彼氏持ちの女には、好かれる必要はない、

とでも思われていたのか、結構フレンドリー、というか、

バカ話やエッチな話にも平気で巻き込まれた。

クラスの女子に告白したい、という男子の仲介をしたり、

恋愛相談もよく持ちかけられた。






そんなある日、学校の昼休み。

佐藤(さとう)くんがちょっと相談したいことがある、との事で、

佐藤くんグループ男子4人と一緒にお弁当を食べていた。


佐藤くんは、オナチュウで卒業後は一度も会っていない、

当時は友人ですらなかったクラスメートの女の子を、

忘れられない、デートに誘いたい、との話だった。


「無理でしょ。そんな状況で、いきなりはあり得ない。

偶然を装って帰り道で待ち伏せする?

女の子からしたら、それはキモいだけ。」

「クラスの中で一番可愛かった子なら、

高校でもうとうに唾つけられているか、決着がついているよ。」


「そうだよなぁ。

卒業式以来だから、もう一年近く経過しているからなぁ。」


「最終的に諦めるには、

現状を確認してからでも遅くはないとは思うが、

まあ難しいだろうね。」


「うん、うん。」

と、一同諦めで賛同。


「じゃあ、今のクラスの中なら一番は誰?」

男子の一人が佐藤くんに質問。


「うーん。

強いて言うなら、霞(かすみ)さん!」


「おぉおーーー。」

「ヒューヒューゥーー。」


「まあ、まぁ、ありがとう。

でも、ごめんなさい。私のタイプじゃないわ。

彼氏もいるし。」


「わかっ!ているよ。

クラスの中での話だから。本命は中3の時の子なんだから。

じゃあ、まーくんは誰?」


「ぇ、俺?

俺は、、、、高井(たかい)さん。」


「へーそうなんだ。

じゃあ武佐士(むさし)は?」


「俺は、、、、なぁいしょ。」


「ズルいぞ!」

「腹黒男だなー。」

「友達なくすぞー。」


「じゃあ、霞さんは?」


「私は、クラスの中でなら、武佐士くんが一番好き。」

武佐士くんの、はっ!とした顔を見て、

ちょっと得意げな私。


「でも、総合第一位は大沢先輩だから。

ごめんねー武佐士くん。」






そして、高2の春、クソ男と別れる。


今にして思えば、私は大バカだ。大失言。

彼氏と別れたから、次は武佐士くんと、なんて。

超打算的!って思われるよ。

そんなつもりはないけれど、

高2の夏、今の総合第一位は武佐士くんです。

この気持ちを伝えることができるのか?


あぁ、水族館行きたい。

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