サンタの捕獲大作戦!後編

 ◇◇◇


 12月24日20時00分


「そろそろ寝ないと、サンタさん来てくれないぞ」

「「はーい……」」


 チキンにクリスマスケーキを食べ、既に眠くなってきている2人。

 素直に子供部屋へと戻っていく。それを見送る星斗と美夏。

 

「暫くしたら準備しようか」

「そうですね、プレゼントはもう準備できてますよ」

「サンタ衣装も借りてきたし、万が一でも大丈夫だろ」


 12月24日23時45分


 サンタ衣装に付け髭、もしもの為のサングラス姿の不審者がそこに居た。

 大きな袋を背負い、準備万端である。

 恥ずかしいコスプレ姿だが、星斗はやる気十分である。


「星斗さん星斗さん、こっち向いてください」


 そう言いながらスマホのカメラを向ける美夏。

 ウキウキで写真を撮る美夏と、ノリノリでポーズをとる星斗。

 ただのコスプレ撮影会をしている2人。


「ふぅ……なかなか楽しいじゃないかクリスマス」

「ですね、こういうのも楽しいです」


 撮影会を存分に楽しんだ2人は一通り満足したのか、本題のプレゼントを届けに行くことを思い出す。

 

「おっと、もうこんな時間だ。そろそろプレゼントを置きに行こうかな」

「そうですね。一応、2人が一生懸命何か作ってたので……気を付けてくださいね」

「大丈夫だと思うけど、一応用心しておくよ」


 階段の前に立つ2人。


「現在の時刻は12月24日23時50分。これより、作戦を開始する」


 サンタクロース姿に扮した仁代星斗じんだいせいとは、おもむろにプレゼトの入った袋を担ぎ上げる。


「星斗さん、頑張って!」

「行ってくる」


 祈るような表情で、しかし口元はしっかりと笑いを堪えている表情で、星斗を送り出す美夏。

 覚悟を決めた顔だが目は非常に楽し気な星斗は、駐在所の2階へと階段を登り始めた。

 美夏は一応、用心のために1階で待機することにしたため、星斗だけが階段を登る。

 子供部屋の扉の前までやって来て、星斗は深く息を吸う。


「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁ」


 今の所、特に何かが仕掛けられている様子はない。

 流石に用心し過ぎかとも思いながら、星斗が扉の前に立つ。

 呼吸を整え、ドアノブに手をかける。ゆっくりと音を立てないようにドアノブを回し、そっと扉を開ける。

 そこには。

 いつもと変わらない子供部屋の光景。

 小学生になったことで買った二段ベットと、小さなテーブルが置かれている。


(何もなさそうだな……)

 

 少し拍子抜けしながら部屋を一瞥し、室内へ入ろうと一歩を踏み出す。

 ふと、足元を見た時、白い線のような物が見えた。


(これは!?罠か!)


 踏み出そうとした足を引っ込め、顔だけ室内へ入れて白い線を追う。

 そこには積み上げられたブロックが設置されており、うっかり引っ掛かれば大きな音が鳴るようになってた。


(成程、鳴子の要領か……だがそれに引っかかる訳にはいかないんだな)


 罠を見破ってニヤリと笑いながら、大きくロープを跨いで部屋に踏み入る星斗。

 その足が空中で止まる。そこには目立たない黒色の線が張られていた。


(っく!まさかの二重トラップ……白色の線は発見されるのを前提としたもの。本命は安心して乗り越えた先の黒色の線!)


 目を凝らした先にあったのは、玩具の楽器達。

 タンバリンにトライアングル、太鼓が組み合わされて更なる轟音を響かせるように設置されている。


(我が子ながら恐ろしい子だ……だが!お父さんはそんな事には負けない!)


 更に奥に足を延ばし、カーペットの上に着地する。


(っ!!くっ!!)


 足の裏に走る激痛。


 涙目になりながらも、必死に漏れそうな声を押さえる。

 何かを踏んでしまい、今すぐ足をどかしたいが大股の為、引くにも引けない。

 足の裏が激痛と不安定な姿勢、行くにしても戻るにしても、どちらにせよ足の裏が痛い事には変わりない。

 行くも地獄、戻るも地獄。


(――――ぬぉっ!!!!)


 痛みに耐えながら大きくもう片方の足を前に進める。


(――――――――ぐぁっ!!!!!!)


 サンタの顔が歪む。

 着地したもう片足にも激痛が走る。

 まるで足ツボマッサージ。

 足元に目を落とすと、そこにはカーペットと同系色の小粒のブロックが撒かれていた。


(なんて――凶悪な罠――)


 マキビシの様に撒かれたブロック地帯をやっとの思いで抜け出し、漸く一息つく。


(ふぅ……叫ぶところだった……3重に罠を張ってくるとは、我が子ながらなんて恐ろしい奴らだ……)


 我が子の成長を喜んでいいのか悪いのか、判断に迷うところだが、サンタは以外と喜んでいた。


(まだまだ30代、そんなに身体は悪くないからな!足つぼもそこまで効かないからな!!)


 ズレた方向に喜んでいる星斗だが、本来の目的を思い出して二段ベッドの方へと目を向ける。

 そこには二段ベッドの下段に、2人が身を寄せ合って寝ている姿が見えた。


(随分大きくなったな……もう2人で寝るには狭いだろうに……)


 折角の2段ベッドだが、半分は遊び場となっており、寝る時はいまだに2人揃ってである。

 ベットの方へと歩み寄り、プレゼントを渡す準備をする。その時、床に転がっていたおもちゃを蹴飛ばしてしまい、コロコロとベッドの下に転がっていってしまう。


(――!やっば……2人は……大丈夫そうだな……)

 

 我が子の寝顔を見て感傷に浸っていたところに、冷や水を浴びせられたように素に戻り、サンタはプレゼントを袋から取り出して枕元へと置いていく。


(作戦完了!撤収!)


 サンタは任務を終え、素早くその場を撤収しようと踵を返し、一歩を踏み出した。


(えっ……)


 足が何かに引っ掛かる感触、恐る恐る足元を見ると先程まで無かった黒い線が空中を走っていた。

 大きな音を立てて倒れるブロックのタワー。

 更に連動して動き出した季節外れの扇風機がロープを巻き取り始める。

 連鎖するようにクリスマスツリーが倒れ、ハンガーラックのキャスターの転がって出入り口とベランダへ続く掃き出し窓を塞ぐ。


(ピタゴラ……ヤバい!2人が起きる!)


 装置に感動して一瞬見惚れてしまう。すぐに我に返り、慌てて部屋を脱出しようとするが、逃げ道を塞がれている。


「――おわっ!」


 突然、頭の上に何かが落ちてきた。

 思わず声を上げてしまうサンタ。

 上半身に何かが引っかかる。絡んで取れない何かを引き剥がそうと、星斗は両手で掴む。

 落ちてきたのは園芸用のネットのようだった。

 夏の時期に、日除けのグリーンカテーテンを作った時に使用したものだろか。


(くそっ!取れない!!)

 

 星斗が藻掻いている間に、布団がもぞもぞと動き出す。


「……ううん……サンタさん?」

「……サンタさん?……きてくれたの?」


 寝ぼけ眼で体を起こす伊緒と真理。


(まずい!)


 ようやくネットを外し、部屋の外へ出ようとする。

 そこで、ふと気付く。


(サンタが階段降りて行っていいのか……?)


 一度抱いてしまった疑問に、星斗の足が止まる。

 そして意を決して、もう1つの脱出口を目指す。


(ここからなら!いける!!)


 ベッドの脇の腰高窓に飛び付き、素早く解錠してして窓を開ける。

 そして躊躇することなく、その身を空中へと踊らせる。


「あっ!サンタさんまって!」

「サンタさん!おやつあるよ!」


 双子はサンタをもてなす為にお菓子を用意していたようだが、サンタは窓から飛び出して行ってしまった。

 何かに着地する音が冬の夜空に響く。


(怖っわ!――やっばい!落ちる!)


 サンタが着地したのは駐在所に続く通路の屋根の上だった。

 勢いに任せて屋根を駆け登り、テレビアンテナを掴んで子供部屋を振り返る。

 そこには身を乗り出してサンタを見つめる双子の姿があった。


(なかなかやるな、だけど今回はお父さんの勝ちだな)


 何をどう勝ったのか分からないが、1人満足し勝ち誇りながら双子に手を振る。

 そして逃げるように屋根の上を走っていくサンタ。

 そんなサンタを双子も手を振って見送る。


「サンタさんきたね!」

「でも、おやつたべてくれなかった……」


 興奮して喜ぶ伊緒と、おやつを食べてくれなかったと残念がる真理。

 

「サンタさんもいそがしいんだよ!」

「そっか……じゃあしかたないね。サンタさん!がんばってー!」

「「がんばってー!」」


 双子が大きく手を振りながらサンタにエールを送る。

 いつの間にか地面に降り立ったサンタは、再度手を振りながら走り去っていく。

 2人は暫くの間、見えなくなったサンタに手を振っていた。


 ◇◇◇


「お母さん!きのう、サンタさんきたんだよ!」

「プレゼントもらったんだよ!」


 嬉しそうにおもちゃの剣を振る伊緒と、大事そうに黒猫のぬいぐるみを抱える真理が、朝から元気にはしゃいでいた。


「そう……良かったね……サンタさんに変なことしなかった?」

「してないよ!バイバイした!」

「おやつたべてくれなかった……」


 2人は曇りなき眼で美夏を見つめる。

 若干顔が引きつりながらも、星斗の名誉が保たれたことを確認してホッと胸を撫でおろす美夏。


(星斗さん……お疲れ様でした)


 美夏は心の中で、バレていない心配で駐在所の事務所で伸びている星斗を労うのであった。


 ◇◇◇


「ねぇ、お父さん……サンタさんがわすれてった”ぼうし”、でぃーえぬえー鑑定できる?」

「やらないよ!?」

 真理のお願いは却下されたようだ。


 ◇◇◇


「伊緒!この傷は何!?」

「えっ……と……ごめんなさい……」

 おもちゃの剣で冷蔵庫を引っ掻いて怒られる伊緒。


 この後、双子にはサンタ捕獲禁止令が出されたのであった。

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