私の要らないアクセサリー
sui
私の要らないアクセサリー
拝啓、君へ。
『文句の多いヤツって嫌だよな』
君がそう書いていたの、SNSで見つけたんです。
ちょっとの言葉だったけど、君の事が好きだったから、きちんと覚えておきました。
それから友達として仲良く遊ぶようになって、君と付き合うようになりました。
初めて一緒に出掛けたのは友達の皆がいるカラオケでした。
君の歌はとても上手かったと思います。でも歌っていたのが誰も知らないバラードで、特に盛り上がりもせず感想もなく、君はこっそり一人不貞腐れていましたね。
後々、グループカラオケの曲選について色んな話が出ましたが私は何も言わなかったです。
二人っきりのデートは映画館からでした。
大人気作がいくつも上映している中で、君が選んだニッチな映画は少しも好みじゃありませんでした。
上映が開始しても中はガラガラ。内容も良く分かりませんでした。帰ってから調べても、ロクな感想は出てきません。
けれどもその日一緒に居られたのが嬉しかったので、私は何も言いませんでした。
君が「ああいう服が好き」とか「こういう子が好き」とアレコレ言っていたのは知っていました。
だから私は出来るだけ君が好むお洒落をして待ち合わせ場所に行きました。
けれども君はいつも少し遅刻して、謝罪も言い訳もないまま大体三十分位は面倒臭そうにスマホを弄っていましたね。
結局一度も私の恰好を褒めてはくれませんでした。
それでも自分が好きでしたんだからって、私は何も言いませんでした。
君はとてもお喋りで、いつでも先に口を開くから、私はずっと話を聞いていました。
生返事だと余計に構われようとするし、気の利いた返事をすれば通じなくってポカンとするか自分より上手い事言ったって不機嫌になるかだったから、毎回大変だったけれど、一生懸命喋ってくれるんだし、ってそんな風に思えてしまったんです。
ある日、君はプレゼントを持ってきてくれました。
開けてみれば、恋人らしい指輪でもない、一度もつけた事がないタイプのアクセサリー。
私の持ち物の中に一つも存在しない色で、服にも全く合ってない。好みの女子につけて欲しいと言ったお洒落の中にもない。
何でそれをくれようとしたのか考えても本当に分からなくって、その夜は全く眠れませんでした。
三日後、君が好きなアニメキャラのイメージに近い物らしいとやっと気付きました。
確かにその作品の話はしたし、私も君の好きなキャラいいねと言いました。でも私は違うキャラが好きだとも言ったんです。
覚えててくれなかったんだな。
私の事を考えてくれた訳じゃないんだな。
私の話、聞いていないのかな。
そもそも私の事、本当に見てるのかな。
そう思ったら、何だか全部が壊れてしまいました。
君にされて嫌だった事を許してきた意味が分からなくなったんです。
『自分の意見も言えないつまらないヤツ』
確かにその通りだと思います。強くは言いませんでした。
でも、私の為に選んでくれたのが嬉しかったのは本当だったし、一緒に居られたのが嬉しかったのも本当なんです。
それ以上、私は君に何を求めれば良かったですか。
と言うより私は君に何が求められたんですか。
薄々理解していたとは思いますが、君は別にイケメンではありません。
自分の身長が高い事を自慢していましたが、体重に比例して成長しただけだと思います。今は少し瘦せたみたいですけれど、それでも平均ではないですよね。なのにどうして他人には平均以上を求めるのでしょう。そうなるのはとても大変で努力が必要だって事、分かりませんか?
好きな物が好きなのは構わないと思いますが、君のセンスが良い訳ではありません。理解出来るのはごく一部の人間だけです。他人に全てを合わせる必要はありませんが周りがおかしいみたいなのはどうかと思います。だから誘われなくなるんです。それなのに俺ばっかりがって言うのは止めませんか。
君はいつでもお喋りで、自分の事を知らせるのに夢中で、周りはあまり見てなくて、それでいて自分以外が少しでも凄そうだったり偉そうだと感じればすぐ嫉妬していたでしょう。酷ければ嫌味を言っていました。誤魔化したって分かります。そもそも君は『文句の多いヤツって嫌だよな』って書いていましたよね。
自分と違う考えを受け入れてくれない。
そんな君に、いつどうやって私は気持ちを伝えれば良かったでしょう。
あんまりにも子供っぽ過ぎるから物凄く気を付けてやんわり言ってみたのに、君には通じなかったじゃないですか。
文句の多いヤツは嫌い。そんな君のSNSは他人と世間の悪口ばかり。
恋人のダメな所で笑いを取るのは楽しかったですか?そんなに私は不格好だったでしょうか?
思えば何故君の事が好きだったのか、今はもう分かりません。
どうぞ君と一緒に私を笑ったあの子と楽しくやっていって下さい。
この大馬鹿野郎が、早々。
追伸、あの子の裏アカのID、メモにして入れておきますね。
私の要らないアクセサリー sui @n-y-s-su
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます