第9話 三大美女との遭遇

 日曜日。

 学生にとっては極楽浄土が終焉を迎える日である。

 日曜日の夜はこれでもかというくらいに眠れなくなる。

 もちろん僕もその一人だ。

 

 学校に行けばあの三大美女と会うし、何より最近やたらと絡んでくる。

 そして一番問題なのが神埼さんだ。

 神埼さんと連絡を交換して以来、事あるごとに電話を掛けてくる。

 

 何やら『一人暮らしだから寂しいから』らしい。

 気持ちはわかるが……白雪さんとかに電話すればいいじゃないか。

 

 どうして僕なんだ……。

 これじゃ……まるで僕がラブコメ的存在じゃないか!!

 

 「お兄ちゃんご飯食べてるときになんで頭抑えてるの……」


 「いや……僕がラブコメ的存在になってしまうのではないかと思ってな」

 

 「ついに克服したんだ」


 「克服なんてしないよ。雛田が僕の作った料理以外を食べないのと一緒で、

 僕は一生ラブコメ的存在は嫌いなままだ」


 「私はラブコメ的存在?」


 「義妹は別に現実的に有り得そうだからOK」


 「(現実でもそんなないでしょ義兄弟なんて)」


 ちなみにだが、僕が暮らしているのは普通の一軒家だ。

 僕と雛田の二人暮らし。僕が父さんに頼んだのだ。

 父さん達はとてつもない豪邸に住んでいる。

 

 「それより! 今日はデートだよお兄ちゃん!」


 「 な」


 兄妹お出かけのことをデートとは言わん。

 

 「いやデート」


 「お出かけな」


 「デートって言ってくれなかったら私ラブコメ的存在になるよ」


 「デート楽しもうな」


 やっぱり雛田とデートするのが一番だな〜!

 

 このままいくと僕……雛田に利用されるかもしれない……。

 もう神楽家の権力……雛田が引き継いでいいよ。

 

 「デートって言っても服買いに行くだけだろ」


 「そうだよ?」


 「なら別に一人でよくね?」


 「私が一人で出歩いて誘拐されたらどうするの?」


 「一緒に行こうか」


 「やったぁ!」


 雛田に甘いタイプなのかな。

 まぁ……あの幼馴染に次いで二人目だしな。ラブコメ的存在ではない女子は。

 

 「じゃっご飯食べ終わったら準備して行こうか」


 「私はもう食べ終わった」


 「:D」


 

 


 ◆

 

 

 

 

 「お兄ちゃん早く行こうよぉー!」


 「ちょっと待てって……」


 「海風も待ってるってばぁ!」


 忙しい義妹だな。そんなに楽しみかね。

 ただ服買って帰るだけなのに……それに付き合ってくれる海風さんは優しいなぁ。

 

 なんて考えながらゆっくりと靴を履いて玄関を出る。

 家の前には、この住宅街には似合わない高級車と、さっき言った海風さんがいた。

 

 海風さんとは、神楽家直属のドライバーの一人である。

 常に首輪をつけており、神楽家の人間に手を出した場合、この首輪が破裂するようになっている。これは神楽家現当主である父さんでしか外せないらしい。

 不憫だなぁ。

 

 「すみませんね海風さん」

 

 「いえ、御二方を送り迎えするのが今回の任務ですから」


 ちなみに女性である。

 海風瑠奈 (24) 元々会社員だったが、会社が倒産してホームレスに。

 身売りを始めようとしていたときに、僕が声をかけたのである。


 「護衛の御人も乗られますか?」


 「どうする? 雛田」


 「私は別に良いよ、どうせ話せないし」


 「香織も乗ります」


 「かしこまりました」


 西条香織 (28) 僕が直々に選んだ神楽更沙専属の護衛人だ。

 この人はラブコメ的存在ではないのでセーフ。

 それと喋れないというのは護衛人の掟らしい。僕は普通に話したいんだけど。

 

 「お兄ちゃん早く乗ろぉー」


 「はいはい」


 座席に着くと、すぐにシートベルトもつけずに雛田がくっついてくる。

 僕と雛田の後ろの座席に静かに乗り込んだ香織さん。

 この人気配の消し方が上手だから、時々焦るんだよな。

 

 「では出発いたします」


 海風さんはすごいなぁ。

 神楽家の人間を運ぶということは大統領を運ぶのと同義らしい。

  それを冷静にしかも二十四歳で成し遂げるとは……さすがだね。

 ちなみに事故ったら海風さんの首が飛ぶ。


 「ねぇねぇお兄ちゃん」


 「なんだ雛田」


 「学校でなんかあった?」


 「あったぞ? めちゃくちゃ」


 「どんなことがあったの?」


 「三大美女と仲良くなった」


 「他には?」


 「告白されて、カラオケ行って、連絡先交換した」


 「最初と最後が聞き捨てならないよ」


 雛田の顔がめちゃくちゃ恐い顔になる。

 何に対して怒ってらっしゃるの? あなたは。


 「で、その三大美女とかいう人たちの名前は?」


 「白雪萌音と西宮葵と神埼希だけど」


 すると運転していた海風さんが吹いて、香織さんが頭をぶつけ、雛田はぽかんとしていた。

 何かしちゃいましたかね。

 

 「お兄ちゃん西宮家の人間と会ってるの!?」


 「そうだな、学校一緒だし」


 「馬鹿じゃないの!?」


 「お前よりかは頭良いが」


 「西宮葵っていう人! お兄ちゃんのことちゃんと御主人様って呼んでるの?」


 「いや、更沙って呼ばせてる」


 「ばっかじゃないの!?」


 雛田よ。さすがに馬鹿馬鹿言い過ぎではないか?

 僕のメンタルが崩壊するではないか。


 「その西宮葵っていうやつには処罰が必要ね!」


 おっと雛田さんや。

 それはやりすぎだな。

 ここは一つお灸をすえねばなるまい。

 いくら嫌いなラブコメ的存在といえど、個人のことになると話は別だ。

 

 「雛田」


 「なに!」


 「それをした瞬間、はお前を排除する」

 

 「ッ……! でも……」


 「葵はの友達だぞ。僕の友達に手を出すのか?」


 「……わかった。お兄ちゃんが言うなら……」


 よし。これで当分僕をからかうことはないだろう。

 いやぁ〜久しぶりにお灸をすえるのは爽快だなぁ〜!

 

 「そんなに落ち込むなって。雛田が僕のことを思って言ってくれたのは知ってるからな」


 「お兄ちゃん……」


 「デート前なのに気分が下がってしまっては元も子もないからな」

 

 「お兄ちゃん……好き……結婚しよ」


 「ラブコメ的存在になってしまうから無理」


 「非道い!」


 なんて楽しい愉快な会話を繰り広げていたらあっという間にショッピングモールについた。

 

 

 ◆

 

 

 

 「お兄ちゃん早く行くよ!」


 「大声でお兄ちゃんと言うのはやめてくれ羞恥心で死んでしまう」


 「じゃあ神楽更沙って本名で呼ぶよ」


 「好きなだけお兄ちゃんと言いなさい義妹よ」


 こんなとこで神楽家だとバレるわけにはいかんからな。

 

 「それにしても人多いね〜」


 日曜日だからな。

 みんな来るだろ。カップルとか友達で。とか。

 俺達ぐらいだろ、兄妹でデートしてるやつらなんて。

 

 「デートしてる人も多いね」


 「友達同士の方が多いだろ」

 

 友達同士で来てる人よりデートで来てる人の方が多いだなんて耐えられない。

 リア充とかは別にどうでもいいんだけど。風紀がな。

 

 「見て! お兄ちゃん!」


 「なんだい雛田よ」


 「あそこにめっちゃ可愛い人がいる!」


 雛田にそう言われて、指をさしているところを見た。

 人に指をささない! と注意をする言葉よりもさきに、とんでもない速さで

 ラブコメ展開危険アラートが鳴り響いた。

 

 「あれ? 神楽じゃん」


 「更沙くんだ! 奇遇だね!」


 「更沙ー!」


 香織さん、仕事のお時間だよ(泣)




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