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鬼さん、鬼さん。
こっちにおいで。
にっこりと笑って、(ぱんぱんと小さな手を叩きながら)口だけを動かしてそんなことを百目の獣鬼は若竹姫に言った。
見るといつの間にか、百目の獣鬼の顔は玉姫の顔から、今度は別の人の顔に変わっている。(本当にかげろうのように百目の獣姫の顔は、ころころと変化をしながら、不気味にぼんやりと揺らめていた)
それは若竹姫自身の顔だった。
だけどその顔は小さな若竹のころの懐かしい自分自身の顏だった。(泣いてばかりいたころの私の弱虫な顔がそこにはあった)
まるで今だけ、小さな童のころの自分に、ずっと昔に戻ってしまったような、あるいはそんな昔のことを映し出す力のある小さな鏡を見ているような、そんな不思議な気持ちに若竹姫はなった。
……、自分と同じ顔をした人がもう一人いる。(しかも、自分の目の前にたっている)
それだけで、なんだかとても不気味な気分になる。
百目の獣姫は白い月の輝いている、明るい満天の星空の夜の中を楽しそうに駆け抜ける。
その百目の獣姫のあとを若竹姫は風のように追いかける。
できれば刀を手に入れたい。
刀のある部屋のそばに行きたいと、若竹姫は思う。(なんとか誘導しようと思ったけど、百目の獣姫の動きが素早すぎてできなかった)
……、でも、そんな若竹姫の思いを知っているかのように、百目の獣姫は若竹姫が携えてきた鬼を切るための神刀のある部屋とは別の方向へと走っていく。(あるいは、もしかしたら本当に、神刀の持っている鬼を切るための力を感じで、そこから離れようとしているのかもしれない)
若竹姫は百目の獣姫を追いかける。
しかし、いくら全力で駆け抜けても、百目の獣姫に追いつくことができなかった。(それは、まるで自分の影を追いかけているかのようだった。百目の獣姫と若竹姫の間にはつねに、ある一定の距離があった。お互いの身体能力とは無関係に、あるいは百目の獣姫はなにかの、若竹姫の知らない鬼の妖術を使っているのかもしれない)
……、でも、あまりにも若竹姫のことを甘くみすぎていたのか、あるいは、思っていた以上に若竹姫が頑張るので、まるで仲良しの友達と一緒に遊んでいるかのように、追いかけっこに夢中になって楽しそうに遊んでいて油断してしまったのか、百目の獣姫は思わず若竹姫との追いかけっこの途中で、おどけているときに、鳥の巣のさっきまで降っていた雨にまだ濡れているところのある屋根の上で、つるっと足を滑られて、危なく、転びそうになってしまった。
あ、しまった、という顔を百目の獣姫はする。
その百目の獣姫の油断を見逃すほど、若竹姫は甘くはなかった。(捕まえた、と若竹姫は思った)
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