36 空っぽの木の鳥籠
空っぽの木の鳥籠
「これ、若竹姫にあげるよ。よかったら使って」
そう言って、玉姫は若竹姫に大きな手作りの木の鳥籠を手渡してくれた。
「これ、玉ちゃんが作ったの?」
その立派な(きちんとした売り物としても、宮中の中でも贈り物としても、十分通用するような)木の鳥籠を抱えながら、玉姫を見て驚いたような、感心したような顔をして、若竹姫は言う。
(少し前に、都を襲ったとても大きな災害でお父さんとお母さんを亡くしている天涯孤独の身である珍しい亜麻色の髪をした美しい十歳の女の子、玉姫は都の花火職人の工房にお世話になって、そこで花火の作りかたを生活のために学んでいるらしいのだけど、そのお師匠さんである花火職人の親方に花火の技術だけではなくて、若竹姫のために木の鳥籠を作ってくれたように、ほかにもさまざなないろんな工芸の技術を教えてもらっているようだった。玉姫はそんな工房でのいろなんできごとを楽しそうに若竹姫に話してくれた)
「もちろん。私の手作りだよ。がんばったんだ」
ふふっと笑いながら、自信満々の顔をして玉姫はいう。
玉姫が顔を動かすと、いつものようにちりんと玉姫の髪につけている赤い紐で結ばれている黄色い鈴が気持ちのいい音を立ててなった。
若竹姫は木の鳥籠を両手に持ちながら、無言のままで、じっとその木の鳥籠を見つめている。(よく見ると、木の鳥籠の細かいところには少しの失敗のあとや、いろんな工夫のあとがみてとれた)
「がんばって作ってみたんだけど、……若竹姫。本当に、いる?」と今度は少し自信のない顔をして玉姫は言った。
今日は、若竹姫の十歳のお誕生日の日だった。(玉姫はどうやら少し前に若竹姫が欲しいものってあると聞かれて、……、鳥籠が欲しい、と話したことを覚えてくれていたようだった)
本当ならとてもおめでたい日なのだけど、若竹姫はおめでたいとは全然思っていなかった。(……、お誕生日の日は、あまり好きではなかったのだ。だから、本当に玉姫の贈りものが嬉しかった)
「……うん。ありがとう。玉ちゃん。すごく嬉しい」と珍しく本当に(心の底から)嬉しそうな顔をして、にっこりと笑って(いつもは感情をあんまり表情に出さない、よく宮中の美しい姫たちみんなから仮面をかぶっているみたいだとくすくすと影で笑われている)若竹姫は言った。
そんな若竹姫の笑顔を見て、玉姫は「若竹ちゃんが喜んでくれて、私も嬉しい!」と言ってぱぁと花が咲いたような、満足そうな顔をした。(そんな玉姫の手には、花火職人の工房で修行しているときについた、小さな傷がたくさんあった)
二人は今、若竹姫の実家である都でもとても古くて大きな由緒ある神社の境内の中にある本殿の石造の階段のところに二人で仲良く並んで座っていた。(ここが二人がよくあっているないしょの場所だった)
若竹姫は嬉しそうな顔をして、玉姫からもらった大きな木の鳥籠をぎゅっとその胸のところに置いて抱き締めている。(まるで玉姫を抱きしめているみたいにして)
その空っぽの木の鳥籠からは、削りたてのとてもいい木の匂いがした。(思わず、くんくんと匂いを嗅いでしまった)
その鳥籠は若竹姫の宝物になった。
「じゃあ、若竹ちゃん。遊びに行こう!」と玉姫は言った。
「うん。玉ちゃん」と若竹姫は言った。
それから二人はいつものように都の中に遊びに行った。その間、若竹姫はずっと木の鳥籠を大切そうにして、胸のところに両手で抱えて持っていた。
大地の上を走りながら、ちりんと玉姫の髪につけている黄色い鈴が鳴った。
今も空っぽのままの鳥籠は、若竹姫の部屋の中に大切にしまっておいてあった。
……、空っぽのままの鳥籠。
その鳥籠の中に鳥を捕まえておくことを、若竹姫は今のところ、全然するつもりはなかった。(鳥籠が欲しいといった若竹姫だけど、はじめから鳥は捕まえていなかった)
その空っぽの鳥籠を見て、若竹姫は遠くにいってしまった白藤の宮のことを思った。
玉姫の顔になった百目の獣姫の顔を見て、ずっと、心の中にしまっていた、とても大切な、そんな昔の懐かしい思い出を若竹姫はふと、きゅうに思い出していた。
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