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 涙で滲んだ視界のまま、若竹姫が顔をそっと上げると、そこには竹串にさした大きな桃を若竹姫に向かって差し出してくれている白藤の宮がいた。(なんだか桃はきらきらと光って見えた)

「さあ、若竹姫。桃をお食べ。甘くて、すごく美味しいですよ」

 ふふっと笑って(まるで若竹姫が小さな童のときのように)白藤の宮はいう。

「……はい。いただきます」

 真っ赤な色をした涙目のままで、小さく笑うと、若竹姫はそのまま顔を動かして白藤の宮が差し出してくれている一口の大きさに切った桃をぱくっと食べた。

「美味しい」

 頬を膨らませたままで、にっこりと笑って若竹姫はいう。

 それは本当に美味しい桃だった。

 冷たくって、甘くって、優しくって、……本当に美味しかった。(なんだか、懐かしい味がした)

「よかった。まだたくさんあるから、もっといっぱい食べてもいいですよ。いくらでもおかわりを用意してあげます」

 嬉しそうな顔をして白藤の宮はいう。

「ありがとうございます」

 流した涙を自分の白い指先でそっと拭いながら、若竹姫はにっこりと笑ってそう言った。

 笑顔になった若竹姫を見て安心したのか、乗り出していた体を引っ込めて元の(お手本みたいな正座の座りかたの)姿勢に戻ってから、白藤の宮はもう一つの(自分のための)竹串を手に取ると、それを大きな桃に刺してゆっくりと上品な仕草で自分の口の中に運んだ。

「うん。美味しい」

 若竹姫を見て、頬を大きくしたままの白藤の宮は(なんだか得意げな顔をして)そういった。

 それから二人は桃をすぐに食べ切った。(桃は一つの大きな実を八つ切りにしてあった)

 それから若竹姫は白藤の宮の言葉に甘えて、桃を一つ、おかわりしてちゃんと綺麗に全部、食べ切った。(それに元気になってしっかりと泣き止んだ)

 ……、若竹姫の小さな形のいい耳に、森に降る静かな雨の音が聞こえた。(その音はだんだんと小さく、弱くなっていった)

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