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古い木の家の中には、玄関からすぐのところにある、居間の真ん中に火を灯す囲炉裏があって、ぱちぱちという気持ちのいい音を立てて、小さな火が割ったばかりの薪に灯っていた。
その上にはお湯を沸かすための小さな鉄製の(お魚の形をした横木の下に)急須があり、そこで白藤の宮はお茶を沸かしているようだった。
若竹姫の耳に、ことことと、気持ちのいいお茶の沸く音が聞こえた。
白藤の宮の家は、いくつかの部屋にわかれていて、そのどの部屋も四角い間取りをしていた。とてもものの少ない家で、余計なものは、なに一つ置いていなかった。(そのかわり、ひとつひとつのものに白藤の宮のこだわりのようなものがあった)
古い(とても立派な)桐のタンスと、生活に必要なものをおくための雅な棚。曇りのない丸い鏡と最低限のお化粧をするための(年季のある)道具類が置かれている化粧台。
そういったもの(大切にされている道具)たちが、若竹姫の大きな黒い瞳の中に興味深く、ひとつひとつ、うつりこんだ。
「どうぞ」
と言って白藤の宮は若竹姫のために、あったかいお茶を入れてくれた。(変な動物の絵が描かれている湯呑だった。……、虎だろうか?)
「どうもありがとうございます」
そう言って、若竹姫はそのお茶を手にとって、ひと口だけ飲んだ。(それは、熱すぎることもなく、ぬる過ぎることもない、とてもちょうどいい温度をした、とても美味しいお茶だった)
「美味しい」と、にっこりと笑って、若竹姫は言った。
(そのお茶からは、なんだかとてもいい、さっきまで若竹姫が歩いてきた森の匂いと同じような、雨に濡れて湿気を帯びた、雨上がりの森の木々の緑の匂いがした。このあたりの森で育てたお茶なのかもしれない)
「どうもありがとう」
と嬉しそうににっこりと笑って白藤の宮は若竹姫にいった。それから白藤の宮は自分のぶんのお茶を、ひと口だけゆっくりと(お手本にしたくなるような)上品な仕草で飲んだ。(白藤の宮の湯呑にはやっぱりちょっとだけ変な鳥の絵が描かれている)
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