鳥の巣 とりのす
雨世界
1 ……いつか、あなたの元に。
鳥の巣 とりのす
……いつか、あなたの元に。
春は、目覚め。
夏は、育み。
秋は、実り。
冬は、眠り。
春にあなたと出会い、
夏に私はあなたの幽霊と出会い、
秋に自分の影を踏んで、
冬に私はひとりぼっちになる。
世界には小雨が降っている。
……悲しい雨。
そう感じるのは、私が今、泣いているからなんだろうか?
森の奥
はじまり、はじまり。
おーい。なにしているの?
都で暮らしている若竹姫が静かな古い森の奥に足を踏み入れると、そこには生い茂る深い緑色の森の中に建てられている、古い一軒の小さな家があった。(森の中を歩いているときに、姿は見えないけれど、どこか遠くから、鳥の鳴き声が聞こえた)
古いけれど、とても綺麗に掃除や手入れをなされている、……そこに、その家があることが、少し不思議だと思うような、……そんな小さな家。
その家には、一人の(とても魅力的な、でも少し変わった)女性が住んでいた。
年のころは若竹姫よりも、ずっと上で親子くらいの違いがあった。
その女性に会うことが、若竹姫がこの深い森の奥にまで、わざわざ遠くからやってきて、足を踏み入れた理由だった。
その女性の名前を『白藤の宮』と言った。
「あの、お久しぶりです。……若竹です。若竹姫です。白藤の宮。……いますか?」
木のいい匂いのする、小さな家の玄関の前で、若竹姫は言う。
すると、少しして、家の中で誰かが動く音がした。
森は、少し前に雨が降ったのか、木々の葉や幹は、しっとりと濡れていた。土も少し、ぬかるんでいる。白い靄のような霧も少し出ていた。そんな水気を帯びた森の中の空気は、とても新鮮で、気持ちが良かった。(それになんだか、少し神秘的な雰囲気を感じた。それは、この森の奥を訪れるときに、いつも若竹姫が感じる感情だった。……森は、まるで別の世界のようだった。都とは違う、不思議な世界。もう一つの世界。そこにあなたは、ずっと閉じこもるようにして、ずっと一人で暮らしているのだと思った)
「はい。いますよ。まだ、私は生きてます」
がらっと言う音がして、木のドアが開くと、そこには白藤の宮が立っていた。
掃除をしていた最中なのか、鮮やかな着物の上に白い前掛けと、頭に白い頭巾をかぶっている。
そんな白藤の宮はまるでお化けのように、両手を自分の胸の前で、だらんとさせて、ふふっと笑いながら、小さないたずらっ子のような顔をして、若竹姫にそう言った。
そんな、いつまも子供のままでいる白藤の宮を見て、若竹姫は「はい。知ってます」と、少し呆れた顔をしたあとで、くすくすと、小さく笑ってそう言った。
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