メリーさんが転んだ

いぎたないみらい

都市伝説・メリーさん

何度も電話をかけてきて、その度に現在地を知らせてくる。その現在地は段々と自分に近づいていて、最後には背後から刺される。

持ち主に棄てられ、怨念を纏った人形。


そんな化け物が。


『もしもし。私、メリーさん。今、電車に乗っているの』


今、俺の目の前の席に座っている。


(えっ。嘘だろ。メリーさんって瞬間移動とかするんじゃねーの?)


仕事帰りに、都市伝説に遭遇してしまった。

戸惑いを隠せない俺の耳に、アナウンスが届く。


[ 次は~、糠南駅~、糠南駅~ ]


(お、着いた)


メリーさんがぴょこんっと席から降りる。

そしてそのまま、トコトコと扉へ向かった。


(マジか。同じとこで降りるのかよ……)


そう思いつつ、距離を取って後ろを歩く。

いや……………、歩こうとした。


『ぷきゃっ』

「…………はっ?」


変な声を出しながら消えた。幻覚だったのか?と思いつつ電車を降りると、下にいた。


(ホームと電車の隙間に挟まってる……!)


『お、お助け~~~……』


(どうしよう………。てか他の奴ら、見えてないのか?)


非常に少ない乗客はメリーさんに見向きもせず、声も聞こえていない様子で電車に乗り込む。

困っているところを助けたら、そのままどこかへ引きずり込まれるかもしれない。もしかしたら、そんなことはないのかもしれないけど、万が一にもそうなったら嫌だ。

あとなんか、俺だけ見えるっぽいから変人だと思われたくない!


(よし!シカトしよう!)


[ 電車が発車いたしまぁす ]

『あっ、あっ。こすられちゃう……』





『助かりました……。このご恩、一生忘れません』


助けてしまった。

どこかへ引きずり込まれたりはしなかったので良しとしよう。


「いや、いいよ。困っている人を助けるのは常識だからね」

『!なんて清らかな心を持ったお方……!』


良い印象をつけるのは成功したようだ。

適当でも褒められてるときにそれっぽい謙遜しとけば、勝手に評価が上がる。

メリーさんと並んで歩きながら色々聞いてみる。こんな機会、滅多に無い。


「誰のとこに行こうとしてんの?」

『山田春多、という方です』

「へー。俺と全く同じ名前だなぁw ちなみにどこ?」

『そこの十字路を右に曲がって、ずーーっと真っ直ぐ行った突き当たりのマンションの、3階の左角のお部屋です』

「めっちゃ詳細w ここ曲がって真っ直ぐねぇ………。……………………え?」


あることに思い当たり、思わず歩みを止める。


『どうしました?』


(え、待って。そこって………)



「―――………俺の、部屋…………。なん、だけど………」



俺とメリーさんは顔を見合わせ、同時に走り出した。



「『 泥棒ーーーーー!!!!』」



「いやそもそも!俺んち固定電話ねーよ!」

『え゛え!無いんですか!?』

「最近は無いとこ多いんじゃないかな!」


走りながら駄弁る。


「電話して、電話!着くまで繋げたまんまにして!」

『はいっ!―――もしもし。私、メリーさん。あと10秒で着くの』


(10秒で着くかなああぁぁ!!!?)


そう思った矢先、何故か走る速度が上がった。メリーさんがカウントしている。


『8』


階段を駆け上がる。


『7』


ドタドタと廊下を走る。


『6』


左角の部屋の前に着く。


『5』


鍵を取り出し、鍵穴に差し込む。


『4』


ドアを開け、バタバタと部屋に入る。


『3………2………1……』

「何しやがってんだテメェェ!!!」

「うぎゃぁぁぁ!!!?」


力任せに引き戸を引くと聞き覚えのある声の悲鳴が上がった。


「なっ、何々!?なんなのおにぃ!?」

「………………………………茉瑚??」

『……………………お知り合いですか?』




「―――つまり、俺んちに来た途端メリーさんから電話がかかってきた、ってことか…」

『よかったです……、妹さんで…。泥棒だったらどうしようかと思いました』

「にゃはははw ごめんごめんw」


妹の茉瑚から話を聞いて、ほっとした。

小さなちゃぶ台を3人で囲み、茉瑚がいれたお茶を飲んでひと息ついた。


「ねぇメリーさん。これからどうするの?」

『えっ?』

「あー。驚かすの失敗してるし、もう帰んのか?」

『……………アッ』


固まった。

2人で見ていると、メリーさんがおもむろに受話器を取った。


『………もしもし。私、メリーさん。今、……あなたの目の前にいるの』

「ふっ…んふふふふww うんうん。次、来たらシュークリーム買ってくるね。おにぃが」

「お前が買ってこいよ」


しばらくこんな風に駄弁った。




「じゃあねー。また来るよー」


玄関で靴を履き、ドアノブに手をかける妹に声をかけた。


「おい待て茉瑚。俺、お前に合鍵渡した覚えないんだけど……」

「やっだなぁ~~~、おにぃ!w 前に鍵貸してくれたじゃん!w」


確かに貸した。うちに来て「泊めろ」って言ったから、合鍵を渡した。けど、帰り際にちゃんと返してもらった。


「そんときにねー。合鍵作って貰ったのー」

「はっ……おまっ……」

「ママも持ってるよ」

「だからなんか片付いてるときあったのか!!」


その場に膝から崩れ落ちた。


「おにぃのお宝あったよぉ…………?」

「燃やせっっ!!!」


屈辱的である。メリーさんに聞かれているというのもまた恥ずかしい。


「じゃあ、メリーさん。また…………」


妹がメリーさんに声をかけるも、止まった。


「?どうした?」

「……………………メリーさん、いない」

「……え………………」


―――メリーさんがいた筈の場所には何もなかった。



「「……本当に都市伝説だったんだ……」」

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メリーさんが転んだ いぎたないみらい @praraika

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