第9話 中央町古民家集団自縊4

 以上の7人が古民家で首吊り自殺をしていた7人だ。そして……

 新谷が手帳から前にいる弘前に目を移す。


「そして、最後に現場となった古民家の家主である星哲也ほしてつや59歳。地元で心療内科の病院の医院長をしています。ただ一人だけ近所の公民館にて自殺。検死の結果では古民家の集団自殺から約2時間後に首を吊っていました。」


 新谷は再び自分の手帳に目を落とす。


 ────────


 星哲也(ほしてつや)

  * 年齢: 59歳

  * 職業: 開業医(心療内科)

  * 専門: 心療内科。患者に寄り添い、心の病と音楽の関係性を研究している。

  * 性格: 温厚で優しい。患者からは「星先生」と呼ばれ信頼されている。バッハの音楽を聴くことで、心のバランスを整えている。

  * 家族構成: 妻と娘が一人いる。娘は結婚しており、夫が養子に入って一緒に暮らしている。娘夫婦の孫は近所の高校に通っている。現在は2世帯で5人暮らし。

  * 趣味: ガーデニング、クラシック音楽鑑賞、読書。特に、ミステリー小説が好き。


 ───────


「なお。現場になった民家は、星氏の別宅です。5年前に星氏が買い取り、リノベーションして彼が主催する音楽サークル『中央町レコード音遊会』の活動の場になっていたようです」

 

 中央町ちゅうおうまちレコード音遊会。

 集団自殺とは無縁の平和なサークル名だ。

 人生の繁忙期を乗り切った男女8人が、この日、唐突に命を絶った。音楽を聴き。お茶を飲み。なんの前触れもなく首を吊った。

 新谷の聞き込みでは……いや、黒岩、野立の聞き込み……その他の話を合わせても『死』とは無縁の人々だった。

 新谷は前のホワイトボードに貼り出された遺留品の写真を見る。首吊りに使った道具は衣服や犬のリードなど、集団で自殺する気があったにしては、あまりにも準備不足だ。とてもじゃないが、そのつもり・・・・・があったとは思えない。

 

「……以上が今回の事件の概要です」


 弘前は現在の状況を説明し終えると会議室にいる捜査員達の顔を見渡した。


「正直……分からない事が多すぎる事件です。ただの集団自殺という言葉では片付けられません。皆さんは引き続き情報を集めて下さい。気付きや不審な点があれば報告をよろしくお願いします」


 弘前の言葉に、捜査員たちの顔が陰る。通常の自殺とは明らかに異なる、不可解な集団死。その背後には、一体何があったのか。

 新谷は、再びホワイトボードに貼られた遺留品の写真に目をやる。どれも日常的に使われるものであり、計画的な自殺に使われるような道具ではない。むしろ、何かに追いつめられたかのように、手近なもので命を絶ったように思えた。


「遺書は見つかったんですか?」


 誰かが質問した。


「ありません。遺書だけでなく、事件当日、誰かが誰かと連絡を取った形跡もありません。」


 新谷の言葉に、捜査員たちの間には、さらに深い沈黙が生まれた。


「では、動機は何だったのか?」


「個人的なトラブルか?」


「それとも、外部からの圧力か?」


 様々な意見が飛び交う中、新谷が口を開く。


「レコード音遊会、という名前ですが、皆さんは、彼らの聴いていた音楽について何か情報を得ていますか?」


「え?」


 弘前を含める捜査員たちは、新谷の言葉に顔を上げる。


「音楽ですか?」と弘前が新谷に聞き返した。


「ええ。音楽です。レコード音遊会……サークルの名前、状況から見てもレコードを聴いていたのは間違いありません。しかし、現場のレコードプレーヤーにはレコードがセットされてなかった。その場にいたほぼ全員が首を吊り、自殺したにも関わらずです。わざわざ、レコードをしまって自殺したのか……皆の自殺を見届けた星氏がしまったのか……間に合わせのような道具で自殺した割には違和感を感じます」


 新谷の意見に会議室が少しだけざわつく。


「え? レクイエムでも聴きながらって吊ったってこと?」


「いや……さすがに関係ないんじゃ」


「音楽聴きながらってのも……ありえる……のか?」

 

 新谷の意見に懐疑的な見方が多い中、弘前は新谷の意見に耳を傾け、深く考え込んだ。「レコードか……」


「新谷捜査官の言う通り、レコードプレーヤーにレコードがセットされていなかったのは少し不自然だ。もし、皆が音楽を聴きながら自死を選んだのだとしたら、なぜレコードはしまわれたのか。そこには何らかの意味があるのかもしれない。だが……」


 とそこで弘前は言葉を止め、新谷を見る。


「だが直前まで、なんのレコードを聴いてたかなんて……あの部屋には無数のレコードがしまってあった。それを特定するのは不可能に近い」


「じゃあ、もし……そのレコードを星氏が外に持ち出していたとしたら? どうだ? 特定も出来るのでは?」


 新谷の意見に弘前が沈黙する。

 確かに、それなら特定は出来るかもしれない。だが……レコードが今回の件に関係があるという確証はない。普通はそんなところに引っ掛かりはしない。

 が……あの新谷・・・・なにか・・・に引っ掛かっている。という事は弘前にとっては重要だった。


「星氏があの場にいたのは状況から見て間違いない。だが、それじゃあ星氏は? 皆の自殺を見届けてから公民館で自殺するまでの約2時間一体何を? 犬の散歩だけにしては長い」


 多少強引な新谷の説得に黒岩は一瞬口元が緩むが、すぐに引き締める。


「分かりました、。では新谷捜査官はそのレコードの行方を追って下さい」

 

 

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