第3話 国際科学会議
量子力学の謎と新たな出会い
講演会当日
小泉と高原は東京国際フォーラムに向かった。会場はすでに国内外の研究者たちで溢れ、期待と興奮が漂っていた。大規模な国際会議には、世界中から集まった著名な科学者たちが集まり、空気が一段と引き締まっていた。
講演が始まると、李文強がゆったりと壇上に上がった。彼の落ち着いた姿勢と確かな声が、会場を静かに支配した。彼の講演は専門的でありながらも、誰もが理解できるよう工夫されていた。会場は静まり返り、李の一言一句に耳を傾けていた。
「量子力学が私たちの現実にどのように影響を与えているのか――その可能性は無限です。そして、観測という行為が、私たちの知覚する現実そのものに、どれほど深く影響を与えるのかを、今日改めて考えてみましょう。」
李は、過去に行われた量子もつれの実験結果を示し、観測者の存在が結果に影響を与えることを解説した。スライドを使いながら、その原理を説明していく。科学者たちは頷きながら、真剣な眼差しでその内容に集中していた。講演を聞くうちに、小泉はこの分野に対する自分の理解がさらに深まるのを実感した。高原も一生懸命メモを取っていたが、まだ多くの部分が難解に感じていた。
講演後の出会い
講演が終わると、会場は大きな拍手で包まれた。小泉は人混みをかき分けて前に進んだが、多くの研究者たちが李の周りに集まり、質問を投げかけていた。小泉は少し離れた場所で、焦りと期待を胸にじっと立っていた。
その時、李がふと小泉の存在に気づき、彼に目を向けた。李は周囲の人々に丁寧に答えながらも、小泉に歩み寄ってきた。
「何か質問があるのかな?」李が微笑んで問いかけた。
小泉は一瞬緊張したものの、落ち着いて答えた。「はい、あなたの研究にとても感銘を受けました。いくつか質問させていただけますか?」
李はその質問に熱心に耳を傾け、小泉の洞察力と情熱に感心した。二人はそのまま会話を続け、科学に対する情熱で意気投合した。李は親しげに名刺を渡し、「今後もぜひ連絡を取り合おう」と微笑んだ。この瞬間、小泉は自分が新たな研究の道を切り開くための大切な出会いを果たしたと感じた。
天野宙との再会
講演が終わり、小泉と李が話している間、天野宙(あまの そら)はその様子を後方から見守っていた。彼も李文強の研究に深く関心を持ち、この講演会を心待ちにしていた。しかし、天野はまだ緊張して近づけずにいた。
天野は、小泉の大学時代からの友人であり、研究仲間でもあった。彼らは数々のプロジェクトで協力し合い、知識と経験を共有してきた。天野は、その頃から小泉の冷静な洞察力に感服しており、何度も助けられていた。
小泉が李との会話を終えた後、天野は勇気を出して李の方へ歩み寄った。
「李教授、初めまして。私は天野宙(あまの そら)と申します。宇宙物理学を研究している者です。今日の講演、非常に感銘を受けました。」天野は深くお辞儀をしながら話した。
李は天野の礼儀正しい態度に微笑みを浮かべ、「天野さん、こちらこそお会いできて光栄です。宇宙物理学とは、興味深い分野ですね。どのような研究をされているのですか?」と尋ねた。
天野は少し緊張しながらも、「宇宙の大規模構造や量子重力理論に関する研究をしています」とはっきりと伝えた。彼の言葉には熱意があふれており、李もその情熱を感じ取った。
「素晴らしい研究ですね。今後の進展、ぜひ教えてください」と李は興味深そうに話しかけた。
天野は李の反応に驚きと感動を覚えた。まさか世界的な権威が自分の研究に興味を示してくれるとは思ってもいなかった。
国際会議の帰り道
会議が終わり、東京国際フォーラムを後にしながら、高原は少し戸惑った様子で小泉に質問した。
「先生、今日の話は非常に興味深かったんですけど、正直、レベルが高くて全部理解するのは難しかったです。特に、粒子が観測されるまでは波のように振る舞うという話がよく分からなくて…」
小泉は笑いながら答えた。「それは当然だよ、高原。量子力学は常識とはかけ離れているからね。たとえば、二重スリット実験を例にして考えてみようか。」
二重スリット実験の説明
「簡単に言うと、二つの隙間にボールを投げ込むところを想像してみてくれ。普通のボールなら、どちらか一方の隙間を通って向こう側に飛んでいくよね?でも、電子や光の粒子は違う。観測しないと波のように広がって、両方の隙間を同時に通るんだよ。」
高原は驚いて、「波のように広がるって、観測しないとそうなるんですか?」と尋ねた。
「そう。観測すると、今度は普通のボールのように一つの隙間だけを通るんだ。だけど、観測しないときは、両方の隙間を同時に通るように振る舞う。この不思議な現象こそが量子力学の本質なんだよ」と小泉は説明を続けた。
多世界解釈の説明
「この二重スリット実験は、観測によって結果が一つに確定することを示しているんだけど…実は、科学者たちはこれをもっと大胆な形で解釈することがあるんだ。」小泉は少し真剣な表情で続けた。
「その中の一つが多世界解釈という理論だ。たとえば、コインを投げるとき、表か裏のどちらか一方が出ると私たちは考えているよね。でもこの理論では、どちらの結果も同時に存在していると考えるんだ。」
「同時に存在している…ってことですか?」高原は少し戸惑いながら問い返した。
「そう。たとえば、高原が今日ここに来ると決めた時、その選択をしなかった『別の高原』が存在するかもしれない、ということさ。君がここに来なかった世界では、君は違う道を歩んでいる。このように、選択するたびに世界が無数に分岐していくという解釈が、多世界解釈だ。」
高原はその説明に驚きつつも、ふと自分の人生について考え始めた。自分がこれまでにした選択――大学を選んだこと、物理学を専攻したこと、研究者としての道を歩んだこと――それらのすべてが他の可能性を排除しながら進んできた。しかし、別の選択をしていた「自分」が別の世界に存在しているのだとしたら?
「つまり、私たちが日々下す選択が、すべて別の世界に繋がっているってことなんですね…」高原は自分ごととして多世界解釈を捉え始めた。
「そういうことだ。もちろん、これが現実にどう影響を与えているかはまだ解明されていないけど、この解釈は量子力学の不思議な性質を説明する一つの理論として注目されているんだ。」小泉はそう付け加えた。
条約の影響
日本、アメリカ、中国、インドの4か国は、科学技術研究協働推進条約を結び、各国の研究者が自由に情報を共有し、共同研究を進めることができるようになっていた。この条約のおかげで、小泉や李文強、さらには世界中の研究者が連携し、最新の研究成果にアクセスできるようになった。
この条約によって、小泉たちは他の国々の研究者とも連携し、量子力学や多世界解釈などの研究をさらに深めていくことが可能になった。
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