第4話 逃げ場のない檻

アカリはユウマの影から逃れるため、何度も引っ越しを考えた。しかし、彼の監視網はどこまでも広がり、どんなに遠くへ行っても彼が見つけてしまうだろうという恐怖が、彼女の行動を封じていた。自分の生活はもう、自分だけのものではなくなってしまったのだ。


ある日、アカリは職場で同僚のカナに相談することを決めた。カナは彼女の親友であり、唯一信頼できる人物だった。


「カナ、私、もう限界かもしれない…。」

小さな声で、アカリはこれまでのことを話し始めた。ユウマとの出会いから始まり、彼の異常なまでの監視と支配。カナは驚きとともに話を聞いていたが、やがて真剣な表情で言った。


「それはもう危険よ、アカリ。彼は普通じゃない。警察に相談したほうがいいわ。」

アカリは頭を横に振った。「警察に言っても無駄だと思う。ユウマは自分の行動を決して証拠に残さないし、見られていないところでしか動かない。彼を訴えるのは無理だよ…。」


カナはしばらく考えた後、「でも、何か手を打たないと、もっと酷くなるかもしれないわ。私が手伝うから、一緒に何か対策を考えましょう」と力強く言ってくれた。アカリはその言葉に少しだけ安心感を覚えたが、胸の奥にはまだ不安が残っていた。


その夜、家に帰ると、アカリの玄関ドアの前にまたしてもユウマからのプレゼントが置かれていた。今回は小さなぬいぐるみと手紙が添えられていた。


「君が寂しくならないように、僕の代わりだよ。いつも君のことを想っている。」

その手紙の内容に、アカリは恐怖で立ちすくんだ。ユウマはまるで、自分が彼女の生活の一部であり続けることを当然のように考えている。彼にとって、アカリはもはや「愛する相手」ではなく、「所有物」だった。


その晩、アカリはカナに電話をかけ、助けを求めた。「もう無理、どうすればいいのかわからない…」涙声で訴えるアカリに、カナは強い口調で答えた。


「私が一緒にいてあげる。今からそっちに行くから、ドアを絶対に開けちゃダメよ!」

その言葉に少しだけ安心し、アカリはドアの前でカナを待つことにした。


しかし、待っている間にまた携帯が鳴った。ユウマからの着信だった。アカリは無視しようとしたが、何度も何度も鳴り続ける。恐怖と混乱が入り混じり、アカリはついに電話に出てしまった。


「どうして逃げようとするんだ、アカリ?」

ユウマの声は冷たく、いつもの穏やかさは感じられなかった。まるで彼女が反抗することを予期していたかのようだ。


「僕が君のためにしていること、全部無駄にするつもりかい?君を守るためなんだ、アカリ。誰も君を傷つけさせないために…。」


「守ってなんかいらない!お願い、もうやめて…」アカリは叫び、涙を流しながら訴えた。しかし、ユウマは全く聞き入れず、むしろ彼女の苦しみを楽しんでいるかのようだった。


「やめる?そんなの無理だよ、アカリ。君は僕のものだ。もう誰にも渡さない。」


その言葉にアカリは背筋が凍った。電話を切ると、外で車の音が聞こえた。カナが到着したのだ。すぐにドアを開け、カナを迎え入れる。


「大丈夫、私はここにいるから。」カナはアカリを抱きしめ、慰めた。しかし、その瞬間、アカリの携帯に新しいメッセージが届いた。


「誰かと一緒にいるのかい、アカリ?僕は君を見ているよ。」


アカリはその場で震え上がった。ユウマはどこにでもいる。どこにも逃げられない。彼の狂気は、ついに完全な支配へと変わり始めていた。


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