願わくばあの世界で
尾切 弘人
第1話 ヤリナオシ
1 随分と悩んだものだ。俺の人生史上悩みに悩んだことであることは火を見るより明らか。いや、もはやLEDを見るより明らかと言った方がが良い程だ。
と俺は、誰もいない、この世界から分離してしまったような教室で1人呟く。何を馬鹿な事を言っているんだと心の中でツッコミながら重くなった身体を動かし1歩、また1歩と目的の場所に近づく。
俺は間違ってない。大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ続けて今日でどれだけ経ったのだろう。だがそれも今日で終わる。
俺の人生を「辛い」なんていう陳腐な2文字で表現してしまうのはあまりにも俺が可哀想すぎる。
そして、ロープに手をかける。そのままの勢いで首をロープで締め付ける。
こんな事を聞いた事がある。絞首刑で意識を失うのは5秒から8秒らしい。つまりこの時間こそが人生のモラトリアムってやつか。ようやくだ。
未練があるとするならアイツくらいか。俺の人生…ガコンッッ。
2 ここはどこだ?俺は確かに首を吊ったはず。頭がおかしくなりそうになる。脳の中に土石流の様に情報が流れこんでくる。
冷静になろうとしたのも束の間、「こうたぁー」声が聞こえてくる。
この声は……まずい。
静かに、しかし確かに歩くスピードを上げる。
「逃げんなごぉらぁー。」
俺が息を飲む間に彼女、川口巴は俺に追いつく。全く化け物じみた奴だ。25m程の距離を3歩で走ってみせるなんてどう考えても人間がやっていい行動を超えてる。
「何故にげるし。普通にショックだわ。こんなに可愛い幼馴染が話しかけているというのに。」
その可愛さが問題な事をいい加減自覚してほしい。周りからの俺を見る目はショートケーキに落ちた髪の毛を見るように目なんだぞっ。
「あぁ、すまんすまん。お前が可愛すぎて俺の体が溶けちまいそうだったんだよ。」
そう言って彼女の方振り返る。思考が停止する。彼女が身に着けていたのは2年前の、中学時代の制服だった。コスプレでもしているんだろうか?
「何を馬鹿な事言ってんの?てか寝癖が爆発しちまってるぞー。手鏡貸してやるから確認しな。」そう言って手鏡が手渡される。
その鏡に映った俺の姿は紛れもなく2年前の姿をしていた。
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願わくばあの世界で 尾切 弘人 @mh4glove
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