シスターズアーク
iceneco
プロローグ
プロローグ-1"ようこそ"
「起きなさい。もうすぐタワー駅よ」
「……ん」
突っ伏していた顔を上げた。
目の前にいるこの人物をぼんやりと見つめる。
「私がゆすっても起きない程疲れてるのね……その気持ちも分かるけど」
「ただ、もうそろそろ駅に着きますから、起きてもらわないと困ります」
その艶めくショートカットの黒髪。
「ああ……この景色は、慣れないうちは怖いかもしれませんね。それに……」
その人物は窓の外を指差す。
「あなた……確かこの電車は初めて乗るのよね」
「…………ん」
頷く。
「こういう高い場所には慣れてるから、大丈夫」
「慣れてる……?」
「なんなら、ちょっとワクワクするかも」
「そう……気に入って貰えたのなら良かったです。ゴフェルアルカが一望できるのはこの電車だけでしょうから」
まるでビルの森のようだ。
「ゴフェルアルカ……この世界に唯一残った国家の名前。数百の個性的溢れるエリアにより構成されています」
「そして、あなたがこれから暮らす場所でもある……」
彼女は小さなカメラを取り出した。
「空に敷かれた線路なんて不思議よね。こんな電車に乗る機会なんて中々無いでしょうし、写真でも撮りましょうか?」
「うん、お願い。一緒に思い出を残そう」
「私と一緒に写真を撮るの?……ふふっ。そうね、構わないわよ」
「?」
「はい。チーズ」
パシャッ!
心地の良いシャッターの音がした。
「自撮りなんて初めて。上手く撮れてるといいわね」
「現像まで楽しみだ」
「そうね」
「次はI.F.t〜次はI.F.t〜お降りの際お忘れ物の無いようお願いします〜次は〜」
「アルカ鉄道の列車はやっぱり流石ね。あの田舎から一日足らずでこの都市まで……」
「プルルルル!」
「こんな時に……あら、マコト大尉?はいもしもし。」
おどおどしている、黄色みのあるロングヘアの軍人が映し出される。
「な……ナギサ局長……」
「はいこちらナギサ。教会襲撃テロの制圧の件ね?」
「え、ええ。それでそのぉ……」
「どうかしたの?『あの件』に触発された狂信者達がテルモス教会襲撃に及んだ話は聞いているけれど」
「たかがテロリスト数人なんでしょう?そちらでもう制圧まで終わらせているのかと思っていたのだけど」
「は、はい!ですが……その……予想外の事態が発生してしまいまして……」
「予想外の事態?」
「狂信者グループの幹部……『薬師時アカ』が、襲撃に加担……教会を占拠。教会のシスター二名と神父一名を人質に立てこもりを現在も続けている状態でして……」
「………………………………」
「か……完全に予想外だったんですよ!!派遣された小隊は薬師時アカたったひとりに吹っ飛ばされて壊滅状態で……十一名重症七名骨折一名軽症といった様子で……」
「一個小隊を壊滅させる力……やはり薬師時アカ、彼女はやはり『遺産』持ちの人間なのでしょうか」
「今から現場に向かいます。はあ、折角の休暇が台無しに……」
「お、お願いします……狂信者グループは教会本部に身代金を要求しています」
「早く対処しないと事態が取り返しのつかなくなってしまいます……」
「(身代金?テロリスト達の要求としては不自然のような……)」
「では局長、なんとかお願いします!」
ツーツー……と、そこで電話は切れた。
「はぁ……」
「だ、大丈夫?ナギサ」
「なんとか、ええ……こんな事態となってしまいましたし」
「……あなたには先に宿泊予定のホテルで待っていて貰おうかしら」
「私もついて行くよ」
「?」
「きっと、私に出来ることがあると思う」
「……なるほど。確かにあなたのその『不思議な力』はテロリスト達の鎮圧に役立つかもしれないわね……」
「それに。教会が襲われているなんて見過ごせないから」
「ふふ。あなたらしいわね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます