第42話
蔵之介が二人の女性に挟まれ、困惑した表情を浮かべたまま立ち尽くしていると、麗華が微笑みを浮かべて一歩前に進み出た。
彼女はその場の緊張感を楽しんでいるようで、冷静かつ楽しげな声で言った。
「ふふ、なんだか面白いわね。蔵之介君、どうするの? 美咲さんと舞さん、どちらか一人を選ぶの?」
その言葉に、蔵之介はますます混乱した。選ぶという選択肢が彼の中ではなかったのに、突然二人の間でそれが焦点となっていることに、彼は戸惑いを隠せない。
「えっ…選ぶって…そんなこと、僕にはできないですよ。だって、もう振られたと思ってたんだし…」
彼が必死に言い訳をすると、麗華は少しだけ首をかしげて言葉を続けた。
「でも、振られてないんでしょ? それなら、もう一度ちゃんと考えてみてもいいんじゃないかしら。二人とも、まだあなたに興味があるみたいだし」
その瞬間、舞と美咲はお互いに目を合わせたが、二人とも何も言わなかった。麗華の提案に、どちらか一人を選ぶかという話が進むと思いきや、彼女はさらに続けた。
「ただし、私には別のアイディアがあるわ」
麗華の声に、蔵之介は不安げに目を向けた。彼女の微笑みは何か企んでいるように見えた。
「ねえ、蔵之介君。いっそのこと、三人で彼氏彼女として過ごしてみない? それなら、誰かを選ぶというプレッシャーもないし、私たちもあなたが誰と一番相性がいいのか、しっかり見極められるわ」
その大胆な提案に、蔵之介は目を見開いた。まさかそんなことを言い出すとは思ってもみなかった。彼は一瞬、言葉を失ったが、何とか返事をしようと口を開いた。
「えっ、三人で…? いや、それはさすがに無理があるんじゃ…」
だが、麗華はすぐに彼の言葉を遮るようにして続けた。
「無理かどうかはやってみないとわからないわ。それに、あなたもまだ自分の気持ちがはっきりしていないんでしょう? だったら、三人でしばらく一緒に過ごしてみて、そこで本当に誰と一緒にいたいのかを考えればいいと思うの」
彼女の提案に、舞と美咲も驚いた表情を浮かべていたが、すぐに表情を引き締めた。二人とも、一度は蔵之介を巡って対立したが、麗華の提案には少しだけ考える余地があると感じているようだった。
「確かに…そういう方法もありかもしれないわね」
美咲が口を開くと、舞も少し考え込んだ後、静かに頷いた。
「私も…それなら、蔵之介君の本心を見極められるかもしれないわ」
三人の女性がそれぞれ蔵之介を見つめ、彼にどう答えるかを待っていた。彼の心は完全に混乱していたが、麗華の提案に対して、完全に拒否するわけにもいかなかった。
(どうするんだ、こんなの…でも、断っても…どうなるんだ?)
彼は一瞬、頭の中が白くなりながらも、なんとか答えを出そうと必死に考えた。
「わ、わかりました…。じゃあ、三人で…試してみるっていうことで…」
蔵之介の言葉に、三人の女性たちは互いに視線を交わし、再び緊張した空気が漂った。しかし、その中には微妙な期待感も見え隠れしていた。
「いいわ、それじゃあ、決まりね」
麗華は再び微笑みながら、蔵之介の肩に手を置いた。彼はその瞬間、これから自分がどんな未来に巻き込まれていくのか、全く予想がつかないままだった。
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