16

夜になってもレオナルドは目を覚まさなかった。

私はベッドの上に座って腕を組み、隣で眠っている幼児を睨みつけた。


寝ている姿だけを見れば、二歳ほどの可愛い男の子。

しかし、この可愛い姿に騙されてはいけない。こやつの中身はあのレオナルドなのだ。

なぜ、この私がレオナルドなんかと同衾しなければならないのだ。


腹が立って、スヤスヤと眠っているガキんちょを睨みつけていたのだ。


本当ならソファに寝かせるつもりだった。

しかし、知らなかったがこの男、寝相が悪かったのだ。まあ、いくら婚約者とは言え、一緒に寝た事なんぞないので知らなくって当たり前だが。


クッションを枕にソファに寝かし付け、自分はベッドに入ろうとした時、ドンッと何かが落ちる音がした。振り向くと、レオナルドが床に落ちていた。


私はビックリしてレオナルドのもとに駆け寄った。


「う・・・ん・・・」


落ちた衝撃で流石に目を覚ましたか。うっすらと目を開けた。


「大丈夫ですか? 殿下?」


私は顔を覗き込んだ。レオナルドはぼんやりと私を見つめている。焦点が合っていないようだ。


「エリーゼ・・・? 何でお前がここに・・・?」


呟くように答えたと思ったら、また、ふーっと眠りに落ちてしまった。


嘘・・・。これだけの衝撃を受けてもまだ寝る? 

よほど具合が悪いのか。それもそうか。大人の身体が子供になったのだ。相当の負担なのかもしれない。


私は溜息を付いて、もう一度ソファに寝かせた。でも、ここではまた落ちてしまうかもしれない。


「いっそ、床に寝かす? それなら、いくら転がっても落ちる所なんてないし・・・」


一瞬そんな考えも浮かぶ。

しかし、そうは言っても、相手は一国の王子だ(クズだが)。王族だ(クズだが)。流石に、床に直に寝かせる事には気が引ける。


私はもう一度大きく溜息をつくと、レオナルドを抱き上げ、自分のベッドに向かったのだった。



☆彡



「うわぁあああ!!」


耳元で大きな叫び声が聞こえて目が覚めた。


「な、な、何だっ? 何だってお前がここに!? そ、そ、その恰好は、一体・・・っ!? ここ、ここって、なんで、ベッドに?!」


「朝からうるさいですわ・・・、殿下・・・」


私は抱きしめていたクマのぬいぐるみ越しに、慌てふためいてパニック状態に陥っている子供を見つめた。


「ななな・・・なんで、何でお前が俺のベッドに・・・っ!」


「残念ながら違いますわよ、殿下。ここは殿下のベッドなんかじゃございません。わたくしのベッドでございます」


私はゆっくりと起き上がると、軽くレオナルドを睨みつけた。


「はあ?! 何を言ってるんだ?!」


レオナルドは目を剥いている。


「お疑い? ならば殿下のベッドにもこのセドリックがいるのですか?」


私はクマのぬいぐるみのセドリックを殿下に突き付けた。


「へ?! は? え・・・?」


レオナルドはパチパチと瞬きしながらセドリックを見つめる。そして、キョロキョロと部屋を見渡した。


「ここ・・・、ここって・・・?」


「わたくしの部屋でございます」


「へ・・・? エリーゼの・・・?」


「ええ。そして、ここはわたくしの神聖なベッドの上。本来なら殿方が横になるなんて言語道断でございますわよ」


「・・・。な、なんで・・・俺がここに・・・?」


「さあ、何ででしょう? それこそ、わたくしの方が聞きたいですわ。殿下、一体これはどういうことですか?」


いつの間にか、レオナルドは私の前でちょこんと正座をしており、私は腕を組んで彼を見下ろしていた。


「お、俺は、そ、その・・・、何も覚えていないのだが・・・。そ、その、俺たちは、もしかして・・・その・・・」


レオナルドは青くなっている。

あれ・・・? 変な方向に勘違いしている? まだ自分の体の変化に気が付いていない?


「俺たちは・・・、一線を越えてしまったのか・・・?」


「そんなわけないでしょう・・・」


二歳児が何を抜かすか。


「じゃあ・・・、なんで一緒にベッドに・・・?」


レオナルドはオロオロと上目遣いに私を見る。

私は眉間に手を当てて溜息を漏らした。


「殿下、そっちの方向に限っては、ぜーったいに間違いは起こりませんから、どうぞご安心なさいませ。それよりも、もっと大変な事になってましてよ?」


「へ?」


「まだお気づきにならない?」


「どういうことだ?」


レオナルドはコテンと首を傾げた。流石、二歳児。その仕草はいくら憎らしいレオルドでも可愛い。


「ご説明申し上げるより、ご自身でお確かめになった方がよろしいでしょ」


私はベッドから降りると、ヒョイとレオナルドを抱き上げた。


「え?? な、な・・・? ちょ、ちょっと? な、なんで?」


自分が抱き上げられたことに驚いている。相当混乱しているようだ。私はそんなことには構わず鏡に向かって歩き出した。


ふん。既に大パニックに陥っているけど、こんなのは序の口よ。本番はこれから。

さあ、自分の姿を見て大いに驚いてもらいましょう!


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