チュンチュンと鳥のさえずりが聞こえ、爽やかな朝日が部屋の中に差し込む。

私はベッドの上で身を起こし、うーんと伸びをした。


「ああ・・・、なんて爽やかな朝!」


今日は日曜日。

もともとお妃教育もお休みの日で、登城の予定は無い。それでも、今日の休みは今まで以上に爽やかだ。


「嬉しい・・・っ! お休みは今日一日だけではないんだわ。明日からも王宮に行かなくてもいいんだから。ああ! 素敵、毎日が日曜日!」


私は隣に寝ていたクマのぬいぐるみを抱き上げると、ギューッと抱きしめた。


「はあ~、王宮に引っ越す前で良かったわぁ。最後にいい仕事してくれたわね、レオナルド」


ふふふと自然と笑みが零れる。一気にストレスから解放されたのか、蕁麻疹も出ていない。

肌を見ると、まだ赤みは引いていないが、痒みは治まっている。


ああ! 今日から自由だ。記念するべき第一日目!


さあ、今日は一体、何をしよう?



☆彡



いつものように朝食を食べにサロンに向かうと、そこには、まだ怒りが収まっていないのか、不機嫌そうな顔の父と、こちらもまだ血流が戻っていないのか、少し青白い顔の母がいた。


私が入っていくと、二人とも無理やり笑顔を作って迎えてくれた。


「おはよう、エリーゼ。そ、その、昨日はよく眠れて?」

「お、おはよう! エリーゼ! 今日も可愛いなあ!! あはは!」


二人とも腫れ物にでも触るように、私に気を使っている。

私はうっかり半目になってしまった目を慌てて元に戻し、にっこりと可愛らしく微笑んで見せた。


「おはようございます。お父様、お母様。ぐっすり眠れましてよ。すっきりしてますわ」


「ほ、本当に?」


「ええ、お母様。ご安心なさって」


席に着いた私を、母はまだ心配そうに見つめている。私は渾身の笑みを向けた。

しかし、逆効果だったようだ。


「ああ・・・、エリーゼったら・・・、無理をして・・・。何て健気な・・・」

「おい・・・っ! 本人の前で止めなさい・・・! あんなに頑張って笑っているんだ。お前が泣いたら駄目だろう!」

「だって、だって・・・、あんまりにも可哀そうで・・・」

「ああ、そうだ、そうだな。本当に可哀相だ。可愛い私のエリーゼがこんな目に遭うなんて・・・。ああ! 何という悲劇だ!」


「・・・」


私は目の前で繰り広げられる茶番劇にまた目が半目になった。


母はとても純粋な人だ。

本当に娘の婚約破棄がショックだったのだろう。私の蕁麻疹もストレスから来ているとは気が付いていただろうが、それはあくまでも王子妃という重圧に対してのストレスと思っていただろうから。まさか娘本人が婚約破棄を望んでいたとは思いもしないだろう。


そして父・・・。

こちらはなかなかの狸だ。

私たちの仲が「さほど良くない」どころか「かなり悪い」ことはある程度把握していたはず。

まあ、それでも夜会のエスコートなど、最低限のマナーは守られていると思っていたようだが。


そして、なにより、この婚約破棄について私の確信犯であるということに気が付いているはずなのだ。


それだというのに、こんなにも大げさに私を悲劇のヒロインのように祭り上げて悲嘆にくれるのは、半分は同情、半分は我慢しきれなかった私への当て付けだろう。


わかっております。王家との婚姻関係が結べないのは我が侯爵家にとって非常に大きな痛手ですもんねぇ。

不出来な娘で悪うございましたぁ。


ハラハラと泣き崩れる母を、ヨシヨシと撫でている父。

少し白けている私には、二人がイチャついている様にしか見えない。


私はその光景を見ながら、黙々と一人朝食を食べ終えると、さっさとサロンを後にした。

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