Act.4 酔いどれドラグゥン(傭われ宇宙艦乗り)・1
「うーん! とっても美味しそうな匂い!」
奇麗に並べられたガーリックトーストの大皿を2皿、アディが
機艦アモンの
艦尾側の
さらに
共用の集いスペースを1つに集めたような、この
「結構、
アディからガーリック・トーストの皿を、カウンター越しに受け取ったネルガレーテが、食前酒よろしく
アディは左手を広げて指の間にステムを挟んで2脚一緒に受け取り、さらに右手でガーリック・トーストを皿から2切れだけ摘み取った。そのうちの1片を自らの口に放り込むと、振り返りざま今度はもう1片のトーストを、ジィクの口元に差し出した。パイナップル・ジュースを張ったバットに、切り落とし肉を両手で漬け込んでいるジィクが、首だけを捻って齧り付く。
「──何だか、とっても格好良い・・・!」
グリフィンウッドマックのフィジカル・ガーメントは、上半身着のアッパートルソ、腕肢袖着のアームトルソ、下半身着のボトムトルソ、そしてブーツの4ピース構造のセットアップ・ウエアだ。
ロワートルソには腰ベルトが付帯しているが、それとは別にアッパートルソの裾3箇所に付いているストラップで、ロワーの腰内側に直接スナップ留めできるので、アッパーの裾が食み出る事がない。さらにアームトルソは肩口でアッパーと、ブーツは膝下でロワーと、それぞれ面ファスナで繋がっているため、腕の部分とブーツ部を脱着可能だ。パーソナル・カラーを配したブーツは、膝下から外側の
実際、完全に
「好い
若い2人の、
「──ほう、
ジィクはパイナップル・ジュースを片手鍋に流し込み、バターと胡椒を加えて煮立て始めると、アディが脇に置いてくれた
「馬鹿ね。厨房に居るからよ」
ネルガレーテがしれっとした口調で、さらにグラスを煽る。
「それは、裸エプロンに通じる、と言う意味で言ってるのか?」
「まあ、そうね。それは否定しないわ。けど、2人、って言うところが味噌なのよ」
「──ああ見えてジィクはソテーが得意で、アディはパスタなの。手並みも良いから、見てて飽きないわよ」
2人の会話を可笑しそうに聞いていたユーマが、フォション・レーベルのオリエンタルビューティ茶のカップを啜りながら言った。オリエンタルビューティ茶は、酒を
電磁コンロの上で湯気を上げ、熱湯たっぷりに沸騰している寸胴鍋に、アディがロングパスタを散らすように扇に放り込む。
「ひょっとして、いつも2人が作ってるの?」
カリカリに焼けたガーリック・トーストを、美味しそうに頬張るリサが嬉しそうに訊ねた。
「まさか」アディは背中を向けたまま、肩を
アディは冷凍のキノコ数種を小さく切り、短冊に切ったベーコン、みじん切りにした人参を大きなフライパンで炒め出した。
「そう言えば、アモンの
ユーマもガーリック・トースト一枚取り上げ、かりっと良い音を立てて齧り付いた。
「えー、そうなの?」リサが口の端に付いたパンくずを、ちろっと舌で舐め取った。「チームワーク良さそうなのに」
「航行自体はビーチェに任せても、
ネルガレーテがグラスを傾け、くいっと飲み干した。
「何だか勿体ない」
「──さあて、いくぞ・・・!」
掛け声と共にジィクが、漬け置きしていた肉をグリル・プレートの上にぽいぽいと、テンポ良く乗せて行く。途端ジュージューと肉の焼ける音が立って、美味しそうな匂いが立ち昇る。トングを使ってひょういひょいと裏返していくジィクの横で、今度はアディが茹で上がったパスタを豪快に掴み取ると
最後の追い込みをする2人の調理姿に、リサがワクワク感一杯に目を輝かせる。
「
「
アディとジィクが、同時に振り向きざま声を上げる。
リサ、ネルガレーテ、ユーマの前に、キノコのジパングパスタとポークソテー・パインソースの皿が、コトッと食欲そそる音を立てて差し出された。
「
「本当に美味しい・・・!」
「このパイン・ソース、一味違うな。何か足したな?」
リサの嘆声に、アディが言葉を被せ足す。
「スターアニスのチャツネだよ。結構イケるだろ」
アディに答えるジィクはと言えば、膝の上に置いた皿から、スプーン代わりのナイフを副えにして、フォークで巻き取ったパスタを口に運んでいた。
「このパスタも僅かに軟らかめ、相変わらず抜群の茹で加減だな──」
「本当! 芯まで火が通ってるのに、ちゃんと歯応えがある・・・!」
スプーンを使って小さく丸め取ったパスタを口に放り込んだリサが、可愛らしい舌先で口の端を小さく嘗め、こっちに向かって座っているエプロン姿の
「時間があったら、ユーマにもスフレを作らせたかったんだけどな」
アディがリサに微笑み返しながら、
「嘘・・・!」それを聞いたリサが、もぐもぐさせている口元に手を当てて、目を丸くして横のユーマを振り向いた。「殆どフルコースじゃない、ビストロ・グリフィンウッドマック!」
「それにネルガレーテが、ぴったりの
ジィクが手にしたグラスを掲げて見せる。
「あら、あたしのチョイスは
ネルガレーテが、心外ね、と言わんばかりに、
「ああ見えて、ネルガレーテの作る
横合いから
「ああ見えて、は余計なの、ユーマ」
「それじゃ今度は、あたしにもやらせて! これでも料理にはちょっぴり自信があるの・・・!」
意気込んだリサが、
「それはとても楽しみね。ユーマは割と口が奢ってるから」
「なら、レモン風味の
「リサ」大仰にふむふむと頷くアディが、勿体つけて言った。「実に美味しそうだが、1つ、大切な忠告をしよう。最後の1品は、避けたほうが無難だ」
「ラタトゥイユ? 何故?」
「いや、ラタトゥイユは、まあ良い」
持って回った言い方をするアディの横で、ジィクが今にも吹き出しそうな顔をして、ユーマとネルガレーテが笑いを噛み殺すように肩を震わせていた。
「んじゃあ、何?」
「あれは、いかん」態とらしく深刻な表情を見せ、アディは首を振った。「
「だから何なのよぉ、その大層な物言い」
「・・・・・・」
はっきり答えようとしないアディに、リサが不満げに眉根を
「──ぷっ・・・! トマトよ、トマト」
ユーマの言葉に、リサがアディを振り向くと、アディは下唇を突き出してから口をヘの字に曲げて見せた。
「あれ? ひょっとして苦手なの?」リサが、呆れると言うより困惑した表情を浮かべた。「トマトって、栄養あるし体に良いよ・・・?」
「人は栄養のみで生きるにあらず、だ」
アディが抗議でもするように、態とらしくズルッと音を立ててパスタを頬張る。
「けどね、ケチャップは大好きなのよ。変でしょ?」
「多分、生が苦手なのよ。トマトジュースも駄目だから」
「もしこの世を創った神がいて、そいつがトマトも生み出したって言うなら、そいつの首を締めて後悔させてやる」
ネルガレーテとユーマが顔を見合わせて、くすっと嘲笑の肩を
「次はトマトたっぷりのラザニアにしようぜ、ユーマが得意だろ?」
露骨に当て擦るジィクの言葉に、アディは青筋を立ててユーマを睨む。
「くおら! そんなもの作ったら、ユーマのオリエンタルビューティー茶葉に、唐辛子をたっぷり混ぜ込んでやるからな!」
「アディって、そう言うところ
呆れたようなユーマの口振りだった。
「大丈夫よ、アディ」リサがにっこり笑窪を浮かべて言った。「おっきな塊は、あたしが食べてあげるから」
「──ぶっ・・・!」
「あらあら、意外と斜め上を行くのね、リサって」
「ほらリサそこは、もう甘えたさんね、アディ、って言ってあげないと」
思わず噴き出すジィクに、ネルガレーテは殆ど呆れたような声を上げ、ユーマが悪乗りするように、カウンターの天板を
「馬鹿野郎! 誰がそんな間抜けな会話をするか!」
「そうよ、そうよ。いくらあたしでも、そんな馬鹿ップルな言い方はしないわよ・・・!」リサが真顔で
「・・・・・・」
リサの一言にアディは口を半開きにして凝然とし、それから首を巡らせてジィクを見た。
「くはははっ、良かったじゃないかアディ・・・! トマト嫌いが理解して貰えて」
「うるせー、蛸が駄目なお前に言われたくはないぞ・・・!」
「正常な美意識だろ。あんなグロテスクな物を食おうなんて、頭イカれてるぜ」
「それじゃあリサ、手始めはトマトと蛸のマリネで決定ね」
「良いわね、オレガノをたっぷり利かせたやつ」
「なら上等なオリーブオイルを仕入れないとね」
顔を綻ばせながら、2人の会話にリサが無言でうんうんと頷く。
「お前ら、鬼だな、鬼」
「その気持ち悪い取り合わせ、きっと腹を壊すぞ」
口をヘの字に曲げるアディと、眉根を
「あたしが作るんだもの、頬っぺは落ちてもお腹なんか壊さないわよ・・・!」
ぶう、と頬を膨らませるリサに、ユーマがくくくと含み笑いしながらぼそりと言った。
「いっその事、アディのトマトをジィクが食べて、ジィクの蛸をアディが取ってやれば?」
「ユーマ・・・!」
「冗談でも、そんな気持ち悪い事を考えるな!」
アディとジィクが同時して、色をなして声を上げる。
「あら、アディは大丈夫よ。トマトはあたしが食べてあげるから」
臆面もなく言って退けたリサに、当のアディが思わず絶句する。
「──んじゃ、俺の蛸は?」
「折角あたしが作るんだから、悶絶でもしながら食べてよね」
下唇を突き出すジィクに、リサは、お生憎様とばかりに突き放す。
「ささやかながら、俺にもレディのご慈愛を」
「あたしまで
リサが、にかっと大仰な作り笑いを浮かべ、それから、べぇ、と小さく舌を出した。
わいわいがやがやと、今まで経験した事ないほど、アモンの
一通り皿が平らげられると、リサは
そんな3人を横目に見ながら、ネルガレーテが
取り出した4つのオールドファッションド・グラスに、製氷機から掴み取った氷を放り込み、ジャックダニエルのロンバード・レーベルの封を切りながら、ネルガレーテはふと感じていた。
なんて自然な雰囲気なのだろうか、と。
リサを囲む3人の
さすがに最初はどことなくぎくしゃくしていたが、あっと言う間に溶け込んでしまっている。
“やはり血は争えないわね、イェレ”
独り
まるでこうなることが至極当然で、むしろ待ち望んでいたとさえ思えてくる。
“イェレ、見えてる?
「──にしても、今回の交渉は、随分と突っ込んだのね、ネルガレーテ」
話し掛けられたユーマの声で、ネルガレーテが我に返った。
★Act.4 酔いどれ
written by サザン
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