Act.2 救難の宇宙・3
スクリーン・ビジョンには、ゴーダムの
「──着舷したわ。今からアディとジィクが
ユーマの声が不意に、アモンの
ゴンッ、とぶつかるような擦ったような音が、バルンガ機内に響き渡る。立った音は思いのほか大きかったが、突き上げるような衝撃は殆どなかった。
「着舷したわ。今からアディとジィクが
そのユーマの言葉と同時に、バルンガ胴部の左右にある開け放ったスライド・ドアから、アディとジィクが飛び出した。
ロンパスと呼ばれる
船橋楼に一番近い、
「いいぞユーマ、
アディの呼び掛けに、ユーマが
バルンガは着舷したとは言え、噴射で押し付けていないと遠心力で飛ばされてしまう状態なので、機体を噴射なして着舷したまま留め置くためには、どうしても
良いぞ、一杯一杯だ、とのアディ声に、ユーマがバルンガの噴射を停止させると、遠心力で機体が僅かに流されて、
「──そっちでも見えるか? かなり酷い状態だ。生存者がいるか怪しいもんだ」
首が折れたような船橋楼を見上げながら、ジィクが船尾方向を見やる。
「
ネルガレーテからの通信に、ジィクが背負ったマニューバ・ユニットのスラスターを噴かせて、断崖みたいにすっぱり失せているゴーダムの船尾側へと泳ぎ出た。
「跡形もないな。いや跡形だけはあるか・・・」
船尾にある筈のフェルミオン
残念ながら人影は──恐らくは遺体の筈だが、確認は出来ない。
「ヘッドマウント・カメラじゃ見難いかもしれないが、
「単なる衝突事故じゃない?」
「何となく、爆雷なんかの直撃を受けた感じに近いな・・・」ジィクが唸るように言った。「本当に大きな質量物の直撃なら、船体自体も弾かれて
爆雷、という言葉に、ネルガレーテが一瞬押し黙った。
「俺の方の映像が見えるか? ネルガレーテ──」
ジィクとネルガレーテとの会話に、アディが割り込む。
アディは
「そこが
「根元から折れてて、
マニューバ・ユニットを一吹かしして飛び上がったアディが、周囲を見渡しながら船橋楼の側面に取り付いた。
「──補機の核融合電磁励起エンジンが
「なら、
リサが素朴な疑問を投げ入れる。
「矢張りシステムの自動発信だろな、大概は別バッテリーを備えてるからな。けど送信途中で途切れるところを見ると、そのバッテリーも干からびる寸前だろう」
「
ジィクたちの報告に、画像を見ているであろうネルガレーテの、諦めたような口調だった。
「事故が起きてから600時間以上経過しているし、そんなに長い間息を止めていられる人間は、まあ居ないわね」
同じ画像をバルンガ機内でモニターしているユーマも、皮肉交じりに声を上げた。
その遣り取りを耳にしながら、アディが
「ネルガレーテ──」アディが、いつになく慎重そうな声で言った。「ちょっとこれを見てくれ」
「何? 此処はどの箇所?」
「
「これ・・・
「
アディが穴から中を覗こうとしたが、頭部のスポット照明の光では、中まで上手く照らし通せない上に、固定されたヘッドギアのバイザー越しでは、実眼で覗くように簡単にはいかなかった。
「エネルギー弾の弾痕だ。多分プラズマ・ブラスターじゃないかな?」
貨物船の外鈑など、プラズマ・ブラスター艦砲の前では紙切れ同然だ。
「それって、攻撃されたって事? ゴーダムが?」
「
ネルガレーテに続いて、リサがふっと言葉を漏らす。
「いや、賊なら、満載の
「じゃあ、撃沈が目的で襲った、って事になるわよ」
アディの返事にユーマが声を上げた。
「そう考えたほうが適切だな、この有り様じゃ」
ジィクの声が割り込む。ジィクが
「うーん・・・」
「最初から、リサの未開封レベルに合わせりゃ良かったな」ジィクがアディを小突いて、向こうへ移動しよう、と手振りした。「初体験が強烈だと、病み付きの体になっちまうぜ」
「未開封、って何よ。清純とか、初々しい、って言えないの? ジィクの野暮天」
「まあ、今は詮索しても仕方ないわよ。とにかく残存してる船内を捜索しましょ」
突っ慳貪なリサの声に、その膨れっ面を想像したのか、ユーマが含み笑いに言った。
「──アディ、本当に気をつけてね」
「何も起きないよ。残ってるのは船橋楼だけだし、3時間も掛からないさ」
心配げに声を掛けるリサにそう返事しながら、アディはジィクの後を追って、
「救難
特段の認証行為を必要としない、アクセスフリーの状態になっているのが一目で判る。
救難
「──これから
電動アクチュエータが小さな唸りをあげ、外扉が滑らかに外に向かって開く。開いた隙間からアディがすっと通り抜け、それに後ろからジィクが続く。
「あー、やっぱ駄目だな、これは・・・」
内扉の向こう側、船内は全く与圧されていなかった。空気が散逸してしまい、生命維持環境が保たれていないのだ。
「これから
「ご苦労さま。念のため
「
ネルガレーテからの通信に相槌を打つと、アディは内扉を開いた。
今度はジィクが先に飛び込み、それにアディが続く。
補機の電源を完全に喪失している上、漂流してから時間が経ちすぎているので、非常灯すら点いておらず、文字通り漆黒の闇の中に泳ぎだしたようなもので、ヘッドマウントの照らす照明だけが頼りで上下左右の感覚がつかめない。さすがのドラグゥンも慎重に進まないと、迷子になってしまう。
アディとジィクが自然と背中合わせになって、お互いてんでの方向にヘッドマウントの照明を照らし上げ、周囲の様子を油断なく見渡す。右側が
ジィクが、こっちだ、とアディを促す。
補助
下った先は少し広い
「こっちが
アディが
ヘッドギアの被膜バイザーの向こうで頷いたジィクが、周囲の壁を見回す。
アディがそろりと、開き始めたドアの間から中を覗き込む。
「
そう言う尻から、黒焦げの遺体が1つ、アディの足元を漂って行く。弧を描くように並ぶ
「こりゃ、間違いなくプラズマ・ブラスターだ。
溶け崩れるように穿孔した壁を、ジィクのスポット照明が照らし出す。ちょうど航法用天球型宙図システムのあった辺りで、壁自体は大して焦げていないのだが、室内にあったと思しきタブレット端末やパイプ椅子、消火器などの設備品、ポータブル音映器や使い古された船長帽、果ては筆記用具やメモ書きの挟まったバインダー、淫猥娯楽雑誌がゴミ山のように溜まりになっていた。開口してしまった事で、室内の空気が一気に漏れ出したせいだろう。
そのジィクの頭上、天上近くに、上半身は酷い火傷を負っているが足元のブーツがまったく焦げていない遺体が1つ漂う。さらに右舷側の壁に
「
ジィクからの報告に、ネルガレーテからの応答はない。
勿論アモンのネルガレーテやバルンガの機中にいるユーマも、
アディとジィクが、決して広くないブリッジをてんでに移動しながら、嘗め回すように光を当てて目を走らせるたが、死んだように静まり返った
「
「契約には含まれていないし、探し出して外すのに手間が掛かりそう」ネルガレーテがあっさりと言って退けた。「必要なら、後日に
「
アディは身を翻すとスラスターを一噴きさせ、
下層への
だが
「駄目だな、ネルガレーテ」
その言葉と共に、アディは5メートルと行かない間に宙空間へ出てしまった。
★Act.2 救難の宇宙・3/次Act.2 救難の宇宙・4
written by サザン
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