18. 叱る兄に、叱られる妹
あまりに想定外の事態に俺の魂の叫びが噴き出してしまった。
けれど今はチアにツッコミを入れている場合ではなく、この暴走幼女が更に面倒事を起こす前にとっ捕まえるのが先決だ。
そう結論を出し、チアの居場所を見つける為の情報を聞き出そうとした時、隣りから極めて冷静な声が掛かる。
「ランダムクエストを引き当てるなんて、チアちゃん運が良いわね」
「ランダムクエスト?」
「そそ。プログレス・オンラインには冒険者組合から受けられる常在クエストだけじゃなくて、ランダムな時間と場所にイベント用NPCが出現して、そのNPCに話しかける事で受けられるクエストがあるのよ」
ルビィさん曰く、今回チアが受けたクエストもそのランダムクエストの1つで、クエストの難度としては初心者から中級者ぐらいのレベルなのだそうだ。
そして街で受けられるレベルのクエストであれば、少しネットで調べればチアがブローチを取り返した場所はすぐ分かるだろうとの事。
ルビィさんからその話を聞いて安心した俺は、肩の力を抜いてチアに一言釘を刺しておくことにした。
「チア、一先ずお前はそこを動くな。すぐに迎えに行くから絶対に動くなよ。……それと後で説教な」
『えぇ~。チア、悪い奴倒してブローチ取り返したんだよ?』
「だまらっしゃい! 母さんにチクらないだけ温情だと思え。と言うか、お前一応悪の女幹部なんだろ? 悪人倒して良い事してどうすんだよ」
『にーちゃん、悪にもそれぞれ美学があるんだよ。チアとこの人達はその美学が合わなかったの』
「お前は一体どんな人生歩んで来たんだ。異世界転生者か何かか?」
そんな会話をしつつ、チアに絶対にその場を動かないようにと厳命を伝えて電話を切った。
「マハール君、チアちゃんの居る場所が分かったわよ。ただ、ちょっと懸念事項があってね」
「懸念事項ですか?」
「そう、懸念事項。実はチアちゃんが受けちゃってるクエストってブローチを取り返して終わりじゃ無いみたいなのよ。その後にも幾つか熟さないといけない事があるらしくて、今のチアちゃんやマハール君のステータスだとちょっと難しそうなのよね。……チアちゃん、途中で辞めるかしら?」
「……無理ですね」
俺がチアと話している間にクエストの攻略情報を調べてくれていたルビィさんによると、このクエストを完全攻略する為にはイベントを進めて遺跡ダンジョンへと向かい、そこのボスを倒す必要があるらしい。
そのダンジョン自体は初心者向けではあるものの、ゲームを始めてまだ間もない俺たちにとっては少々厳しい難易度のダンジョンらしく、更に言うとこのクエストの報酬にもちょっとした問題があるのだ。
その問題と言うのが、なんとこの報酬はパーティーメンバーの内からランダムに選ばれた1人の最もレベルが高いスキルに対応したアイテムが貰えるという仕様らしい。
つまり、俺とチアの2人で攻略すると、チアの狂闘スキルか俺の奇術スキルのどちらかに関連したアイテムが貰え、助っ人を頼むと俺たちに関係ないアイテムが出る可能性が出て来るという事。
「それは確かに面倒ですね。俺たち2人だけで攻略するには少し難易度が高くて、助っ人を頼むと俺たちに関係ない報酬が出る可能性がある。俺たちがもっと成長するまでクエストを進めないようにすれば問題ないけど、チアがそれまで我慢出来るとは思えないし……」
「まぁ、何はともあれチアちゃん次第って事ね」
「……そうですね、今はとにかくチアを迎えに行ってきます」
「マハール君だけで大丈夫? あそこゴブリンとかも出るけどマハール君って戦闘スキルどのくらい育ててたっけ?」
「……護衛をお願いしても良いですか?」
奇術スキルと隠密スキルぐらいしかまともに育てていない俺にはちょっと厳しい場所の様だったので、貧弱な俺は生産職のルビィさんに護衛を頼む事にした。
……
…………
………………
「にーちゃん、見付けた!」
「いや、見付けたのは俺らの方だからな! この、暴走幼女!」
大きいハンマーを携えたルビィさんにモンスターを倒してもらいながら、クエストでゴブリンとの戦闘が始まる場所まで向かうと、そこにはぴょんぴょん飛び跳ねながら手を振るチアが居た。
こちらの気も知らずに大変楽しそうである。
「さてチア、お楽しみのお説教タイムだ」
「うぇっ!? えっと……見て、にーちゃん! これ泣いてたお姉ちゃんのブローチ! チアが取り返したんだよ!」
「そうかそうか。じゃあ、まずそこからお説教だな」
「なんでっ!?」
チアは自分が大冒険の末、凄い事を成し遂げたと満足していたようで、その所為で叱られるとは微塵も思っていなかったようだ。
ここでちゃんと叱っておかないと、リアルで同じような事をされては堪らない。
「チア。何で俺に一言も相談せず勝手にその人と約束して、そのまま一人で突っ込んだ?」
「えっと……。お姉ちゃんが泣いてて、早く取り返してあげたいって思ったから……。でも、ほらっ! チア、ちゃんと悪い奴を倒して取り返したんだよ!」
「そう言う事じゃない。行動する前に俺にフレンドコールでも掛けて相談しても良かったじゃないか。ここがゲームで、しかも今回のがクエストイベントだったから良かったけど、本当にトラブルに巻き込まれて危険な目に遭ってたら、俺はチアを助けにも行けなかったかもしれないんだぞ」
チアは箒に跨って階段から飛び降りたり、可愛いからといって見ず知らずの人(モカさん)に背後から抱き着くような破天荒幼女だ。もしリアルで今回みたいな事が起きたらと考えるだけで血が凍りそうになる。
チアの為にもここはしっかりと今回の行動の危険性を教え込んでおかなければならない。
叱られてどんどん萎れていくチアを見ながら、俺は今回の行動の反省ポイントについて懇々と説教した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます