16. 妹はビーザスガチ勢
「む~ん」
今、俺の前ではビーザスの衣装を着たチアが腕を組んで唸っていた。
「チアちゃん、衣装に納得いかない所があった?」
「ううん、全然そんなことないよ! ルビィお姉ちゃんが作ってくれた服は本当に凄くてもう完璧! 光が当たった時の服の光り方とか色とかもまんまだし、色んな所の長さがチアの大きさに合わせてちゃんと計算されてるのが凄い!」
――う~む。……チアのビーザスガチ勢具合がちょっと気持ち悪い。
俺にはよく出来た衣装だなぐらいの印象しかなかったが、チア目線では更に細かく色合いや光沢具合の再現度までも評価していた様だ。
と言うかチアと一緒に毎週欠かさず番組は観ていたのだが、衣装の丈のバランスなんて意識した事も無かった。そして、丈のバランスをチアの体のサイズに合わせて調整して作っていたという事実は、ルビィさんの服飾に対する執念の強さを思わせる。
「でも……チアが着ても全然ビーザスにならない。ビーザスはもっと格好良くてキレイでエッチなの」
――そうか、ビーザスは格好良くて綺麗でエッチなのか……分かる。
俺がチアのビーザスに対する認識に深く頷き同意している間も、チアは鏡を見ながら難しい顔をして唸っていた。
「にーちゃん、チアのおっぱいが大きかったらビーザスの服が似合うようになるかな?」
「実の兄に妹の胸の有無についてなんて聞くな。返答に困るだろ。と言うかチアの場合、胸云々じゃなくてそもそも身長が足りてないんだ。ビーザスの服がちゃんと着こなせるようになるのは、チアがもっと大きくなってからだろうな」
「むぅ~。次、学校で身長測る時までお預けかぁ~」
「いや、お前。次の身体測定までに何センチ身長伸ばす気なんだ?」
チアの発言に冷静にツッコミを入れつつ、チアの成長した姿を想像してみたが……。その結果、『ビーザスの衣装、チアには似合わなそう』という結論に至った。
ビーザスはスタイル抜群で妖艶な雰囲気を纏った大人の女性だ。チアのスタイルが将来どうなるかは知らないが、少なくとも暴走機関車で野生児の様なチアが、将来妖艶な雰囲気を纏えるかと考えるとそんなチアはまったく想像出来なかった。
「けど、まぁ良いんじゃないか? イメージと違っても大好きなビーザスの衣装なんだ。どんな服を着るかなんて個人の自由なんだし、そんなに気にしないで良いと思うけど」
俺が思い悩んでいるチアにそう言うと、チアは視線を鏡から俺へと移し「分かってないな~」とばかりにため息を吐き、やれやれと首を横に振った。
「にーちゃん、チアはビーザスの服が好きなんじゃなくてビーザスが好きなの。だからチアがビーザスのイメージを壊してまでこの服を着るのは許されないんだよ!」
高校生の俺にファンの道とは何ぞやと説く7歳児。どうやら我が妹は、少し見ない間に遥か遠くへと行ってしまっていたらしい。
「ほほぅ、チアちゃんはそっちタイプなのね」
「ルビィさん、そっちタイプとは?」
「えっとね、コスプレ好きの人にも色々なタイプが居るのよ。好きなキャラの服なら何でも着るって人とか、特定のアニメ制作会社の作品のキャラしか着ない人とか、中には異性キャラの衣装しか着ないとかも居るわね。そしてチアちゃんみたいにキャラへのリスペクトが強くて、キャラのイメージが崩れてしまうような衣装は着ないって層も居るのよ」
ほうほうとコスプレイヤー界隈の話を聞きつつ、そうは言ってもとチアに提案をする。
「まぁ、多少イメージとは違ったかもしれないけど、一応記念に写真は撮っとこうぜ。後で母さんや爺ちゃんに見せれば二人とも喜ぶと思うし」
「うん♪」
きっと可愛い衣装に身を包む娘や孫娘を見れば二人とも喜ぶだろう。
特に爺ちゃんには無理言って高価なゲーム機を2台も買って貰ったのだ。チアが元気に遊んでいる様子は見せておきたい。
そして何より、大好きなビーザスの衣装が手に入ったのだ。その衣装を着た自分がイメージと違ったからと言って、喜んでないはずもない。
チアはそれまで鏡を見て難しい顔をしていたのが嘘のように雰囲気をガラリと変え、ビーザスの真似をして勝気な笑みを作りポーズを執り出した。
「マハール君は撮らなくて良いの? 何なら私が撮ってあげようか?」
「……いえ、俺は大丈夫です」
チアは良いとして、流石に俺はコスプレ姿を家族に見せるのはちょっと恥ずかしい。15歳の男子は多感な年頃なのだ。
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