テーマ『田舎の幼馴染が人外で、自分以外の全員がそれを知っていた小説』

九三郎(ここのつさぶろう)

 都会の大学へ進学する為に田舎を出て、もう数年の月日が経とうとしていた。最初は慣れなかった、人の多すぎる生活も、時間と共に解決して、そうしたら今度は目先のやらなければならない事が山のように積み上がる生活がやってきた。人が多ければやる事も多いのだと納得してからは、それほど辛いと感じた事も無かったような気がする。ただ、夜に部屋の電気を消しても、カーテンを閉めても、なんとなく薄ぼんやりと、そこら辺の道の街灯やら、コンビニの光やら、遠くの方の繁華街やビルの騒がしさが薄いガラス窓を突き抜けて、埃みたいに部屋に舞い込んでくるのが、少しずつ、少しずつ、部屋の隅に積もっていくのが分かってしまったんだろう。

 最近部屋の掃除をするのを忘れていた事。それを忘れていた事を思い出して、いつも通りコンビニで買って来たお弁当をちょうど電子レンジにかけた時だった、僕の携帯電話が鳴ったのは。


 もしもし?翔太聞こえる?

 聞こえてるよ母さん。どうしたの?

 どうしたのじゃないわよ。母親が子供の声を聞きたくなったっていいでしょ。

 もう、うるさいな。

 ふふ。一応元気そうね。

 で、なに?

 あんた、そろそろ一度くらいこっちに帰って来ない?別に遊びに来る感覚でいいんだから。

 え~。どうしようかなぁ。

 ダメな用事があるの?

 ・・・いや、今は、大丈夫かな。

 あのね、お母さんもお父さんもお祖母ちゃんも皆会いたがってるんですからね。

 またまた、本当に父さんも会いたがってるの~?

 会いたがってるわよ。バカ。

 ・・・もうどんくらい帰ってないかなぁ。

 クロも会いたいって。ね~。

 はは、もう・・・。

 でも、一番会いたがってるのは、お姉ちゃんよ。

 ・・・お姉ちゃん?

 そう、鈴ちゃん。

 ・・・あ、鈴お姉ちゃんかぁ。

 あんたも鈴ちゃんとは会いたいでしょ。

 ・・・う~ん。

 ほら、また面倒くさくなる前に切符取っちゃいなさい!あんたも偶にはこっちでのんびりしたいと思う筈よ。

 わかったよ。じゃあ、切符取ったら連絡するから。

 今週中にね。

 うんわかった。じゃ、そう言う事なんで。おやすみなさい。

 はい、おやすみ。・・・あっ!鈴ちゃん。

 え、鈴ねぇ?

 ほら鈴ちゃん、翔太の電話してるの、あなたも翔太に言ってやって。

 あ、母ちゃん!ちょっと・・・


 翔ちゃん?

 ・・・久しぶり、鈴ねぇ。

 ふふ。イヤ?

 ・・・ううん、嫌じゃないよ。

 よかった。翔ちゃんの声聞けて、嬉しい。

 俺も。

 翔ちゃん、こっち帰ってきたら、いっぱいのんびりしてほしいな・・・。

 確かに、こっちは結構忙しいけど・・・。

 翔ちゃん、一緒にいっぱいお昼寝しようね。クロも一緒に。

 も~、やっぱりずっと昼寝してる。・・・まぁ鈴ねぇらしいけど。

 待ってるね。

 ・・・うん。分かった。


 じゃ!じゃあ切るから!ごめん鈴ねぇ!

 うん、おやすみなさい、翔ちゃん。

 うん、おやすみなさい。


 ―――。



 「ねぇ、今の家族から?」

 「あぁ、うん。そう。」

 「実家帰るの?」

 「うん。うん?・・・え?」

 「・・・え?」

 「君は


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