少女は今日も倒れない

@JULIA_JULIA

少女は今日も倒れない

 その少女は、今日も立っている。


 己の真横を弾丸が通りすぎても、微動だにしない。瞼を動かすことすら、しない。


 その身に弾丸を受けようとも、決して倒れない。それどころか、射手しゃしゅを嘲笑うかのように、微笑みを湛えている。




 その少女は、とても強い。


 もう何発もの弾丸を受けている筈なのに、まるで効いていないかのようだ。


 その少女は、ずっと立ち続けている。もう何日も、何日も。そして、笑い続けている。少女が笑顔を絶やすことは、決してない。




 そんな少女の様子に、射手は苛立ちを覚え始める。本来ならば、もうとっくに仕留めていても、おかしくはないからだ。そしてまた銃に弾を込め、少女を狙う。


 発射された弾丸が少女に襲いかかる。そして、当たる。クリーンヒットに見えた。そう思えた。


 しかし少女は、まだ立ち続けている。


 まるで倒れる気配を見せない少女は、射手の目には、完全無欠の存在のように映った。




 もう何発、当てただろうか。しかし少女は倒れない。


 射手は弾を追加し、執拗に少女を狙う。何発かは外れ、何発かは当たる。


 そんなことの繰り返し。


 しかしやはり、少女は倒れない。




 とうとう痺れを切らした射手は、少女を指差して、叫ぶ。


「おっちゃん! あの箱、全然倒れないじゃんか! なんかインチキしてんだろ!」


「はぁ? そんなワケないだろ。アレはウチの目玉商品だからな。そう簡単には取れねぇよ」


 少年の怒りを軽く受け流した射的場の店主。


 彼は数々の景品が並べられている棚の、その真ん中に置いてある【プリチュアのフィギュアの箱】を自慢げに眺めていた。


 その箱の表面には、爽やかな笑顔を湛えている少女の立ち姿が描かれている。



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