趣味と友情

悠人が女装サロンに行くのは、もう何度目か数えきれないほどになっていた。


はじめて訪れたときは、自分一人だけの秘密の楽しみだったが、通ううちに顔なじみも増え、自然とサロン内で会話が弾むことが多くなっていた。


この日も、彼はお気に入りの服とウィッグを身につけてサロンに向かった。


女装が日常の中で特別な時間になっている一方で、少しずつ「誰かと共有する楽しみ」も見つけていた。


サロンの扉を開けると、すでに何人かの常連たちがくつろいでいるのが目に入った。


彼らはみな、それぞれのスタイルで女装を楽しんでいた。


中には華やかなロリータファッションの人もいれば、制服を着こなす人、シンプルなカジュアルスタイルの人もいた。


「こんにちは」悠人が挨拶すると、みんなが笑顔で応じてくれた。


彼が座ると、近くに座っていた一人が話しかけてきた。


「今日はまた涼しげな感じだね。前はロングスカートだったけど、今のスタイルも似合ってるよ」


「ありがとう。最近、暑くてね…もう少し軽い服装に挑戦しようかと思って」


その言葉に、相手は頷きながら笑顔を見せた。


「わかる、暑い時期はどうしても涼しさを求めちゃうよね。私も今日はちょっと普段着っぽい感じで来たんだけど、やっぱり服選びは難しいよね」


悠人はその言葉に共感しながら、他の人たちの服装にも目をやった。


スーツ姿の人もいれば、少しフォーマルなドレスを着ている人もいる。それぞれが自分の好きなスタイルで女装を楽しんでいる。


「みんな、いろんな服装があって面白いよね。どんな場面でも楽しめるって感じで」


「そうそう、最初は私もロリータ一筋だったけど、最近はちょっと違うスタイルにも挑戦したくなってさ」


ロリータファッションをしている一人が、にっこりと笑って言った。


彼女(彼)は鮮やかなレースのドレスを身につけ、まるでお人形のように華やかだ。


「でもね、いざ普段着に挑戦してみると、意外と難しいんだよね。ロリータは非日常の楽しみって感じで、普段着だと逆にどう見せるか考えちゃう」


「それ、わかる気がする。普段の服って、意外と個性が出やすいよね。だから、私も最初は迷ったんだけど、最近はシンプルなカジュアルスタイルも好きになってきたよ」


話が進むうちに、女装に関する話題から徐々に他の趣味の話に移っていった。


意外なことに、サロンに集まる人たちは、皆それぞれの職業や趣味を持っていて、さまざまな話題で盛り上がることが多い。


「そういえば、ゲームとか好きな人いる?」


ふと話題が変わると、何人かが顔を輝かせて反応した。


「ゲーム大好きだよ!最近はオンラインゲームにハマってて、夜中までやっちゃうことが多いんだ」


「私はマンガ派かな。最近のジャンプとか読んでるけど、どれも面白いよ」


悠人は、みんながゲームやマンガについて語り始める様子を見て、彼らがただ女装を楽しむだけの人たちではないことを改めて感じた。


サロンに集まる人たちは、普段は会社員やエンジニア、教師などさまざまな職業に就いていて、共通の趣味を持っていることに気づいたのだ。


「実は、僕もゲーム好きなんだよね。でも、最近は仕事が忙しくてあまりできてないけど」


悠人がそう言うと、みんなが一斉に彼に注目した。


「何のゲームが好きなの?」


「昔はRPGが好きだったんだけど、最近はスマホゲームが多いかな。あと、マンガも結構読むよ。ジャンプ系の作品も好きだし」


話が進むにつれて、みんなの会話はますます盛り上がった。


女装をしているときの自分と、普段の自分が混ざり合い、趣味や興味を共有できる場がここにあることに悠人は驚きと喜びを感じた。


「女装だけじゃなくて、こうして他の趣味でも繋がれるのって、いいよね」


「そうだね。ここに来ると、なんだか安心するんだ。普段の自分と違う一面を楽しめるし、でもそれだけじゃなくて、本当の自分とも向き合える場所って感じかな」


誰かがそう言った言葉に、悠人は深く頷いた。


サロンでの時間が終わりに近づくころ、悠人はふと考えた。


ここで出会った人たちとは、女装という共通点だけで繋がっているわけではない。


むしろ、それ以外の部分でこそ、彼らともっと繋がりたいと思うようになっていた。


「また次回も来るよね?」


サロンのスタッフが声をかけると、悠人は笑顔で頷いた。


「もちろん。またみんなと話したいし、次はどんな話題で盛り上がるか楽しみだよ」


その言葉を残し、悠人はサロンを後にした。


彼の心の中には、新しい友人たちとの絆が深まった喜びと、これからも続くであろう楽しい時間への期待が広がっていた。


「女装だけじゃなくて、もっといろんなことで繋がっていけたらいいな」


悠人はそう思いながら、次にサロンに来る日を楽しみにしていた。

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