日常の女装を目指して

悠人は、コスプレや派手な女装に満足感を感じつつも、次第に「もっと自然に、女性として見えるような服装」を試してみたいと思うようになっていた。


サロンでの華やかな体験は楽しかったが、日常の中で女性として見られる感覚をもっと知りたくなったのだ。


「流石に、ミニスカートは恥ずかしいな……」


悠人は、自宅でネットショップを眺めながら、これから挑戦する服を真剣に選んでいた。


これまでの選択肢はどちらかと言えば、可愛さや派手さを優先したものだったが、今は少し落ち着いた、自然な女性として見える服に目を向けていた。


まず最初に目に留まったのは、ロングスカートだった。


ミニスカートにはまだ抵抗があったが、ロングスカートなら恥ずかしさも少なく、女性らしいシルエットを楽しめる。


「このスカートなら、あんまり目立たないし、落ち着いて見えるかも……」


悠人は、黒やネイビーのシンプルなロングスカートを選び、カートに入れた。


そして、上着はなるべく体型が隠れるものを選ぶことにした。


オーバーサイズのカーディガンやパーカーが目に留まり、それなら普段でも着られるかもしれないという期待を込めて(着ないだろうけど)、購入を決めた。


数日後、待ちに待った服が自宅に届いた。


箱を開けると、ふんわりとした素材のロングスカートと、柔らかい質感のカーディガンが出てきた。


手に取ってみると、どちらも思ったよりも軽く、さらりとした感触が心地よかった。


「これなら、自然に見えるかもしれないな……」


悠人は自分にそう言い聞かせながら、鏡の前で試着を始めた。


まずロングスカートを履き、次に体型を隠すために選んだカーディガンを羽織る。


全体を鏡で確認すると、派手さは抑えられ、どこにでもいるような自然な女性の服装に見えた。


「うん、悪くないかも……」


以前のコスプレ風の服とは一線を画したこの装いに、悠人は少し安心感を覚えた。


これなら街に出てもあまり目立たないし、日常生活の中で女性として過ごすことができそうだ。


女装サロンに行く日がやってきた。


悠人は購入したロングスカートとカーディガンを持参し、持ち込みでのコーディネートを依頼した。


サロンのスタッフは、彼の選んだ服を見て、微笑んだ。


「今日は、ずいぶんと落ち着いたスタイルですね」


「そうなんです。最近、自然な感じの服を試してみたくなって……」


悠人は少し照れながらも、これまでの派手なスタイルから一転して、より自然な女性らしさを目指していることを伝えた。


スタッフは頷きながら、彼の希望を聞き入れ、メイクやウィッグでさらなる変身を手伝ってくれた。


「大丈夫ですよ。メイクとウィッグだけでも、十分に自然な女性に見えますよ」


その言葉に、悠人は少しホッとした。


大きな変化は期待していなかったが、こうしてプロの手によって仕上げられると、自分が思っていた以上に女性らしく見えることに気づいた。


メイクが終わり、ウィッグをセットされた後、悠人は鏡の前に立った。


そこに映っているのは、以前の派手な自分とは違う、落ち着いた大人の女性の姿だった。


ロングスカートが優雅に揺れ、カーディガンが体型をほどよく隠してくれるおかげで、全体的に洗練された雰囲気が漂っていた。


「わあ……」


悠人は驚きとともに、思わず息を呑んだ。


大げさな装いではないのに、しっかりと女性らしさが出ていることに感動を覚えた。


メイクとウィッグの力で、これほどまでに自然に見えるとは思ってもみなかった。


「これなら、普段でも出かけられるかもしれないな……」


悠人は鏡の前で何度も自分の姿を確認しながら、そんな考えが頭をよぎった。


サロンの明るい照明の下で、今まで感じていた「女装」という特別な意識が、少しずつ日常の延長線上に移りつつあることを感じた。


その日の撮影も、これまでとはまた違った趣があった。


派手なポーズや演出は控えめにし、ただ自然に立っているだけでも、女性としての存在感がしっかりと表現されていることがわかる。


「今日は本当に落ち着いてますね。まるで普段の生活の中で撮影してるみたいです」


スタッフもそんな感想を口にし、悠人も自分の変化を実感していた。


撮影が終わり、サロンを出る頃には、自分がこれまで追い求めていた「女性としての姿」が、より現実に近づいていることを確信していた。


家に帰ってからも、悠人はその日のことを何度も思い返していた。


鏡の前で再びロングスカートとカーディガンを身にまとい、軽くメイクをしてみると、サロンでの変身がまるで昨日のことのように鮮明に蘇った。


「やっぱり、メイクとウィッグって大事だな……」


普段から少しでも女性らしく見えるように心がければ、これからもっと自然に女装を楽しむことができるかもしれない。


悠人は、これまで以上に女装を深く楽しむ道が広がっていることに気づき、次にどんな服を試してみようかと胸を躍らせた。


「次はもう少し違うスタイルも試してみようかな……」


自然な女性としての装いに満足しながらも、まだまだ未知の世界が広がっていることに期待を膨らませていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る