第9話~魔王と亜人とブスと~ 前編
ハイデルヴルグ王国には深い森がある。そこには亜人と呼ばれるオークやトロルなどが人目を憚るところでひっそりと生活をしている。亜人たちは蒼い人などと呼ばれ、人間の集落に出てきたりすると差別を受け、石を投げられたり、時には殺害されてしまう事件が後を絶たない。
「それではお嬢様、この森で健やかにお育ち下さいませ」
「あ、ああ…お待ちください…!このような森でわたくしはどのように生活をしろと仰るのですか!?」
「これは貴女様のお父上からのご命令です。我々にはどうしようも…それでは…ククク…」
「そ、そんな…」
「恨むのなら母親同様、そのような不細工な顔と体つきに育った自分を恨むんだな、とあなたのお父上が言っておりましたよ」
「う、うう…お母様…お母様を貶さないで…」
「普段から不細工であるが泣き顔は一段と不細工だな。見ているだけで吐き気がするわ。これが名家、ワンサウザンド家の長女とは…」
「いくぞ。蒼い人に見つかると面倒だ。では、さようなら」
そうして男2人を乗せた馬車はそそくさと去って行った。鬱蒼と生い茂る木々。ここは「亜人の森」と言われている大森林。文字通り、オークやトロル、ゴブリンなどが住まう森。人間が入れば男は殺され、女は子を産むための孕み袋にされると言われている人が入ってはいけない森…そんな場所に「この世で一番のブス」とまで言われた一人の少女…オフィーリア・プリムローズ・ワンサウザンドと言うハイデルヴルグ王国でも1、2を争う名家の長女が捨てられた。
理由はただ一つ。その醜い顔、肥えた身体…いや、肥えた体は父により、無駄に食べさせられたためであるのだが…。街でも歩こうものなら「オーク」と呼ばれ、石を投げられ蔑まれ、平民にさえ侮辱される毎日だった。
そして父から齢15…成人となった日に「貴様を追放する」と一方的に糾弾され、この亜人の森に放置されてしまったのだ。
根っからの貴族息女であるオフィーリアは右も左もわからず、泣きながら森を彷徨い歩いた。しかし、よほど奥へと放り込まれたのか、出口は見つからず、ついに途方に暮れ、そこで自分の醜さを恨み、声をあげて泣いた。
日が暮れるのか森も光を失い、ならばここで飢えて死ぬしかあるまい…と思ったオフィーリアであったが…。
ガサガサ…!
「ひっ!?」
野犬か、狼か…魔物か…むごたらしくわたくしを食い散らかして…と思うと怖くなった。
「いやああああ!!!!助けてええええええ!!!!」
オフィーリアは力尽きたはずの体を無理に動かし、森を駆け逃げまどう。しかし、日ごろから軟禁にも似た生活を送っていたために足がもつれ、転び、そして追いつかれた。野犬だ。口からは涎を垂らし、目の前の上質な肉を狙い牙を剝く。眼は久方ぶりのごちそうにありつけるからか喜んでいるように見えた。
そして…
ガァッ!!!!
飛びかかって来た。オフィーリアは目を閉じた。痛いかな。痛いよね…あんな鋭利な牙で腕でも噛みつかれたら…いっそのこと一思いに喉か何かを…嫌…死にたくないよ…!
しかし、いつまで経っても痛みに襲われることはなく、目を開けると目の前に野犬の死体が…。
「え…?」
犬は矢が刺さっていたり、首がない犬もいた。一体…なぜ?そこには…緑色の体をした巨体があった。オフィーリアはおそるおそる声をかけた。
「あなた方は…わたくしを…殺すのですか?」
/北の雪国 魔族の城
「どうしても儂らの下につくと言う気はないのだな?」
「ないよ。なんでお前らみたいなザコの下につく必要があんの?俺らは俺らで好き勝手にやるから、お前らも好き勝手してていいよ。何もしなけりゃこちらからも何もしない」
「貴様、儂がまもなく魔族72柱の頂点になるかもしれんと言うことを知らんのか?」
「知らねー。どうでもいいよそんなもん。そんな情報知ったところで俺の農民生活に利益になることないもん」
魔王フォールは北の魔族が集う城にいた。先代魔王が勇者によって滅ぼされたと聞き、魔王によって北の厳しい大地へ移動させられた魔族たちは密かに自分達が天下を取る機会をうかがっていた。
魔王と名乗る小僧がいるらしいが、実力は大したことはない。すぐに滅ぼせるが無益な戦争をする価値もないと言うことでフォールを傅かせるようにした。魔王によって多くの同胞が死してしまった以上、魔族は増やすことをよしとしていた。
しかし、魔王と名乗るフォールは頑なに彼らの要求を拒み、ついには先ほど王の間のドアを蹴破って騒がしく入って来たのだ。
「どうも、通りすがりの魔王でーす!!!全員ぶっ殺すけど怖くないからね!!!!」
「なんだァ!?主に対する不敬だ!殺せ!!!!」
こうして魔王と名乗る男に多くの魔族が殺しにかかったが…。
「優しさあふれる首斬りー!」
「こわい!!」
「愛にあふれたまっぷたーつ!」
「ラブアンドピース!!」
見るも無残に同胞は殺されていった。それでも主人と言われる魔族は首を縦には振らず、その強さ気に入った、儂の下につけ、と再度要求。
「ああ、それと同時にお前の所には美しい女神がいたな。あれをよこせ。奴隷にしてかわいがってやろう」
魔族は踏んではいけないドラゴンの尾を踏んだ。それはフォールに決して言ってはいけないこと。
「あ゛ぁ?」
「貴様が持っておっても手持無沙汰であろう?なら儂がかわいがってやろう。壊れても問題はなかろう?」
フォールは恐ろしい形相で睨みつけたが涼しい顔をして笑っている。ならば…とフォールはこの城の主に言う。
「わかった。じゃあじゃんけんで勝負決めようぜ!俺が負けたら言うこと聞いてやるよ!」
「はあ?貴様、何を寝ぼけたことを言っているんだ?」
「やるの?やらないの?やらないならお前ら今から全員殺すけど?」
「面白い、ならば俺が受けてやろう。貴様の城でのあの対応に心底腹が立っていたのだ。貴様とその女神を隷属に屈することができるのならな!」
「……よい。期待しておるぞ」
(フン。小童が…貴様の力なぞ知れている…すぐさまじゃんけんと見せかけて張り飛ばしてやるわ!)
「よーし、じゃあいくぞー!じゃーんけーん!」
(パーを出してこやつの顔を張り飛ばしてくれるわ!!)
「グーーーーー!!!!」
城の主の側近はパーを出してフォールを張り飛ばそうとした。しかし…それよりも速く、側近の顔に何かが刺さった。
「ブルッファアアアアア!?!?!?!」
側近は超高速のフォールのグー…つまりパンチを繰り出し、それが右の頬に刺さったのだ。恐ろしい勢いでぶっ飛んでいく側近。頑丈な城の壁を何枚も破壊し、白樺の森の木々をなぎ倒し、山に穴を空けた。
「はい、俺の勝ちー!」
「なんじゃそのインチキなじゃんけんわあああああああ?!?!!?!?」
じゃんけんではなかった。この小さき体のどこにそんな力があるのか?主人とやらは冷や汗を流す。
「よし、次はお前な!」
「ふざけよってぇ…儂を怒らせたことを後悔して死んでいくがよい!!!ハアアアアアア!!!!」
魔族が気合いを入れると少し前に殺した賢者と名乗る老人のような枯れた姿だったものが、筋肉が盛り上がり、骨格さえも変わった。フォールの何倍もの背丈の魔物に変わった。
「ハアア…小僧…儂は魔族72柱に属する魔族だ。その儂をコケにしたことを後悔させてやろうぞ!」
「おっしゃ、やるぞー!じゃーんけーん!」
「死ねえええええええ!!!!」
「チョキー!!」
主人は平手ならば虫を叩き潰すかのようにできるが、それを握り、拳をフォールの手にぶつけた。とてつもない剛力!フォールは腕どころかその拳で床の染みになりそうであったが…。
ガッ!!!!
「ぬううう!?う、ごかん…だとぉ!!!?」
「なんだお前、ゴンドより力弱ぇなぁ。ゴンドのパンチ受けたらたぶん俺、この指折れるぞ?」
「な、なん…」
「お前弱すぎだわー。ゴンドの足もとにも及ばないくせに偉そうなこと言うなよな。めんどくさいからお前パーで潰すな?あーいこーで!」
待て、お前はチョキで儂はグー。お前の負けではないのか?そんなことを言ったってフォールに通じるわけがない。混乱している間にいつの間にか目の前の小さき虫がいなかった。気が付けば上にいた。
「パーーーーーーー!!!!」
バッチーーーーーーーン!!!!!!
「ブベラ!!!!!」
強烈な衝撃が後頭部に入った。その瞬間、この城の主は宇宙を見た。目の前にチカチカと星が見え、グワングワンと回る世界は宇宙を見た。
主は地面に頭からめり込み、埋まっていた。フォールから放たれた強烈な平手打ちは巨体を全身地面にめり込ませるほどのパワーだった。力で負けた。魔族は力こそが全て。そう、北の魔族はフォールに力で負けたのだ。側近も含めて。
………
「じゃあお前ら、二度と俺らにちょっかいかけんなよ?次は殺しちゃうか・も?」
「はい…」
「魔王様のお言葉に従います…」
ボロボロになった主と側近は、二度とこの魔王にちょっかいをかけるものか…そう誓ったのであった。
/
魔王城への帰り道、以前迫害を受けて殺されそうになっていたオークの集落へと様子を見にフォールは寄り道をした。フォールも亜人種への不可侵条約や差別の撤廃は知っていたし、彼らとは勇者の時からの馴染みだった。
「おお、フォールさん、よう来さったなぁ!」
「オイッストーゴ!元気にしてるか?」
「ええ、フォールさんさのおかげでオラ達も元気ですだ」
「そりゃよかった!」
「魔王になっだと聞いてハラハラしたけんども、変わらんようで何よりだべや」
「俺は俺だよトーゴ。チュージも元気か?」
「そらもう。けんど、今は人間ば娘っこが来てますてなぁ」
「人間の?」
「ああ。えれー美人さんが森に迷い込んでたみたいでさぁ」
「ふーん…」
そうしてこの集落の長であるトーゴの家に案内された。中では妻であるマーガレットとその息子チュージ。そして、人間の女の子がいた。
「フォールさん!お久しぶりです!」
「あら~、フォールさん!」
マーガレットもチュージも歓迎してくれた。
「彼女が森に迷い込んだオフィーリアだす」
「えっ、に、人間…?わたくしを連れ戻しに来たんでしょうか…?」
「いいや?俺は通りすがりの魔王、フォール。ちょっと人間に悪さされてないか見に来ただけ!」
「ま、魔王…」
「どうだべやフォールさん!美人な子でしょ!?」
「おー、貴族っぽい娘だけど、いいじゃん、チュージ、嫁にもらっちゃえよ!」
「いい!?」
「え、ええ!?」
「ガハハハハ!!!オラと違って内気だべさなぁ。つがいにもまだなってねえだ!」
「父ちゃん!!フォールさんもやめてくんろ!この娘はなぁ!」
チュージとオフィーリアから事情を聞いたフォールは真面目にふざけることもなく話を聞いた。あまりの不細工な容姿ゆえに見限られ、森に捨てられたこと。そして野犬に襲われて食い殺されそうになったところを猟に出ていたチュージ達に拾われ、今ここで世話になっていること。
「オフィーリアさんは家事がすげーんだ!飯も母ちゃんのよりうめえんだよ!」
「あんだとチュージィ!」
「うわぁ!!」
「ははは、いいじゃんいいじゃん!!貴族ってのはめんどくさい生き物だからなー。いろいろ叩き込まれたんだよな!」
「は、はい…ここでそれがお役に立つとは思いもしませんでした。皆様、とても親身にしてくださりますし…人間のもとで暮らすより、トーゴさんやマーガレットさんの仰られるように、ここで過ごそうかと…ここでは容姿で暴言を受けることもありませんから…フォール様もお分かりですよね?わたくしのこの容姿…」
髪はくせっけでもじゃもじゃ。見た目はどちらかと言うとよく言ってふくよか。悪く言えば太っている。内面や家事などは申し分ないのだろうが…。
「ここが嫌ならうち来る?メイドとして」
「いえ…わたくしはチュージさん達にご恩がありますので…」
「ならいいじゃん!俺はオフィーリア、ありだな!」
「ええ!?」
オフィーリアは今までが今までだったのでお世辞を言っているのか本心なのかはよくわかる。フォールは嘘を一点の曇りもなく言っていた。
「容姿や何やらで決めてるのは人間だけだ。人間なんざ俺は嫌いだからな。汚えことしかしないし。すぐ裏切るし。オフィーリアへの対応なんかも聞いてると本当に親が言うことかよ?ムカついてきた」
オフィーリアのために怒ってくれる人がいる。フォールもそう。トーゴやマーガレット、チュージもそうだ。なら、自分の居場所はここにあるのだろう。そう思っている。
「チュージさん…まずは…少しずつでも…よろしいですか?」
「も、もちろんだども!オ、オラでいいだか!?」
「はい。数日ではありますが…わたくしのことを思って下さっているのがわかりますので…」
「チュージ!慌てちゃだめだからね!男は時に退くことも大事だからね!」
「わ、わかってるって!」
「いいねぇ青春だねぇ」
「ハハハ!未来の長の妻に向けていい方向だべな!」
「トーゴ、ちょっといいか?」
つい今まで笑っていたフォールだったが、突如として真剣な面持ちでトーゴを連れ出した。
………
「オ、オフィーリアが人間の仕掛け!?」
「ああ、オフィーリアを餌にここに攻め入る可能性がある」
「ど、どういうことだべ!?」
突然のことに驚くトーゴ。それと同時にこの集落を守る者達も集めていた。トロルもいる。
フォールの話はこうだ。人間と言うのは狡猾なものである。この森は広大で食料にもなる果物、薬草になる草。そして食料になるボア(イノシシ)や野兎なども多い。加えて大きな川も流れており、これがオークたちの生活を安全に、かつ豊かにしている。
人間ならば、こんないい場所を長らく放っておくことはないだろう。少し周囲をクレセントと見て回ってわかったことだ。ここは豊かすぎるのだ。ならば、欲に目が眩んだ人間が襲ってこないとは限らない。
そこでオフィーリアである。フォールが言うには、オフィーリアを森に捨てた理由が彼女をオークやトロルが拾う。そうすれば奴らはオフィーリアを誘拐されたと思う。そこで人間側に大義ができあがるのだ。
オフィーリアは聞くところによればハイデルヴルグ王国でもなかなかの上位にいる貴族の娘だ。本来ならば妾の美しい妹に気をやっているが、この好立地な場所を占有することができるのであれば、鬱陶しいと思っていた娘を餌に亜人に攻め入るチャンスを得たと見るのが正しい。
1年、戦争の道具にされたフォールはそう見ていたのだ。人間と言うのは欲望を満たすためなら英雄だろうと何だろうと道具に使う。オフィーリアもそうなっているのだろうと。
「そげな外道な…いや、もし本当だったら…」
「おで、にんげん、ゆるせん」
「違ぇねえ。けんど…まだ確証がねえのがなぁ…」
「用心に越したことはない。そうなった時の準備はしておいたほうがいいぞ。森の守り人たち、お前たちがいなくなったら森は終わりだ。
「そうなっだらエルフ達もあぶねえだ…フォールさんが此度来てくれたのは森の神の思し召しかもしれねえだなぁ」
「念のため、俺は明日俺の仲間を連れてくる。その間にもし人間が攻めてきたら、みんなで守るしかない。頼むぞ。けど、深追いはしない。無理に戦おうとしない。作戦は『いのちだいじに』だ」
「「「!!!」」」
その時トーゴを含めて全員の目に火が灯った。元勇者の号令。それはまだ生きているらしい。
「今は内密に。動きがあってから集落のみんなに伝えるんだ。今言えば騒ぎになるからな」
「わかっただ…フォールさん、あんがとう…あんがとう…」
フォールはその思惑にならなきゃいいけどなぁ…と思っていたが、それは明け方に全て当たってしまった。
………
「……………!!!!」
フォールは万が一に備え、トーゴ達に守りを任せてトーゴの家に泊めてもらい、寝ていたのだが異臭で飛び起きた。すぐさま剣を片手に家を飛び出す。トーゴが見る方向では煙があがっている。緑色の火の粉…あれは。
「フォールさん、起きただか。あれだよ」
「……銅を焼いているな。ひでえ匂いだ」
「オラ達の鼻を潰してるんだべさ。オラ達は鼻もいいでな…フォールさんが言ったとおりになっちまっただ」
「俺がいた時に始めてくれて助かったけどな。トーゴ、俺はすぐに城に戻って仲間を連れてくる。攻めてきたら守れよ!」
「わかりましただ!フォールさん、お気をつけて!」
「クレセント!!!」
ピィー!と口笛を吹くと紫炎を纏って駆けてくるクレセント。すぐさま飛び乗り、森へと消えて行った。
「父ちゃん、何だぁこの匂いは!?」
「チュージ、よく聞け、これはな…」
そうして経緯を話すとチュージは怒りに震えた。自分の娘ごと自分達を根絶やしにするつもりなのかと。フォールはそれが人間なんだ、と言っていた気がする。
「チュージ、おめえはオフィーリアを守れ。母ちゃんを守れ。男なら女子を守れ。オラ達は森へ出る」
「……!父ちゃん!」
「おめえにはそれだけの力がある。おめえは次の長だ。長がくたばるわけにはいかねえだ」
「……わかった…」
(フォールさん…頼む…!急いでくんろ!)
トーゴは祈るしかなかった。
………
「これでオークやトロル共は鼻が利かなくなるでしょうや」
「良い良い。あとは機を見て集落まで攻め入れば良いな?」
「へい!オークたちもうちの冒険者たちを使えば殲滅も簡単でしょうや」
「ギルドマスター、あんたも悪いねぇ?」
「そりゃ貴族のお役に立てるならねぇ。それに収益になりやすし!ここの資源やボアの肉はいい稼ぎになりやすぜぇ!」
「ハッハッハッハッハ!!!」
森の入り口で金属を焼き、煙を風魔法で運ばせているのはオフィーリアの父である貴族と、近隣の冒険者たちを取りまとめるギルド管理協会のギルドマスターだ。
「しかし、娘さんを放り出して…いいんですかい?」
「構わん。あんな醜い奴は人間とも思わん。せいぜいオークの孕み袋にでもなっていろ。オークごと焼き払ってくれよう」
「悪い人だ…まあ、あんなん孕み袋にもならねえんじゃ?」
「カカカカ!!!あんなおぞましいからな!まあオーク共も似たようなもんだ。やってるだろうよ!」
「ハハハハハ!!!」
(やっぱりやってたか…あれがオフィーリアの親父か…父親が言う言葉じゃねえな)
フォールは木々に紛れて風に乗って流れてくる奴らの言葉を聞いていた。親とは思えない罵詈雑言の数々。そして、国際協定を知らないはずがないだろうに亜人の森へ攻め入ろうとする精神。私利私欲のために亜人を滅ぼそうと言うのなら…。
(だったらこいつら全員、殺すしかねえよなぁ…!)
こうなってしまっては戦争は避けられない。急ぎゴンドとネージュと共に戦うべきだ。フォールはすぐさま魔王城へ帰り、ゴンド達を連れて行こうとしたのだが…。
「3人もクレセントにのっけてらんないなぁ」
どうするか手をこまねいていた。
………
日が昇り森の中は銅を焼いた臭いで充満し、さらには木々を倒し、森を破壊し始めた。斥候部隊がまず集落へ入り、不意打ちのようにオークたちに攻撃を始めたが…。
「こいつら、戦いの準備ができてやがる!」
「どっから来たべや!?戦の用意だぁ!!!」
「遅え!!やっちまえ!!!」
「うおおおおおお!!!!」
まずは集落の方で戦が始まってしまった。一方的な侵略戦争。チュージはオフィーリアを守りながらトロルたちと共に戦う。その間にも家が焼かれていく…そのことで目に涙が浮かんだが泣いている暇はない。
「女と子供をトロルの集落へ逃がすだ!!!オーガにも協力を!!!侵略者共!容赦はしねえだ!オフィーリアはオラが守る!!!」
チュージは着実に長としての実力、そして信頼を得ていく。フォールさんが必ず来てくれることを信じて。
………
しかし、多勢に無勢…統率の取れた冒険者たちに苦戦を強いられるチュージ達。仲間を守り、オフィーリアを守るために奮戦したが数が多すぎる…。このままでは殺されてしまう…!
「頑張ったなオークよぉ。そろそろ邪魔だから死んでくれや」
「なんでだ…なんでお前たちはオラさ村を襲うだ!!!」
「そりゃあ貴族様の命令だからよ。お前らは貴族様の娘を攫ったんだろ?大罪じゃねえか。死んでも文句は言えねえよなぁ?」
「違う!オフィーリアは捨てられたんだ!!!おまんらの言うオフィーリアの父ちゃんがオフィーリアさ捨てただ!」
「はい嘘乙ー!嘘つきなクソ亜人は死ねや。亜人なんざいてもいなくても一緒だろうが!」
「な、ん…だと!!!」
「へへっ、お前ら殺して、娘さんもうっかり殺しちまっても報酬が出るって言ってっからよ!死んでくれや!!!」
「やめてください!!!」
「オフィーリア!?なぜにここへ!」
「チュージさんが死ぬなんて考えられません!!わたくしがオフィーリアです!!殺すならわたくしだけを殺して、オークの皆さんへこれ以上の危害を加えるのはおやめください!!!」
オフィーリア。トロルの集落で匿ってもらっていたはずなのになぜ…!?しかし、そんなことを言っている暇でない!!!オフィーリアを守らねば!
「ぶっっっっっさ!!!!!!何だこいつ!?替え玉じゃねえよな!?こんなドブスが!?んなもんオークと間違えて殺しちまいましたでいいじゃねえか!ギャハハハハハ!!!!」
何だこいつらは。これが人間の…人間の醜さなのか!?チュージは頭に血が昇る。オフィーリアを馬鹿にしたな…こいつらは人間じゃねえ!許さねえ!!!
「オフィーリアを馬鹿にすんでねえええええええ!!!!」
「うるせえ!!!オラァ!!じゃあそのクソブスと一緒に死ねやああああ!!」
「ガアアアアアアア!!!!」
オフィーリアを守り、チュージは腹に剣を思いきり刺された。気が遠くなりそうな痛み。そして体の温もりが失われていくような感覚を覚えた。
「グッウウウ!!!ヂクショウ…ヂクジョオオオオ!!!!」
「ハハハハ!弱ぇ弱ぇ!!!じゃあな勇敢なドブスの王子様!!これで終わりだあああああ!!!」
「やめてえええええええええ!!!!!!」
チュージに無慈悲に剣を突き刺そうとする冒険者。それを止められないオフィーリアの叫び。チュージは己の無力さを呪った。しかし、オフィーリアだけは…オフィーリアだけは!
ボッ!!!!
刹那、チュージを殺そうとしていた男の首が飛んだ。切断ではない。何か投石でも飛んできたかのような。そんな勢いで男の首がちぎれた。
「な、なんだぁ!!?」
地面に刺さるは1本の木の矢。その1本が男の首を刎ね飛ばしたのだ。そんな芸当、人間にできるわけがない。増援か!?
「おい、何だあれ!でけえ鳥…グリフォンか!?」
「いや違う…!あれは…あれは…!!!!!」
「何してる!早くその娘とオークを殺せ!!!」
「ド、ドラゴンだああああ!?!!?!?!」
「何を馬鹿なことを言っているんだ!早く撃ち落とせ!!!」
急降下してくるのは白銀に輝くドラゴンだった。しかし、幼く小さい。幼くともドラゴンを討ち取れば名声が広まる。そう考えた冒険者たちはいっせいに魔法を唱え、矢を放つ。しかし、それらは全て効果がなかった。そして…スタッと人が飛び降りてきたのだ。
「ゴンド、任せた!!!!」
何か声が聞こえたがすぐさまドラゴンは低空飛行で消えて行った。残ったのは金髪に赤い目をした騎士だろうか。その目は鋭く、全てを凍てつかせるような瞳をしていた。
「不惜身命。この身に変えても彼らをお守り致します。さあ外道共。冥府の女王への挨拶をする準備は済ませたか?」
「な、なんだテメエは…!?」
チュージとオフィーリアの目に立ちふさがるは…彼らにとって死神に等しい。
「我が名はゴンド。魔王様をお守りする盾であり、剣…さあ外道共。魔王様の名により、貴様らを処断しようと思う」
恐ろしく低い冷気をもった声で、その男…ゴンドが剣を抜いた。
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