おっさんだらけの宴
癒しの兄妹が帰っていって、残るはおっさんと残念な姉ちゃん二人だ。
何が残念って、二人は料理をすることを諦めきれずに貝を焼こうとして爆発させた。
サザエみたいな貝を強火で焼いて、蓋どころか殻ごと弾け飛んだ。
「なんで強火にこだわるんだよ!?」
これで海の街育ちってマジか?子供の頃から魚介に慣れてるだろう?って思ったら、ミンミとイルナ、ロゴスとアイアンって別の街出身らしい。
「依頼中の野営じゃゆっくり調理できないからなぁ」
アッシュもサントスも庇うな。爆発は洒落にならんぞ。
そもそも依頼中は乾パンと干し肉で過ごしてるだろう??
休みのこの場面でスピーディさは、いらないから。
「ほらぁ、料理は特殊スキルって言っただろぉ」
ランガが爆笑してるけど、俺は料理スキルは持ってないんだが!?
ギルマス以外が、酒樽の勝負を続けてて、人数がそれなりにいるから十回勝つって言うのが毎回勝者が違ってるので、全然終わる気配がない。
「カァー、このままじゃ勝負がつかねぇ」
全員服を脱いで海に入って「一番遠くまで泳げたら勝ち」とか言い出して半裸で飛び込んだ。
・・・そのゴールは誰が見極めるのだろうか?
「アイツら相変わらずバカだな」
ギルマス、あんたのとこのパーティも参加してるんだぞ。
「おう、遅くなったが依頼の件ありがとよ。お前さんがいなけりゃガキ全員絶望的だったろう」
あの段階で察知出来てなかったら間に合わなかったのは確かだ。神のおかげって言ったら面倒になるから言えないけど。
「間に合わないのもいたからなんとも言えない」
悪党が死んだのはどうでも良いけど、囮にされた子が可哀想だ。
「は、そんなもんは程度の差はあれ毎度あるこった。自分の手に余る部分は悔いても辛いだけだ。自分の仕事が済んだら後は全部上に任せて忘れろ」
良いトップだなぁ。
立場のある責任者がみんなこうだとありがたい。
「実力不足の依頼失敗ならペナルティが付くだろう?誘拐事件は被害者を無事確保できるとは保証できん。やりきれなくともそう言うものだと思えよ」
まぁなぁ、まさか悪党ごと魔獣に襲われるとか予想外だし。
「お前さんはやれる以上の事をした」
何故か慰められてる。新人冒険者のメンタルケアまでしてくれるのか。この世界はみんな優しいな。
俺、パワハラ上司と逆パワハラ攻撃してくる後輩に挟まれてたから泣きたい。
正直言って、精神耐性が仕事してて落ち込んではいない。もともと事勿れで流して生きてきてるのもあって諦念感が強いかも。
悟ってるんじゃなくて諦めてる方な。
「悪党どもは最終的に処刑になる。大元が見つかればそいつは貴族裁判の後、一族もろとも公開処刑だろう」
うはぁ。一族もか。
慰められつつ、この世界の現実を聞いてちょっと怖いと思った。何か知らないところで犯罪者認定されたら即、死刑台にご案内だ。
お貴族さまからは距離を置かないとな。
「おい、お前さん、草やるんだってな。良い草持ってるんだって?一本交換してくれんか」
ギルマスが胸ポケットから出してきたのは葉巻ケース。一本選べって。
「これ葉巻じゃん」
「バーカ、良い草はここらで入る草とは値段が釣り合わんだろ」
みんな太っ腹すぎて困る。
「一本くれるならこれだけあげるよ」
今日はシガリロ十二本入りを持ってた。
「おいおい、お前さん気前がいいなぁ」
どっちがだよ。
まぁランガたちは金貨二枚くれるけど、物々交換なら値段は置いておいていいだろ。
って言うか、ヒゲの体デカいおっさんが「草」言ったらいよいよダメな方の「草」感が酷い。
薬局では「煙草」って言ってるのになんなの。
「はぁー」
ギルマスが火を付けたので俺もシガリロに火を付けた。葉巻は後でゆっくり吸うんだ。
「こりゃ良い味がするなぁ」
ワインのフレーバーだったかな。口の中にジワッと香りと煙草の苦味が広がる。
「商人じゃないのが残念だなぁ。山ほど仕入れて確保したいってニコルの話は本当だ」
カナンのギルマス・ニコルソン、そんな事言ってたのか。
「お前さんが目立ちたくないのは聞いてるが、酒と草は人の欲望を刺激するぞ」
「まぁ一応出す相手は選んでる」
歩きタバコしちゃうけど、みんな俺を貴族だと思ってそうそう声かけてこない(ランガたちはあれだったけど)し、今は隠者の指輪もあるから。
酒は一緒に飲む時しか出さないしな。
なぜかヒゲのおっさんとしっぽり海を眺めて飲んでる。
海にはギャーギャー大騒ぎしてる奴らがいて、静かではないけど、おっさんと二人肉焼いて貝焼いて、酒飲んでタバコ吸ってる。
俺に異世界ハーレム展開は来ないと確信した夜だった。
だって視界には半裸のマッチョのおっさんたちで、横にはタバコ咥えて酒飲んでるガチムチおっさんだぞ。
前々前世くらいで女に悪いことでもしたのかな。
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