ボルクさんは嫁に弱い

 宿に戻ると夕食を先に済ませる事にした。

 少し遅くなったので、すでに良い気分の連中が大声で笑ってる。

「エールで煮込んだ。味の感想をくれ」

 ボルクさんがオークの煮込みを出してくれた。

「ん、柔らかいし、良い風味だね」

 豚の角煮の洋風な感じ。

「強いて言うなら少し砂糖入れて辛い葉っぱか種があるとより良いかもー」

 マスタードとか山椒、高いのかなぁ。

「料理に砂糖だと!!?」

 あー、またここじゃ使ってない感じ?

 砂糖も高いのかなぁ。


「お前、金持ちなのを隠したいのか隠さないくて良いのかどっちなんだ」

 うーん、庶民なお店じゃ使わないってことかなぁ?砂糖ひと匙もダメなのか。

「お前の金遣いや料理の知識は平民じゃあり得ない。感覚が公、侯爵や大商人レベルだぞ」

 ボルクさんが力説する。

 マジで言ってるんだろうか??

「隠すも何も親も先祖も農民だからなぁ」

 戦前も農家だったはず。相続と檀家の付き合いで財産と土地が削られていったとか言ってたから今は実家の土地とそこそこ広い農地が残っただけ。


「嘘はついていないんだろうが信じようがないほど浮世離れしている」

 まぁこの世界に馴染んでいない部分は仕方ない。「別の星から来ました⭐︎神様が可哀想だからってかっこいい顔と凄いスキル貰いました」って言うべきかな?

 打ち明けたらまたアイアンクローとかされちゃう気がするぞ。


「お料理は閃きと感覚でするとね!いつもの手順と違う味付けお試したらば美味しくなる時もあろうね?」

「お前はそれをしてはいけないと懲りて欲しい」

 エンマさんがニコニコ助け船って思ったら、ボルクさんがゲンナリ。

 まさかエンマさん、アレンジャーなメシマズスキルがあるのか?

「スープにイチゴとオレンジ入れたり、魚の燻製にチーズのせたり、酢をかける」

 うーん?味が想像できないが匂いキツい系同士はよほど上手い塩梅じゃないと口の中で大喧嘩するよ。

「だってお野菜と果物って似たようなものじゃなかね?お肉とチーズ美味しいから魚もうまかとね?」

 好きなものを全部掛け合わせたら美味しーじゃないんだなぁ。


「果物を使う料理もあるけど、その料理に向く果物じゃないと主役の味が消えちゃうよ」

「あれまぁ!私は美味しいと思うとよ」

 首をこっくり横に倒すエンマさん、俺がボルクさんを見ると控えめに首を横に振られた。


 ボルクさんの料理を美味しいと言っていたので味覚がおかしいわけじゃなさそうだけど、自分で作った物フィルターでもあるのかも?

「もう〜。普段は食べれれば何でもよかよね」

 あー、余った食材勿体ない系なのか。食材を残さない方に重きを置いてる。


 エンマさんがお客に呼ばれたので、こっそり聞いた。

「家庭ではここの食事出さないの?」

「残れば食べる」

 宿の厨房の奥の部屋で暮らしているらしい。

「仕事以外ではエンマさんが作るんだ?」

「宿の夕食前と夜食を俺が作ると言っても作ってくれる」

 あー、二人で働いてるのに旦那さんを休ませたいんだね。愛だね。

 夜食は宿の食事が残った時はそれで済ますけど、わりと残らないらしい。

「素材は残ったもの?」

「そうなるな。日持ちの悪い物が中心だ」

「宿用の食材と使って良い食材とって分けたら?実際腐るまで使わない素材買ってないでしょ」

 こんな混んでて食材回転率高そうなんだし。


「そうか・・・そうだなぁ」

 よし!砂糖の件はうやむや!お湯もらって逃げよう!

 ボルクさん急かしてお湯持って部屋に戻った。


 お湯いらないんだけど、もらってないとばっちい人疑惑が湧くからな。

 部屋の窓を一回開けて換気。留守中に掃除してくれてるけどね。

 

 部屋の戸締り確認して、〈ルーム〉に入って、一服。くぅー。


 シャワーを浴びて、ラフな寝巻きに着替えて、夜のお楽しみタイム。

 この前作ったチャーシューと煮込みを皿に移して、果物とワインとグラスを用意。

 一回座ったら動かないんだぞ。


 ソファに座ってタブレットの音楽フォルダを開く。TMさんにしよう。ウツの声ってなんでこんなに綺麗なんだろう。


 今日は白ワインの気分。

 家で飲む時はめんどくさいのでロックグラスで飲んじゃうよ。

 スマホでお取り寄せをしようと開くとメールが来てた。

 教会にどうしても来て欲しいらしい。光らなくてもあの神父とシスターは知ってるじゃん。

 ちなみにメール、俺からは送れないんだ。一方通行。意思疎通や直接話すためには教会や神殿に行かないと行けない。

 明日気が向いたら行くか。ギルドで気力削がれなかったら。


 ショップアイコンをタップして、タバコの確保とタバコ吸えない時用の飴とガムを買ってみた。

 オススメにケーキが出てきてたまには甘いのも欲しいなってポチッとしてしまった。

 もちろんちゃんと神様用もお買い上げで献上した。まとめてドリアス便。

 

 生クリームたっぷりのイチゴケーキ。一ホールは食べれないので切り分けて収納した。


 うーん、うまいんだけど、心はオッさんのぼっちケーキはすっげぇ切ない気がしてきた。


 クリスマスに一人みたいな・・・あれ?平常運転だったわ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る