賊王 -ピザと鉛をお届け-

般若バール

第1話 プロローグ


「突然ですが貴方はお亡くなりになりました」


 目が覚めると目の前に見知らぬ女が立っている。金髪碧眼、古代ローマ人の様な服装をしていて、背後から後光がさしている、如何にも私は女神ですよ感のある女だ。


 周囲を見渡せば何も無い真っ白な空間が広がっている。

 目がシパシパする。遠近感が狂いそうだ。


 次に自分の格好を見てみる。先程まで部屋にいた時と同じ、短パンにTシャツのラフなスタイル。

 だらしない中年男性といった感じだ。


「……死後の世界ってあったんすね〜」


 最初は少しそんな訳無いと思ったが、直ぐに自分が死んだ時の記憶を思い出して納得をした。

 まさか宅配のピザが爆発するとは。


「はい、貴方は自宅アパートでデリバリーのピザの中に仕込まれた小型爆弾によって部屋ごと爆破されて死にました。犯人は貴方に恨みが有る人物から依頼を受けた殺し屋です」


 あ〜、納得。昔の仕事で買った恨みか〜。心当たりが多すぎて誰か分からないぞ。


「それで、私は何でこんな所に?いや、それよりも失礼ですがどちら様で?」


 さて、現状が多少分かってきたところで話を進めよう。女神っぽい雰囲気をしていますが本当に女神様で?コスプレした悪魔だったりします?


「話が早くて助かります。私は女神。女神アルテシアと言います。今回はあなた方にお願いがありまして此方に呼ばせていただきました」


 あ、やっぱり女神様ですか、そうですか。と言うかあなた『方』?

 もう一度周囲をキョロキョロ見るが誰もいない。


「ここには貴方の他に誰もいませんよ。貴方を含めて全員で100人います。他の人には順番にお話しさせてもらっています。貴方で丁度30人目です」


 100人ね。そんなに死者を集めて何がしたいのやら。


「早速ですが本題に入りたいと思います。あなた方には別の世界に行って、そこで魔王と呼ばれる存在を倒してほしいのです」


 魔王ってそんなゲームみたいな。


「受けていただけるのでしたら新しい身体を用意して新しい人生を贈りましょう」


 あー、そりゃあ魅力的で。


「断ったら?」


「何も。ただ輪廻の輪に戻り、魂を漂白し、世界に還元されるだけです」


 選択肢はあって無い様な物で。


「分かりましたよ、その依頼お引き受けしますよ。……と言いたいところですがね、残念ながら私は多少荒事には慣れていますがね、いくら何でも手ぶらで放り込まれて魔王を退治しろとか、難しいと思うんですがね?」


 私は両手をあげて無理ですアピールをする。


「そこは心配ありません。新しい身体ともう一つ、各々にあった特殊な能力を付けさせてもらいます。更に何かしらの転生特典をつけさせてもらいます」


 その能力を駆使して魔王を倒せと。


「分かりました。今度こそその依頼お引き受けしますよ」


 まあ、このまま消えて無くなるよりは良いだろう。

 受けた仕事もやるだけやってみよう。


「貴方の選択に感謝を。それではこれより貴方の魂を異世界アイネアースへと送ります」


「いきなりだな‼︎もうちょっと色々聞きたいのですけどね⁈」


 事前に現地の情報を知って起きたいんですけど!


「まだ他にも大勢いるのでテンポよく行きたいと思います。ご了承下さい」


 事務的だな!おい‼︎さっさと終わらせたいと言う本音が透けて見えるぞ!30人目とか言っていたし後70人、早く処理したいのは分かるけども⁈


「最初に行く場所は皆さん別々の場所になります」


「いや、あの、ちょっと」


「それでは元殺し屋、斎賀 五郎左衛門さん、ご武運を」


「話を聞いてくれませんかねぇー‼︎」


 あとその名前で呼ぶなー!







「ちくしょう」


 あの後急に眠気が襲ってきて気がつくと見知らぬ場所に寝っ転がっていた。

 目の前には大きな湖があり周囲には鬱蒼とした森が広がっている。

 他に目立つ物は無く周囲の状況は木々に視界を塞がれてよく分からない。


「兎に角、先ず……は……」


 さっきも思ったが


「なんか、視点、低くね?」


 自分の手を見る。細い、小さい。嫌な予感がする。

 湖の方まで行く。湖面に写る自分を見てみる。

 女神と同じ金髪碧眼。長い髪を腰のあたりで一纏めにしている。顔は童顔で整っている。と言うか少女の顔にしか見えない。謂わゆる男の娘と言う奴か。女神の趣味か?

 他に特徴的なのは歯がギザギザで尖っていて肉食獣みたいだ。目つきは鋭く、瞳には光が無い。そのせいでサメやハイエナの様な印象をうける。

 服装は先程までと同じ短パンTシャツだ。サイズが合ってないせいでダボダボだ。

 立ち上がって自分の全身をよく見てみる。身長は140センチ台だろうか?大分小柄だ。手足は細くやっぱり少女にしか見えない。


 まぁ、新しい体を貰えただけでもヨシとしよう。贅沢言っても始まらない。そもそもどうしようもない。


「まぁ、仕方ない。切り替えていきましょうか。それで他には……」


 周りを見回して見る。金属製のヘルメットが落ちている。拾ってクルクル回して見てみる。すると中に文字が書いてある。


『転生特典』


 ……えっ?コレだけ⁈


「ふざけんなぁ‼︎」


 地面にヘルメットをたたきつける。地面の石にカンッと音をたててぶつかる。

 いや、有難いよ?安全は大事だよ?だけどさぁー、もっと何かあるでしょうよ?


 いや、まだだ。まだ特殊能力とやらがある。とは言えどうやって使うんだ?何かないか?特殊能力が分かるもの。

 そうして体中を探しているとズボンのポケットからメモが出てきた。

 なになに


『能力その1 ピースメイカー

 リボルバー拳銃を召喚します。弾は6発で一晩眠れば使用した分だけ補充されます。


 能力その2 マール・ボロ

 タバコを召喚します。召喚できる種類は今まで吸った事がある物に限定。召喚できる本数は1日一本。吸いすぎは身体に毒です。自重しましょう。


 能力その3 ザ・ハット

 ピザを召喚します。召喚できる種類は今まで食べた事がある物に限定。召喚できるのは1日一枚まで。ピザばかりでは健康によくありません。バランス良く食べましょう』


「ふざけんなぁ‼︎」


 持っていた紙を引き裂く。


「こんなんでどうやって魔王と戦えってんだ‼︎最初の以外戦闘で使えないじゃないか!」


 唯一の戦闘向けの能力のその1も1日6発限定。魔王とやらがどれほどかは知らないが無理無理。


「あーもう、仕方ない。切り替えていきましょう。魔王だ何だは後で考えるとして先ずは現状把握の続きですよ」


 そう、先ずはこの森を出て人里を探さなければ。とは言えこの湖が森の何処くらいの位置にあるかも分からないし、先ずは拠点作りと水と食料の確保、そして周囲の探索だ。


「とは言っても食料は何とかなりそうですけどね」


 さて、どうやって能力とやらは使うのか?とりあえず能力名を言ってみるか。


「ザ・ハット」


 すると目の前にデリバリーの箱に入ったピザが音もなく出現した。イメージした通りシーフードだ。


「おおー、すげ〜。しかし……」


 すっごく抵抗感がある。ついさっきピザ食おうとして死んだ身としては物凄く抵抗感がある。


「とは言えコレしか選択肢がないしなぁ〜。異世界の動植物なんて何が毒があるかなんて分からないし」


 案外便利だなこの能力。当たりかハズレかで言えば間違いなくハズレだが。


 次に飲み水だが目の前の湖の水をそのまま飲むのは怖い。腹をこわしそう。せめて煮沸しよう。なので先ずは周囲を探して枯れ木や落ち葉を拾い集める。

 次に地面を掘り周囲を石で囲って竈を作る。


「ピースメイカー」


 能力名を言うと目の前に今度はリボルバーの拳銃が現れる。

 シリンダーから銃弾を1つ取り出し頭を地面にさして半分くらい埋める。

 次にピザの箱の湿気ていない部分を千切って銃弾の回りに敷き詰める。

 そうしたら銃弾の尻を銃のグリップで思いっきり叩く。

 パンッと言う音と共に火花が飛び散り紙に引火する。枯葉や木の枝を追加しながら火を大きくしていく。

 先程のヘルメットに水をくみ、木の枝でぶら下げて火の真上に置く。本来の使い方とは違うが他に容器になりそうな物が無いし仕方ない。


「まぁ、何もしないよりは良いでしょう。生水はちょっと、せめて煮沸くらいしないと」


 案外役に立っているなぁ。能力も特典も。絶対本来の目的とは違うけど。


「さてと」


 お湯を沸かしている横でピザを食べながら今後の事を考える。


 先ずは魔王だが、無理。絶対無理。普通の人間と大差ないなら兎も角、その程度の相手なら態々異世界から人を呼んだりしないだろう。現地住民で何とかしているはず。

 仕方ないので他の人のサポートにまわろう。裏方として働く事にしよう。


 そもそも私は一時期、確かに殺し屋なんてものをしていた。しかし、切った張ったの世界に嫌気がさして逃げ出した人間だ。それが再び魔王を殺せ、などと嫌で仕方ない。しかし、それを踏まえて転生する道を選んだのだ。ここを違えるのは筋が通らないだろう。こんな能力でもやるしかない。


 後は女神からは魔王を倒せとしか言われなかったしそれ以外は実際に見てから考えよう。現状、判断材料がなさすぎて何も思いつかない。


「マール・ボロ」


 タバコを召喚し竈で火をつける。


「フー、美味い」


 しかしあれだ。絵面が良くない。童顔と身長のせいで10代にしか見えない私がタバコを吸っているのは見た目が良くない。

 いや、そもそもこの体は何歳なんだ?0歳?まぁ、深く考えるのはよそう。前世は30代なんだ。問題無いだろう。ないったらない。


 魔王がいるくらいだし魔物もいるのだろうか?

 嫌だなぁ〜。怖いなぁ〜。戦いたくないなぁ〜。面倒だなぁ〜。


 若い頃は血気盛んだったし、他に選択肢も無かったしで殺し屋なんてしていたが、年食って落ち着いてきたら面倒になって逃げちゃったんだよね。そんで貧乏ながらも気楽な隠居生活を送っていたのに。まぁ、結局逃げ切れなかったから今がある訳だが。


「しゃあない。やるだけやって駄目なら他の奴に任せよう。女神も許してくれるだろうよ」


 100人も用意するって事はダメ元で人数用意してるって事だろう。数打ちゃ当たるの精神だ。

 そもそもこのクソ能力だ。大した期待はされていないだろう。


 先ずは今夜の寝床探しだ。野晒しで寝るのはちょっと勘弁して欲しい。

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