第12話 運命の一撃 ―藤吉郎の突撃―

激しい風が戦場を吹き抜け、藤吉郎は汗を滲ませながら、迷いなく敵陣深くへ突き進んだ。足元には倒れた仲間と敵兵の亡骸が横たわり、鉄の匂いと血の臭いが風に乗って漂っていた。彼の耳には、絶え間ない戦いの音、金属がぶつかり合う音、そして兵士たちの叫びが響き続けている。だが、藤吉郎の心には恐れよりも、燃え上がる野望があった。


「ここで俺は何かを成し遂げる――」


彼は自らにそう言い聞かせ、目の前の敵を切り伏せながら、さらに奥へと踏み込んだ。信長の精鋭部隊の中で、藤吉郎は誰よりも勇敢に突撃し、必死に敵の陣を突破しようとしていた。その姿は、既に周囲の兵たちの目に焼きつき始めていた。彼の異様なほどの前進力と大胆さに、味方だけでなく敵兵さえも一瞬、戸惑いを見せる。


今川軍の中には動揺が広がりつつあった。義元を守るための防衛線が次第に崩れ始め、混乱の中、藤吉郎はさらに突き進む。敵の隊列を乱し、突破口を開くその姿は、もはやただの足軽ではなかった。

「この瞬間こそ、俺の名を信長様に知らしめる時だ――」。彼の中には、戦国の世において何かを成し遂げるためには、このような大胆な行動こそが必要だという信念があった。


藤吉郎が切り倒した敵の一人が倒れると、その後ろに見慣れぬ姿が見えた。それは、今川義元の近衛兵であろう、重装備の武士だった。彼は目の前の兵士を一瞥し、藤吉郎に向けてゆっくりと歩み寄る。相手は経験豊富な武将だろうか、藤吉郎の若さと無鉄砲さを試すかのように、冷静な動きで間合いを詰めてきた。


「ここで引くわけにはいかない――」

藤吉郎の心は一瞬も揺らがなかった。今こそが、彼の人生を変える一撃を放つ時だ。剣をしっかりと握りしめ、相手の動きを見極めながら、藤吉郎は突撃の体勢を整えた。敵の武士はその瞬間を見逃すまいと、鋭い一閃を繰り出す。しかし、藤吉郎は瞬時に身をかがめ、その刃をかわした。すぐさま反撃に出る藤吉郎の剣は、驚くほどの速さで相手の鎧を捉えた。


「これで終わりだ――」


敵の武士が倒れ、藤吉郎はその場で大きく息を吐いた。自分が生き延びたという実感と共に、彼の胸には達成感が押し寄せてきた。この戦場で、生き残るだけでなく、自らの手で何かを成し遂げた――その事実が、彼の中に確固たる自信を植えつけたのだ。


藤吉郎は立ち止まることなく、戦場の激しさに身を投じていた。激しく打ち鳴らされる鼓動は、恐怖を超えて高揚感に変わっていた。敵陣の深部にまで突き進み、目の前に広がる今川義元の本陣を見据える。今こそ、自分が成すべきことが明確になった瞬間だった。


「この戦場で、義元の首を取る。それが俺の運命だ!」


自らにそう言い聞かせ、藤吉郎は敵兵たちを次々と斬り伏せていく。信長軍の突撃によって、今川軍は徐々に崩壊しつつあったが、義元を守る最精鋭部隊は未だ健在だった。彼らは、藤吉郎のような足軽には到底勝ち目がない相手だ。しかし、藤吉郎には確信があった。このまま命を賭けて戦い続ければ、義元の首にたどり着ける――そして、それが自分の名を天下に知らしめる唯一の方法だと。


周囲では、信長軍が勢いを増していた。藤吉郎もその流れに乗り、戦場を突き進む。敵兵の防御が緩む瞬間を狙い、一気に突撃し、次々と倒していく。目の前には無数の刃が迫り、命がいつ尽きるか分からない状況だったが、彼の心は一瞬たりとも揺るがなかった。


「ここで退くわけにはいかない。俺の名を、この戦場に刻むんだ!」


敵兵が次々に倒れる中、藤吉郎はついに義元の本陣近くまで到達する。周囲の兵たちは義元を守るため、必死に防衛ラインを張っているが、藤吉郎はそれを突き破る勢いで突撃を続けた。義元の姿が徐々に近づいてくる。彼の鎧が夕陽に照らされ、まるで黄金に輝くように見えた。


その瞬間、義元の近衛兵が藤吉郎の進路を塞いだ。彼らは義元を守るため、命を惜しまず戦う精鋭中の精鋭だ。武具も鎧も、藤吉郎の簡素な装備とは比べ物にならない。だが、藤吉郎は動じなかった。彼の心には一つの目標――義元の首を取るという野望があり、そのためなら命を惜しまなかった。


近衛兵の一人が藤吉郎に向かって猛然と斬りかかってきた。鋭い剣が藤吉郎の肩をかすめ、痛みが走る。しかし、彼はその痛みに耐え、瞬時に反撃を仕掛けた。藤吉郎の剣は、相手の鎧の隙間を見事に捉え、その兵士を倒した。


「もう少し……義元まで、あと少しだ!」


藤吉郎は自分に言い聞かせ、さらに前進する。周囲には義元を守る兵士たちが次々と立ちはだかるが、藤吉郎は彼らをすり抜け、義元に向かって突撃を続けた。彼の瞳には、義元の首以外何も映っていなかった。


やがて、藤吉郎は義元の本陣の直前にたどり着いた。義元の姿は、藤吉郎の目の前にあった。目の前にいるのは、織田信長と天下を争う宿敵、今川義元その人だ。彼の顔には動揺の色が見える。自らの本陣がこれほどまでに深く突かれるとは、予想外だったのだろう。


「今だ――」


藤吉郎は、全ての力を振り絞って義元に向かって突進した。彼の剣は、義元の近くまで迫る。だが、その瞬間、義元を守る最後の兵士が立ちはだかった。藤吉郎はその兵士を斬りつけたが、すぐに次の兵士が立ちはだかる。義元を目前にしながら、藤吉郎は再び命がけの戦いを強いられていた。


「これで終わりだ……!」


藤吉郎は、ついに義元の近くに到達し、剣を振り下ろそうとした――その瞬間、別の敵兵が横から突進してきた。藤吉郎は反射的にそれをかわし、相手の攻撃を避けたが、その一瞬の遅れが決定的なものとなった。


義元は、部下たちに守られながら、急ぎ本陣を離れ始めた。藤吉郎は、その光景を呆然と見つめた。あと一歩のところで、義元を逃がしてしまったのだ。


しかし、藤吉郎の中には絶望よりも、激しい闘志が湧き上がっていた。彼はすぐに状況を立て直し、さらに義元を追いかけようと決意する。


藤吉郎は激しい戦場の中、義元の本陣に迫りつつあった。剣を振り抜き、次々と敵を斬り伏せながら、彼の目はただ一点、今川義元の姿に向けられていた。義元をこの手で討ち取れば、名を上げる大きなチャンスが訪れる――そう信じていた。


だが、その瞬間、藤吉郎の耳に聞こえたのは、別の武者たちの怒号と武器のぶつかり合う音だった。彼が義元にあと少しのところまで迫ったその刹那、他の武将が先に義元に到達し、その首を討ち取ったのだ。藤吉郎は、義元の首を手にしていない自分に一瞬虚しさを感じた。


「俺が……もう少し早ければ……」


悔しさが胸を締め付けた。しかし、それでも藤吉郎はただ立ち尽くすことなく、残った敵を次々に倒していった。戦場では、義元の首が取られたという報せが広まり、今川軍は総崩れとなりつつあった。藤吉郎も戦線を離れ、味方陣地へと戻る決意を固めた。


「義元を討ち取ったのは俺ではないが、この戦での働きは、必ず認められるはずだ。」


その信念を胸に、藤吉郎は最後まで戦場で奮闘し続けた。


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戦いが終わり、戦場には静寂が戻っていた。桶狭間の戦いでの織田信長の勝利は、圧倒的な戦果として語り継がれることとなった。藤吉郎は、義元を討ち取ったわけではなかったが、その働きが認められ、ついに信長の元へと呼ばれることになった。


信長の陣中に入った藤吉郎は、緊張と期待が入り混じる心境だった。これまでただの足軽として戦場を駆け回っていた自分が、いよいよ主君である信長と顔を合わせる時が来たのだ。戦場で命を賭けて戦い抜いたその姿が、ついに信長の目に留まった。


信長の前に立つと、彼の鋭い目が藤吉郎をじっと見つめた。その目には冷静な判断と、激しい情熱が宿っていた。藤吉郎は一瞬で、信長という男がただ者ではないことを理解した。彼の前で言葉を失いそうになりながらも、藤吉郎は必死に冷静さを保とうとした。


「お前が、藤吉郎か。」


信長は短く問いかけた。藤吉郎は、すぐに膝をつき、頭を下げた。


「は、はい。藤吉郎でございます。」


信長は、しばらく沈黙していたが、やがて微かに笑みを浮かべた。


「この戦での働き、見事だった。義元の首は取れなかったが、お前の勇敢な行動が、我が軍を助けたのは確かだ。お前のような者は、俺の元で力を尽くしてくれるだろう。」


その言葉に、藤吉郎の胸は歓喜で満ちた。自分の働きが、信長に認められたのだ。この戦場での努力が報われた瞬間だった。


信長はさらに続けた。


「藤吉郎、お前には俺の元で小者(こもの)として仕えてもらう。」


「小者……でございますか?」

藤吉郎はその言葉に一瞬驚きを隠せなかった。小者とは、主に雑用を行う下働きの奉公人で、武功を立てた者が望むような役職ではない。しかし、信長に仕える機会が与えられたことは、藤吉郎にとって大きな意味を持っていた。たとえ小者であろうと、ここから彼の出世が始まるという確信が、藤吉郎の心にあった。


「俺の元で学べ。今は小者としてだが、お前の力がもっと必要な時が来るだろう。期待しているぞ、藤吉郎。」


信長の言葉に、藤吉郎は感謝の念を込めて深く頭を下げた。


「はい、信長様。必ずや、期待に応えてみせます。」


藤吉郎は、これが自分にとって最初の一歩であることを理解していた。戦場で名を上げたが、それだけでは十分ではない。これから信長の元で、自らの力をさらに磨き、いつか大きな役割を果たす日が来ると信じていた。


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その後、藤吉郎は信長の小者として働き始めた。雑用や使い走り、兵士たちの世話など、戦場での活躍とはかけ離れた日々だったが、藤吉郎は決して怠けなかった。むしろ、その雑務の一つ一つを丁寧にこなし、周囲の人々からも信頼を得ていった。


信長の側で働くことで、彼の人となりや考え方を少しずつ学ぶことができた。信長がどのようにして戦略を練り、どのように部下を扱うか、その全てを目にすることができる位置にいることが、藤吉郎にとって大きな財産だった。


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選択肢


1. 藤吉郎は、信長の元で小者としてさらに努力を重ね、内政や家中での働きに力を尽くす道を選ぶ。

- この選択では、藤吉郎は小者としての役割を真摯に受け入れ、内政や家中の雑務を通じて信長にさらに信頼される存在を目指す。戦場以外での活躍も増え、信長の側近として成長する道を歩む。


2. 藤吉郎は、戦場でのさらなる武功を目指し、再び戦に出ることを志願する。

- この選択では、藤吉郎は小者としての仕事をしながらも、再び戦場で名を上げることを志願する。さらなる武功を立てるために、戦に出る機会を狙う道を選び、戦国の荒波の中で成長する。


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応援コメントでの投票のお願い


読者の皆さん、藤吉郎の運命を決めるのはあなたです!

翌日7時までに応援コメントで選択番号を記載してください。藤吉郎が小者としての仕事を極め、信長の側近として成長するのか、再び戦場での武功を目指すのか――その決断は、あなたの手に委ねられています!


次のシーンは、明日17時に投稿されます。藤吉郎の運命がどのように展開するのか、ぜひご参加ください!

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