(4人声劇台本)「花の香遠く、風は吹く」
深海リアナ(ふかみ りあな)
【花の香遠く、風は吹く】(4人声劇台本)
上演時間:約30分 女4名
千里香(せりか)⋯謙虚で大人しめな女性。
誰もが虜になる要素を持っている。
楓(かえで)⋯周りをよく見ている皆の姉的存在。
大学に通う傍ら、執筆活動に勤しむ。
菜乃花(なのか)⋯可愛くて少し子供っぽい。
家がフラワーショップを経営している。
由貴(ゆき)⋯中性的な見た目でクールな性格。
病院の看護師をしている母を持つ。
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由貴
「(N)皆が彼女を好きになる。
たおやかで笑顔が柔らかく、彼女はいつもどこか
かぐわしい花の香りを纏っていた。
誰もが一度は振り返り、その美しさで
道行く人を虜にしていく⋯そんな女性だった。
私の心を奪ったその彼女の名は⋯」
由貴「千里香!」
千里香「由貴。あなたも今行くところ?」
由貴「そ。良かったら一緒に⋯」
千里香「(被せて)ねぇ、一緒に行きましょ。」
由貴「⋯⋯!うん!」
千里香「菜乃花と楓は⋯もう来てるかしら。」
由貴「そうだな、もう来てると思うよ。
2人とも、千里香のこと大好きだからね。」
千里香「きっと由貴にだって会いたがっるわよ。」
由貴「ん⋯そうだね。」
千里香「でも本当に久しぶりよね。高校卒業してから
皆大学や仕事が忙しくて
なかなか会えなかったんだもの。」
由貴「私と千里香は路線が一緒だから、
ちょくちょく会ってたけどね。2人とも元気かなぁ。」
千里香「全然違う人になってたら、私戸惑うかも。」
由貴「あはは、大丈夫だよ。
見た目が変わってもあの子たちはあの子たちだよ。」
千里香「そうよね。」
由貴「(N)千里香、楓、菜乃花、そして私の4人は
高校で出会い意気投合して、
いつも一緒に行動を共にしていた友達同士。
今日はたまたま4人の休みが重なったので久しぶりに
会おうということになった。
パッと見は仲のいい4人組⋯だけど私たちの関係は
少し特殊でそれを千里香だけは知らない。
千里香を抜かした私たち3人は⋯彼女に魅せられた、
いわゆる同士だ。ただ⋯きっと私の気持ちは
楓と菜乃花とは、少し違う。これは私だけの秘密。」
千里香「由貴?」
由貴「え?」
千里香「どうしたの?ぼーっとして。」
由貴「あ⋯なんでもない。」
千里香「何でもなくないでしょ?
明らかに何か考え事してたじゃない。
そういうの、由貴の悪いとこ!」
由貴「本当に何でもないってば。」
千里香「なんか、顔赤くない?もしかして恋煩いとか!」
由貴「ばっ⋯⋯そんなわけないだろ!」
千里香「だってもういい大人だもの。
恋人の1人や2人居たっておかしくないんだから。」
由貴「そういう千里香はどうなんだよ。その⋯
恋人の1人や2人⋯いたりして。」
千里香「ふふふ、さぁどうでしょう。」
由貴「あ、ずるいぞそれ!」
千里香「あはははは!」
菜乃花「せーりかっ!久しぶりぃ!」
千里香「菜乃花!」
楓「楽しそうね、混ぜてくれない?」
由貴「楓も!」
千里香「2人とも変わらないわね。会えて嬉しいわ!」
楓「由貴、千里香、久しぶり。2人も卒業の時のままね。」
菜乃花「えー、そうかなぁ。
千里香は⋯また綺麗になったね!」
千里香「そんな事ないわよ。」
由貴「いや、私もそう思うよ。」
千里香「由貴まで⋯」
楓「ふーん?」
由貴「なんだよ。」
楓「よく会っててもそう感じるんだ。」
由貴「何ニヤニヤしてんだよ!」
楓「別に?」
由貴「気持ち悪いなぁ!」
楓「ふふふ。」
千里香「何の話?」
由貴「いや何でもないよー?こっちの話!」
菜乃花「え、何?」
楓「菜乃花はそのままでいなさいね。」
菜乃花「えー?」
由貴「さて、どうしよっか。その辺のカフェにでも入る?」
楓「そうね、色々皆の話も聞きたいし。」
菜乃花「あたし、喉カラカラ~!なんか飲みたーい!」
由貴「じゃあ少し歩こっか。千里香?」
千里香「え、あ、何?」
菜乃花「やだ、千里香また男の人に声掛けられてる~!」
千里香「(男の人に)あ、ごめんなさい、
今から予定があって⋯」
由貴「お兄さん、ごめんね。
この子こういうのダメなんで。行こ、千里香。」
千里香「え?えぇ。」
(間)
菜乃花「ねぇ、由貴ぃ!早いよぉ、待ってよぉ!」
由貴「⋯⋯⋯。」
菜乃花「待ってってばぁ~!」
楓「由貴。」
由貴「⋯⋯。」
千里香「由貴⋯痛い⋯。」
由貴「⋯ごめん。」
千里香「何か⋯怒ってる?」
由貴「怒ってない。」
菜乃花「うっそだ~、怒ってるぅ!」
由貴「怒ってないってば!」
菜乃花「ひっ!」
楓「由貴、菜乃花に当たるのはダメ。」
由貴「はい⋯。」
千里香「怒ってる⋯わよね?」
由貴「怒ってるよ!」
千里香「私、何か怒らせるようなこと⋯」
由貴「千里香はっ⋯!⋯千里香は自覚なさすぎなんだよ。
危なっかしいというか⋯放っておくといつもこうだ。
自分がどれだけ人を惑わせる人間か、
いい加減理解しろよ!」
千里香「人を惑わせるだなんて⋯
そんな大層な人間じゃないよ、私。」
由貴「見てらんないんだよ!私の身にもなれ!」
千里香「ごめんなさい⋯」
楓「はい、ストップ。由貴、落ち着いて。」
由貴「あ⋯」
菜乃花「怖いよ由貴。どうしたの?」
由貴「マジでごめん。」
楓「由貴は千里香が大事なのよね。それはわかる。
でもちょっと言い過ぎたわよね。」
千里香「由貴⋯私の事心配してくれてたのに、
私鈍くて⋯ごめんね、ありがとう。」
菜乃花「あたしも!あたしも千里香のこと
大事に思ってるよ!本当だよ!」
千里香「菜乃花⋯。⋯うん。」
楓「とりあえずここに入ろうか。」
菜乃花「わぁオシャレなカフェ!」
由貴「そうだね。頭冷やすよ。ごめん千里香。」
千里香「うん。」
(カフェにて)
楓「私は紅茶、ストレートで。」
千里香「あ、私も同じで。ミルクと砂糖付けてください。」
菜乃花「オレンジジュースひとつ!」
由貴「コーヒー、ブラックで。」
菜乃花「ねぇねぇ、皆最近どうしてた?
あたしはねー、うちのフラワーショップにすっごい
綺麗な子が入ったんだよぉ!
ま、千里香には敵わないけどねー!」
千里香「菜乃花の家のお店、雰囲気がいいから店員さんも
素敵な人でしょうね。でも後半はその人に悪いわよ。」
菜乃花「えー、本音なのになぁ。」
楓「私は相変わらず大学と 家で執筆の繰り返しよ。
早く賞を取りたいからね、出掛けるのは今日が久々。
声かけてくれた菜乃花に感謝しなきゃね。」
菜乃花「えへへー。」
楓「由貴と千里香は結構頻繁に会ってたのよね。」
千里香「そう、お互い仕事がない日はわりと頻繁に。」
由貴「まぁね。声かけるのは私の方が多いかな。」
千里香「えぇ?そんなことないでしょう?私だって⋯」
由貴「そうだったっけ?」
千里香「んもぉ、由貴ってばぁ!」
菜乃花「あはははは、
本当に由貴と千里香は仲良いなぁ!妬けちゃう!」
由貴「何言ってんだよ!」
千里香「あら、どうしましょ!ね、由貴?」
由貴「え!?」
楓「由貴は千里香の騎士(ナイト)だものね。」
千里香「あ、そうかもしれない!」
由貴「千里香も、何言ってんだよ。」
千里香「出会った時からそばに居て守ってくれたり
叱ってくれたり、慰めてくれたりしてくれてたものね。」
由貴「恥ずかしいからやめろよ。」
菜乃花「えー、聞きたい!2人の出会い。」
千里香「ふふ、あの日も今日みたいに私が男の人に
絡まれてる時だったかな。」
由貴「おい。」
千里香「いいじゃない。確かその人が私の手を引いて
無理矢理どこかに連れていこうとしたの。その時⋯」
菜乃花「うんうん!」
千里香「その時現れたのが由貴だったわ。
男の人の手を払って『その手を離せ!』って
私を助けてくれたの。」
菜乃花「きゃー!もう王子様じゃーん!」
千里香「それからはもう毎日一緒よね。なんだかんだ。」
由貴「まぁ⋯そうだったような、そうでなかったような?」
楓「照れることないわ、素敵な出会いじゃない。」
由貴「そういう楓はどうなんだよ。」
楓「私?私は⋯クラスで無視されて一人ぼっちだった私に
千里香が声をかけてくれたのよ。
ほら、私何でも知ってるふりしてて浮いてたじゃない?」
由貴「え、虐められてたの?楓。」
楓「虐められてたっていうか、もう空気よね。
いてもいなくてもいい存在の人って 必ずクラスに1人は
いるでしょ?それが私だったの。」
菜乃花「意外~。」
千里香「私は⋯ただ、大人っぽい人だなぁ、お近付きに
なりたいなぁって思って声をかけただけなんだけどね。」
楓「え、そうだったの?やだ⋯照れちゃうな。」
由貴「楓が照れてる⋯。」
楓「はい、私のことはもう終わり!菜乃花は?」
菜乃花「あたしは、自分から声掛けに行ったんだよ!
わぁ~、綺麗な人がいる~って。近づいたら⋯
なんかいい匂いがするし、憧れだったの!」
千里香「私は、なんて明るくて可愛らしい子なんだろうって思ったのが第一印象よ。それは今も変わらない。」
菜乃花「わぁ、嬉しい~!千里香好き~!」
千里香「ふふふ、私も。」
由貴「私たちは、千里香を中心に集まった奇跡の関係
なんだよなぁマジで。それまでは全然面識なかったのに、
いつの間にか皆で一緒にいるんだ。そして今も。」
楓「不思議よね。私最初は由貴のことイケメン気取りの
カッコつけだと思ってたもの。」
由貴「ひでーな、おい。」
菜乃花「あたし楓は、千里香と一緒にいるとこ見るまで
知らない子だったよ。あんな子クラスに居たっけって。」
楓「存在すら認識されてなかったのね、私。」
由貴「私は⋯菜乃花ってうるせぇ奴だなって思ってたわ。
意外に常識人で可愛いやつで良かったよ。」
菜乃花「それ、喜んでいいのかな。」
楓「まぁ、皆千里香以外は興味なかったのよね。
でもこんな風に今居られるのはきっと
千里香のおかげなのは間違いないわ。」
由貴「そうだな。」
菜乃花「色んな人が千里香のこと好きな中で
私たちだけこうやって傍にいられるのって幸せな事よね」
千里香「皆⋯。」
菜乃花「ね、じゃあこれからの話をしようよ!
これから皆はどうはありたいか!」
由貴「お、菜乃花にしては真面目な話じゃん。」
菜乃花「どういう意味ー!?」
由貴「あはははは、ごめんごめん。」
楓「私はさっき言ったみたいに小説で賞を取りたいの。
今はそれしか頭にないわ。」
菜乃花「あたし達のことはー?」
楓「ふふ、一緒にいたいわよ?もちろん。」
由貴「私は⋯とりあえず今のバイトで金貯めるかなー。
それ以外のことは それから決める。」
菜乃花「由貴のお母さんて 大きい病院の看護師さんよね?
そっちの道には進まなかったんだ?」
由貴「母親が看護師だからって私まで
そうでなきゃいけない理由はないだろ。
今は夢を探してるの!」
楓「よくお母さんが許したわね。」
由貴「うちの母親、放任主義でさ。
自分のことは自分で決めなさいって。
それが一番難しいんだよなぁ。」
菜乃花「でもいいじゃない!私たちのことも
友達みたいに接してくれるし、フランクで好きだよ私。」
由貴「それ言うなよ絶対。調子乗るから。」
菜乃花「えー?」
楓「千里香は?これからの事とか考えてるの?」
千里香「私は⋯。私も由貴と同じ感じかな。」
楓「意外ね。」
千里香「そうかしら。考えなきゃいけないわね そろそろ。」
由貴「千里香?」
千里香「あ、菜乃花は?やっぱり自分の家のお店継ぐの?」
菜乃花「そうだなぁ⋯そのつもりなんだけど。
そうなるとお婿さん、もらわなきゃかなぁ。
結婚⋯したくないなぁ⋯。」
楓「好きな人とかいないの?」
菜乃花「いるよ?だけど⋯」
楓「どうしたの?」
菜乃花「なんか恥ずかしいからあたしの話は終わり!」
由貴「えー?自分で振った話なのに?」
菜乃花「閉店ガラガラー!」
由貴「菜乃花が言うとなんか違う意味に聞こえる!」
楓「ほとんど由貴の話だったわね。」
由貴「皆、なんかズルくない?」
楓「皆色々あるのよ、きっと。」
千里香「そうね、色々⋯あるわよね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
楓「皆、今日はありがとう。楽しかったわ。
私はこっちだからまた。」
菜乃花「また近いうち集まろうよ!由貴ばっかり、
美味しい思いはさせないんだからね!」
由貴「なんだよそれ。じゃあ私たちも行こうか、千里香。」
千里香「えぇ、今日はありがとう皆。またね。」
楓「(口々に)それじゃあね。」
菜乃花「(口々に)また今度ねー!」
由貴「(口々に)またな。」
千里香「由貴、私たちも電車来たみたい。行きましょ。」
由貴「わかった。」
千里香「何だか寂しいわね、2人がいなくなると。」
由貴「んー⋯まぁ、そうだな。」
(暫く沈黙)
千里香「ねぇ、由貴。」
由貴「ん?」
千里香「私ね⋯。⋯なんでもない。」
由貴「どうした?」
千里香「ううん。」
由貴「なんだよ。」
千里香「また話すね。」
由貴「おぅ。」
由貴「(N)千里香と別れたあと。
総合病院の看護師をしている母から、
千里香が入院したという話を聞かされたのは
ほんの数日後の話だった。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(SE:着信の音)
由貴「菜乃花。⋯もしもし、菜乃花?」
菜乃花「ねぇ、あれどういうこと!?
メッセージの⋯千里香が入院したって⋯!」
由貴「私も母に聞かされて、細かいことは知らないんだ。
だから今度千里香のお見舞いに行こうと思って。」
菜乃花「いつ行くの!?楓も知ってる?」
由貴「楓にもメッセージ送ったよ。
お見舞いは18日に行こうと思ってる。」
菜乃花「あたしも行きたい!あ⋯ダメだ。
その日うちの店のイベントで抜けられない⋯」
由貴「また今度ゆっくり行ってあげて。
私はその日じゃないとバイト休めないから。」
菜乃花「わかった、そうする。千里香によろしくね。」
由貴「了解。」
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(SE:病院の廊下を歩く音)
由貴
「菜乃花に頼んだ花⋯ちょっと派手すぎないか?
これ持ってったら千里香なんて言うかな⋯。」
「えーっと⋯B-201号室⋯あ、ここだな。」
「千里香?見舞いに来た⋯よ⋯。」
楓「(囁く)⋯千里香⋯。」
(寝ている千里香にキスをする楓)
(花を落とす由貴)
楓「(ハッと気づく)」
由貴「かえ⋯で⋯?今⋯千里香に何して⋯」
楓「⋯⋯⋯。」
由貴「楓!」
楓「大きな声出さないで。キス⋯していたのよ。千里香に」
由貴「何で⋯。」
楓「好きだからよ。」
由貴「いつから⋯」
楓「出会った時から。」
由貴「だからって寝ている千里香に何してんだよ!」
千里香「ん⋯由貴⋯?どうして⋯あ、楓も。
⋯来てくれてありがとう⋯どうしたの?2人とも。」
由貴「ごめん、何でもないよ。調子どう?
入院するって母に聞いた時はびっくりしたよ本当に。」
楓「どこか、悪いの?」
千里香「隠してたのにバレちゃったね。
実はあんまり⋯心臓よくないの。それで⋯。」
由貴「だから高校の時、よく体育休んでたんだ⋯。」
楓「なんで気づかなかったのかしら。」
千里香「ごめんね、内緒にしてて。心配かけたくなくて。
それよりさっき、由貴大きな声出してなかった?」
由貴「それは⋯」
楓「『千里香!大丈夫か!』って言って入ってきたのよね」
由貴「(楓を睨んで)あぁ、そうだよ。」
楓「今は落ち着いてるの?平気?」
千里香「ん、今日は調子いいの。」
楓「安心した。長居するとつかれるでしょうから
私たちはお暇するわね。」
由貴「は?」
楓「由貴、私に聞きたいこともあるみたいだし。」
由貴「あぁ、そうだな。ごめんな千里香。
花、持ってきたのに落としたんだ。
ちょっと花びら散っちゃったけど。」
千里香「ありがとう。もしかして菜乃花のとこの?」
由貴「そう。菜乃花、フラワーショップのイベントで
抜けれないらしくて。また今度来ると思う。」
千里香「菜乃花にもよろしく言っておいて。
今日はありがとう。」
由貴「あぁ、お大事に。」
-病院の外-
(SE:鳥の声)
楓「話の続きをしましょうか。
私に聞きたいことがあるでしょ?」
由貴「あるね。千里香が好きって言ったよな。
本気で千里香を想ってるなら何であんなことしたんだ。」
楓「本気で好きだからよ。由貴が思う以上に、
私は千里香を好きってことだわ。」
由貴「本気で好きなら順番があるだろ!。
気持ちを告げることも出来ないで⋯
千里香が知ったら悲しむとか思わないのかよ!」
楓「なぜ由貴がそんなに激怒するのか
当ててあげましょうか。それはあなたも千里香を
本気で好きだから。ちがう?」
由貴「!」
楓「由貴の気持ちなんてずっと前から気づいていたわ。
だって私と同じ表情をしてたんだもの。」
由貴「あぁ、好きだよ。だから何だよ。」
楓「気持ちを告げることが出来ないのは
由貴も同じでしょ?
自分のことを棚に上げて偉そうな事言わないで。
あなたのはただの嫉妬よ。」
由貴「そうだよ、でもそれとこれとは別の話だろ。」
楓「いいえ、同じよ。嫉妬するってことはつまり、
あなたも同じ事を千里香にしたいと思っていたって事よ」
由貴「何言ってんだよ!私は純粋な気持ちで千里香を
好きなんだよ。お前と一緒にするなよ!」
楓「いいえ。
私が千里香にキスしたようにあなたも⋯。」
菜乃花「今の⋯どういうこと?」
由貴「⋯!菜乃花⋯。なんでここに。」
菜乃花「イベント、思ったより空いてて⋯
抜けさせてもらったの。
ねぇ!それより今のどういうこと!?」
由貴「菜乃花。」
楓「そういうことよ。」
菜乃花「聞いてない!
楓も由貴も、千里香を好きだなんて聞いてない!!!!
キス⋯したって⋯嘘よね。あたしの千里香に
そんなことしてないよね!」
由貴「菜乃花⋯だって好きな人いるって⋯。」
菜乃花「声かける前から好きだったもん!
あたしだって千里香を好きなんだもん!
除け者にしないでよ、2人とも酷い!」
由貴「なんだ⋯これ。」
楓「誰が1番千里香を好きか⋯なんて不毛な闘いだわ。
私たち⋯もう一緒には居られないわね。」
由貴「⋯そうだな。」
菜乃花「(泣いている)」
由貴「けど、私は楓がした事許さないからな。」
楓「どう許さないのかしら。私に何かするつもり?」
由貴「どうもしないよ。
ただ、私は楓とは違うってことを
証明してみせるだけだ。」
楓「どうやって?」
由貴「私は千里香に好きだってちゃんと伝える。」
楓「そう、いいんじゃない?」
由貴「2人はどうするんだよ。」
菜乃花「伝える。
今まで伝えてきた好きは本気なんだって
分かってもらいたいもん。」
楓「私は⋯負け戦はしない主義なの。だからせめて
一度だけって⋯そう思ってたのに。よりにもよって
由貴に見られて こんなことになるなんてね。
結構好きだったわよ、この関係。」
由貴「私もだよ。」
菜乃花「さよならだね。」
由貴「ん⋯。」
由貴「私はもう一度病室に戻る。菜乃花と楓はどうする。」
菜乃花「あたしは⋯
強引に抜けさせてもらったから戻らなくちゃ。」
楓「私は帰るわ。」
由貴「そっか。それじゃ。」
楓「由貴。」
由貴「なに。」
楓「私の分まで想い、伝えてきてね。」
由貴「⋯⋯。じゃあね。」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(SE:ドアノックの音)
由貴「⋯千里香。」
千里香「由貴⋯帰ったんじゃなかったのね。」
由貴「うん。千里香にどうしても伝えたいことがあって。」
千里香「なぁに?」
由貴「私は⋯千里香ことが⋯好きだよ。」
千里香「え⋯」
由貴「ずっとずっと、前から好きだった。」
千里香「⋯私。」
由貴「いいんだ、返事はもう分かってるから。
私が勝手に伝えたかっただけだから。」
千里香「ちゃんと、答えられなくてごめんなさい。」
由貴「分かってたから。ごめんね、じゃあ!」
千里香「あ、由貴!」
由貴
「(M)千里香の呼び止める声も聞かず私は走って帰った。
伝えた⋯!やっと伝えられたんだ!⋯なのに。
心にぽっかり穴が空いたようなこの気持ちは⋯
なんなんだろう。
それから菜乃花や楓とも疎遠になり、
千里香のお見舞いにも行かなくなった。
輝いていた時代は終わったんだと理解した途端、
ポロポロと涙が零れてきた。
開けてはいけないパンドラの箱を開けたのは誰だ。
菜乃花⋯楓⋯それとも⋯私?
そんなのもうどうだっていい。全ては終わったのだ。」
「ある日母から、
一番聞きたくなかった出来事を聞かされた。」
由貴「千里香が⋯死んだ?」
「(M)心臓発作だったらしい。
それを受け止めるにはあまりに突然で、
現実味のない事実に涙すら出なかった。」
由貴「手紙?千里香から?」
「(M)母から渡された千里香からの手紙。
そこには綺麗な文字でこう書かれてあった。」
千里香「由貴へ。あなたが私を好きだと伝えてくれた日。
あなたが帰った後にこれを書いています。
あの時、ちゃんと由貴の気持ちに対する返事が出来なくて
本当に後悔しています。実は由貴が来る前に、
菜乃花から本気で好きだというメッセージを
受け取っていました。彼女のことを思うと、
自分の本当の気持ちを伝えることが出来ませんでした。
けど、今由貴がこれを読んでいるということは、
私はもうこの世に居ないということ。
先が長くないと分かっていた私はこの手紙を
あなたのお母さんに託しました。
だから⋯もう言ってもいいかな。」
由貴「由貴⋯あなたが私も⋯好きです⋯。」
千里香「少しだけの間、私を好きでいて。
そして、次の季節が来たら忘れてください。
どうか、あなたが幸せでありますように。」
由貴「⋯⋯っ、千里香⋯⋯。」
(SE:家のチャイム)
由貴「(涙を拭いて)はーい。」
(SE:ドアが開く)
目を潤ませている楓と菜乃花。
楓「由貴⋯!」
菜乃花「由貴ぃ!」
由貴「楓⋯菜乃花。なんで⋯。」
菜乃花「千里香⋯千里香が⋯」
由貴「⋯うん。」
楓「おば様から聞いたの。それで⋯」
由貴「⋯うん。」
菜乃花「私たち、同士だから⋯だから⋯。」
楓「泣いてるんじゃないかって⋯思っ⋯」
由貴「泣いてるのは菜乃花と楓だろ⋯?」
菜乃花「由貴だってぇ⋯!」
楓「私たちあれから疎遠になってたけど、
やっぱり千里香だけじゃなくて
菜乃花も由貴も好きなの、だから⋯」
菜乃花「あたしも、2人が好きだよ!
千里香を好きな気持ちを分かち合えるのも、
一緒に悲しんだり出来るのも、2人しかいないの。」
由貴「ばかだよ、2人とも⋯!私だって!」
菜乃花「ねぇ、由貴。千里香から手紙貰ってたんでしょ?
おばさんから聞いたの。私たちのこと、何か書いてた?」
由貴「うん、書いてたよ。私たちのこと。」
楓「なんて?」
千里香「それから、私は菜乃花の事も楓の事も
大好きです。どうか私がいなくなっても、
ずっと私の好きな3人であってください。千里香。」
菜乃花「千里香⋯。」
楓「そんなこと言ったら離れられないじゃない。」
由貴「それが千里香の願いなら、私たちは一緒にいよう。」
千里香こと、覚えていよう。
それぞれ好きだった気持ちも、大事な思い出も。」
楓「千里香の笑顔も。」
菜乃花「あの声も。」
由貴「(M)一度は開けたパンドラの箱に
もうひとつ、君がくれた秘密を閉じ込めて、
そっと蓋を閉めた。
きっともう開かないと心に決めて。
千里香が纏っていたあの香りは、
何の花の香りだったのだろうか。
今となってはもう知る由もない。
いつかその花に偶然出会えたら⋯
そんなことを考えながらぽつりと呟いた。」
『私も皆も、ずっと君が好きだよ。』
そんな言葉に応えるように、
ふと肩先を風がかすめた。
[完]
(4人声劇台本)「花の香遠く、風は吹く」 深海リアナ(ふかみ りあな) @ria-ohgami
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