深淵幻想 コールプローラー

コトプロス

第1話 呼ばれたのか?呼んだのか

1話 呼ばれたのか?呼んだのか


 はぁ……やだなぁ………今日は人生の相棒となる使い魔を呼び出す日なんだ。


 使い魔を召喚と言ってもこの世界は異世界ファンタジーとかじゃなくて、普通の現代日本の話なんだけどね?まあありがちなアレだよ。ダンジョンが出来てどうのってアレ。


 んで、そんなダンジョンは実は異世界へのトンネルみてーなもんで、昔ダンジョンを攻略した偉い人が異世界に行ってな、その異世界の偉い人と友好関係を結んだんだ。


 その世界の住人は妖精で、精神的なエネルギーを主食とする存在だったので人間と積極的に関係を結びたかったそうでさ。


 それを聞いた偉い人が国民に妖精と契約をする事を義務付けたんだよ。

 

 そこからが俺みたいなイケてない奴の風当たりが更に強くなってな。


 精神エネルギーの強い奴=我が強い奴な上に、呼び出す人間とある程度考え方や趣味嗜好が近い精霊が召喚に応じるらしいんだ。


 つまり、ヤンチャな奴はさらに力と発言力を手に入れるんだよな。


 何が言いたいって?俺みたいに頭の中で愚痴り続けてる様な奴の所に来てくれる精霊はたかが知れてるだろうし、今後の人生の相棒として上手くやってけるか不安なんだよな……


 あと同じクラスのヤンチャな奴にヤンチャな精霊が付いてヤンチャが加速するのが憂鬱(ヽ´ω`)



◇◇◇



「おーいお前ら席につけ。お前らも高校2年、そう精霊と契約する時がやってきたんだ。だが精霊とは本来〜〜」


 先生がありがたい話をしているが、誰も聞いちゃいないな。

 特に諸合の奴は取巻きの庭院のお坊ちゃまと魚目と3人でデカい声で伝説の精霊を呼び出すだのどうの言っててうるさいのなんの……


 などと考えているうちにクラスごと体育館に移動して召喚装置の前に並ばされる。

 みんな興味津々なのか、それとも装置の放つなんとも言えない圧力の様なものに圧されているのか幾分ボリュームが落ちたが、それでも騒ぐ声は収まらなかった。


 そうこうしているうちに召喚、契約が始まり悲喜こもごもな声が上がる。おい、今召喚した奴、舌打ちとかすんなよ召喚された精霊の方も良い気がしないだろ……いや精霊も舌打ちしてたわ似た者同士になるってのは事実みたいだな。


諸合周防しょごうすおうくん、前へ」


 はぁ、乱暴者な精霊が来るんやろな………


バリバリバリバリヂギヂギヂギヂギ!


 うるさ!!なんだこの音! え?召喚装置から煙が出てる?!

 しばらくして音と煙が収まると装置の真ん中には見ただけで頭がおかしくなりそうなスライムが鎮座していた。表面は油を塗りたくった様に玉虫色にギラギラと光を反射していて、プルプルとしている様子は無性に不安を掻き立てられた。


 そして、諸合のヤツは狂った様に笑い始め辺りは彼の笑い声だけが響く空間と化していた。


「ヒャハハハハハハハ!ヒャハ!ギィーッヒィッヒ!いひゃははははははははははははは!」


 これは様子が可怪しいと、万が一敵対的な精霊が召喚された時の為に配置されている冒険者の2人が彼を連行していく。そんな諸合の後ろを跳ねる様にしてついていく玉虫色のスライム……体育館から彼とスライムの姿が見えなくなると、誰ともなく息を吐く。


「えー、想定外の存在が召喚されて諸合くんは何らかの影響を受けた様です。この様な事は事例が少ないですが無くはありません。しかし皆さん心配しないで下さい。我々はそういう時のノウハウも持っていますので、何も心配は要りませんよ。しかし、機材の交換の為にしばらく休憩にしましょう。皆さんにも落ち着く時間が必要かと思います。」


 そして5分ほどお預けを食らってぼーっとしていると隣の工藤が話しかけてきた。


「おい、さっきのアレはなんなんだろうな?気にならねぇか矢波?」


「まあ……気にならないと言ったらウソだが、人間にもいい奴悪い奴が居るみたいに、精霊にもいい奴悪い奴が居るんだろうよ。悪精なんじゃねぇの?」


「俺んとこには強いとか弱いとかは良いから波長の合う精霊が来てくれたら良いな。カワイコちゃんなら言う事ナシ!」


「人生の相棒って言ってもそういうパートナーじゃないんだから変な事言わないの!」


 後ろから工藤の頭にチョップを落とした女子はそう嗜める。


「やっぱり落ち着いた雰囲気で常にお嬢様に付き従う執事みたいな存在だと良いわねぇ。あんな男みたいに乳や顔で判断するんじゃなくて中身よね。」


「中身だって?蓮見妙子!貴様の様な執事を希望する奴が中身などと!」


 あぁ……また始まったよ痴話喧嘩……犬も食わねぇんだよなぁ



◇◇◇



 落ち着きを取り戻したので契約を再開した体育館。先ほどの事があったからか騒ぐ人間はおらず、粛々と進行していった。


「矢波奥渡くん前へ」


 おぉ……ついに来たか。好奇心と恐怖がない混ぜになった心を必死に押さえつけながら所定の位置に立つと冒険者が機械を作動させる。

 ん?また異音がしないか?何かさっきまでの召喚と違う様な……フッと意識がトぶ。立つのは荘厳なる神殿、居並ぶ異形はその存在にかしづく。玉座に座るそれは姿形からは到底似つかわしくない優しく見守る様な目で俺を見つめている。俺は擦り切れたボロボロの神官服を纏い、歪んだ装飾品を身に着け、捧げる。祈りを、贄を、自我を、捧げる。捧げる。捧げるり、捧ぐ


 ッ!ッハ!


「大丈夫ですか?!」


 気づくと目の前には冒険者の優しげな男性に肩を掴まれ話しかけられていた。

 俺はいったい……何があったんだろうか?メンダコちゃんはわかんないか?


 俺が心の中で問いかけるとプルプルと身体を揺らし否定の意思を伝えてくるメンダコちゃん。


 だよな、メンダコちゃんと会えたからちょっとびっくりしてたみたいだ。今日は帰ったらキミにご馳走を捧げてあげるからね。


「おい矢波、お前の精霊はずいぶん可愛いじゃないか。名前はもう決めてんのか?」


「ああ、工藤。このお方はメンダコちゃんだ」


「そのまんまじゃねぇか。もっとこう固有名詞付けてやれよ」


「メンダコちゃんはどう思う?あぁ、名付けは重要?なら……クーちゃんでどう?気に入った?ありがたき幸せ……」


「なんかお前精霊にずいぶんへりくだって無いか?」


「なんだと?」


「工藤久安くん前へ」


 ちっ!命拾いしたか


 工藤は妖精としてはありがちな火の玉、いわゆるウィスプを召喚した。工藤を後ろからチョップした女子の蓮見妙子は黄色いインコを。


 他にも基本的には小動物の姿を取る存在が次々と生徒と契約をしてこの日は終わった。


 そして、俺たちの平和な日々も





──────────


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