第2話

 ここは柵がないから飛びやすいななんて事を思いながらヘリに立った。


 今日はなんて気持ちがいいんだろう。風も心地がいい。こんな気持ちになったのはいつぶりだろう。


 お母さん悲しむかな? 何も書き残してないけど大丈夫かな?


 でも僕の事はどーせすぐ忘れるか。いなければ心配かけなくて済むし。


 スゥーーーー


 ハァーーーー


「いい天気にいい空気。静かでこんな時にここに来れてよかった。最後にこんなに晴れやかな気持ちになれるなんて、わかんないもんだなぁ」


 そんな独り言をつぶやいて、僕は飛んだ。

 あー短い人生だったなぁー。よーやくこれで終わるんだ。


 僕は笑いながら泣いていた。


 泣いてる自分が面白くて笑っていた。


 まだこんな感情あったんだ最後に気付けて良かったかも……




 ん




 あれ

 まだ屋上にいる。


 たしかに飛んだはずだよな?

 顔が濡れてる。


 さっきの涙だ。

 やっぱり飛んだよな?


 なんだ? 僕は最後におかしくなったのか?



「君はおかしくなってないよ」


「え!? なに!? あ!!!」


 驚き過ぎて足を滑らせて、また落ちてしまった。


 次の瞬間


 また僕は屋上にいた。


 目の前に奇妙な生き物?が飛んでいる。



 なに?


 僕のボキャブラリーのなさには、ほんとに反吐が出る。

 なに? ってなんだよ。


 目の前になんかが飛んでて、2回も屋上に戻ってきてるのに、そんな言葉しか出ない。


「君はいま命を捨てようとしていたの?」

 聞き取りにくい甲高い声が聞こえる


 あーなんだまたイタズラか。

 ラジコンかなんかで飛んでて、マイクで喋ってるんだろう。


 そんな事はバレてるよと思いながらも、長年のイジメを耐えてきたせいか答えてしまった。


「そーだよ全部終わりにしようと思って」


「なんでそんなことするのさ」


 めんどくさいな、お前らが1番知ってるだろ。


「なにもかも嫌になっちゃってね。誰も僕の事は守ってくれない、僕の事は見てくれない、見てくれるのはいじめっ子だけだから」


「そんなことないと思うよ」


「お前になにがわかるんだよ!」

 僕はラジコン相手になに怒鳴ってるんだ。


「じゃあ君の身体を貸してよ」


「だからお前になにが…………え?」


「君の身体をおいらに貸してよ」


「なに?」


「君はもう身体を壊そうと思っていたんだろう? だからその前に、おいらに君の身体を貸してほしいんだ。おいらは人間になるのが好きなんだ」


「何いってんだよ」


「それとも君はまだその身体を使うの?生きる気になった?」


「ふざけんなよそんな手に乗らないよ! 僕はもう死ぬんだ」


「じゃあ貸してよ」


「もううるさいな好きにしろよ! こんな身体どうせいらないから返さなくていい、くれてやるよ! 僕はもうどうせこの世から消えるからな!」


 こんな茶番に付き合ってられるか、僕はもう一度振り返り飛んだ。


 後ろから「ありがとう!!!」と聞こえた。


 その瞬間あたりが眩しくなり目を瞑った。


 目を開けると僕が見える。


「あーやっぱ人間はいいなー! この不自由さが楽しいんだよ」


 目の前の僕が、僕の声で、意味のわからない事を喋っている。


 その後もジャンプしたり走ったりしてる僕を見ながら、しばらく呆然としていた僕は、ようやく声をだせた。


「どーなっ……うわ!?」


 変な声がでて自分で驚いてしまった。


「どーなってんだ!?」


「君の身体をおいらが使うあいだ、君がおいらの身体に入るんだ」


「ふざけんなよ! 僕は消えたいんだよ!」


「まぁまぁいいじゃない。君のその身体は通常人間には見えないから消えているようなもんだよ。」


「僕はなにも見たくないから消えたいんだよ!」


「そしたら目を閉じてじっとしてればいいじゃない」


「ふざけんなよ!」


 と言い終わる前にあいつはどこかに走っていった。


 なんなんだよアイツ…………


 どうしよう…………

 姿は見えないらしいし、これ以上恥かかされたら嫌だし、とりあえず様子見に行くか。

 

 どこいったんだろ?


 すごいな身体が軽いや早いし。ちょっと楽しいかも。



 ーその頃教室ー


「夏樹ちゃーんおーい夏樹ちゃーん、おい! 無視してんじゃねーよ!」


「おいらに話掛けてたのかなんだい?」


「なんだいじゃねぇよ! 俺のことなめてんのかよ!」


「なめてる? 君のことをおいら舐めないよ汚いもん」


「は!? てかおいらってなんだよ!ププッ おい高木聞いたか?」


「聞いた聞いた! めちゃくちゃダセェ! 男らしくしようとしてキャラ変えてきたのかな?」


「ギャハハだとしたら全然できてねー!」


「ようがないなら、おいら行くね」


「は!?てめぇまじで、なに調子のってんだよ!」


「おいら今ワクワクしてるから、君達みたいなツマラナそうなのに、かまってる暇ないんだよ。ごめんね! おーいそっちの君達面白そうなことしてるねー! 何してるのーまぜてー!」


「おい待てよ! ふざけんな!」


 高木が掴みかかろうとした時チャイムが鳴った。


 キーンコーンカーンコーン


「よーし席つけーおい聞こえなかったか髙木早く席つけー」


「くそ! 覚えてろよてめぇ!」


 よーやく見つけた。あいつ教室よくわかったな。

 この騒がしさはどうせあいつのせいだろう。


「なんだ西山早く席つけー! おい西山」


「おいらのことか? 席はどこ?」


 クスクス笑うクラスメイト達


「何だお前ふざけてるのか! 席につくか廊下に立ってろ!」


 あいつなにやってんだよ。

(おいあそこが僕の席だ早く座れ)


「君か! 来たんだね!」


(来たんだねじゃないよ、変な目で見られるから僕と話すな! 早く席につけって!)


「わかったよ!」


 また普通に話してきやがった。こいつ全然わかってないな。


「ここがおいらの席か。よろしくねよろしくね」


 あーまた笑われてる。ずっとそこの席なんだから挨拶なんてすんなよな……




 授業も終わりホームルーム中

(おいホームルームが終わったら、カバンを持って走って学校を出ろ)


「いつ終わるんだい?」


「なんだ西山そんなに早く終わってほしいか」


 担任がそう言うとまた笑われた。


(何回言えばわかるんだよ! 僕と話すときに声をだすなよ!)


「……あ。そーだったそれでいつ終わるの?……」


(チャイムが鳴るから、その時にはこのカバンを手に持って、礼って言われたら走れ。皆が顔上げる前には教室を出るんだ)


「……なんでそんなことするの?……」


 ここまでのこいつを見てきて、普通に言っても聞かないだろうと思った僕は、学校から1番早く帰った人が勝ちという遊びだと言った。


「それはおもしろそうだね!」


「またか西山、今日はやけに喋るな。」

 またクラスの皆が笑った。


 早く終わってくれ…………



 キーンコーンカーンコーン


 今までで1番長く感じたホームルームがようやく終わった。

 ちゃんと言ったとおりにするのかそれが心配だったが楽しそうに走ってくれた。


「はぁはぁはぁはぁあー楽しかったみんな遅いね。はぁはぁ」


(ああそうだな、家に帰るまでも競争だから早く帰ろう!)


「そうなのかなら早く行こう! 君の家はどっちだい?」


 こいつ単純なやつだな。

 そんなことを思いながら道案内をして家についた。

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